53 / 83
第四章 演出家たち
第53話 『城』の秘密
しおりを挟む
「はじめまして、キール公爵閣下。」
ぼくは、精一杯、愛想良く微笑んで見せた。
ヴァルゴールの使徒なら、アキルの仲間だ。ぼくにとっては、身内と言ってもいい。
ただ、永年に渡って、生け贄を要求してきたヴァルゴールの使徒には、とんでもない快楽殺人者も多く、付き合いはけっこう難しいものがあった。
その点、吸血鬼ならむしろ安心だろう。
人を殺すことをなんとも思わない人間は、社会生をおくるのに、本人にも周りにも大きな障害になるが、吸血鬼ならそうでもない。
「…というか、おまえもなんなのだ?」
それなのに、キール公は、気味悪そうにぼくを見る。
「なぜ、わたしを見て怯えない。」
「それはもちろん、恐ろしいです。」
ぼくは。正直に答えた。とは言っても12使徒のなかでは、吸血鬼のほうがましだろうは、あんまりな気がしたので、そこは隠して。
「でも、話さなくちゃいけないこと、やらないともっと恐ろしいことになりますから、しょうがないんです。」
「キール公爵。」
アデルがゆっくりと言った。
「ルウエンがしょうがないと言ったらしょうがないことなんだ。だからまず話をきけ。」
キールの若々しい顔に、苦笑が浮かんだ。
「“黒の御方”と“災厄の女神”の御子は、たしかに王者の風格をお持ちだ。」
「そうかな。」
この言われ方は、納得できなかったのか、アデルは不機嫌そうに、口を曲げた。
「わたしは、あれらのことは、全く記憶にない。」
キール公とアデルが険悪になる前に、ぼくは口をはさんだ。
「アデルは、物心つく前に、両親から離れて、北の地で祖父母に、育てられたんですよ。」
「祖父母?」
「先代クローディア大公陛下と、アウデリアさん。」
ギムリウスとロウを除いた全員が軽くパニックになった。
皿やグラスが割れて、テーブルがいくつか倒れる。
北の狼?
白狼公が!?
アウデリアってあの英雄神アクロディティアの!
ならば頷ける。あの風格、あの佇まい。
どうしよう、俺さっき、目があった時睨んじまった。
ぼくは、すっかり手持ち無沙汰になった式典係から、奉書を受け取った。
ぼくやアデルを『城』の武官としてとりてる旨。ルーデウス伯爵は、ギムリウスの御付き役で、ラウレスは、宮中から学校に通えるように手配してくれていた。
好意でしてくれているのは、わかるが、まったくご褒美になっていなかった。
機嫌が悪い時のギムリウスは、吸血鬼の首根っこなど平気で引っこ抜くし、ラウレスは、屍竜になる前の記憶が、一時的にとんでいるだけで、別に見かけ通りの十歳にも満たない少女ではないのだ。
基本的に超越者の近くに、彼らのいう「試し」が終わっていないものはおかないほうがいいのだ。まったく悪気はなくとも、寝返りをしただけで、踏み潰してしまうかもしれない。
その意味では、「試し」の終わってるぼくか、アデルしか、ギムリウスの側役は無理だ。
一読して、ぼくは書面を式典官に返した。
「これはいりません。それよりこれからの事を話しましょうよ。」
式典官は、見るのも気の毒なほど青ざめた。
無傷で、バルトフェルを奪還し、鉄道公社とも契約を有利にとりつけた、ぼくとアデルを、古株から文句がでない程度に目一杯、優遇する。
あるいはその立案に、式典官自身も参加していたのかもしれない。
それを。
いらないって。
あまりにも失礼な。
「つまり、“黒の御方”と“災厄の女神”が、アデルを取り戻しにきたときの対応、ということか。」
ロウは、面白そうに言った。
ぼくは、式典官の落ち込み用が、あまりに気の毒だったので、ロウが、そう声をかけてくれたのは、ありがたかった。
「ここは、貴族の集まる貴族の国だ。武力で落とせるものじゃあない。」
「当たり前の武力では、でしょう。ぼくらが戦ったフィオリナの直属兵はたいしたものでした。あんなのを何十人も派遣され、しかも並行して現代兵器で攻撃されたら。
落ちるか落ちないかはともかく、被害はとんでもないものになりますよ。
城そのものを巨人にでも変形させて、戦いますか?」
「う、ウォルト‥‥ルウエン、なんでわかったの!?」
ギムリウス。まさかそんなバカみたいなギミックを仕掛けてたのか。
確かに質量も破壊力もすごいだろうが、城内のものがみんなミンチになる。
おまけに城下町を踏み躙らないとどこにもいけないぞ。
ぼくは、精一杯、愛想良く微笑んで見せた。
ヴァルゴールの使徒なら、アキルの仲間だ。ぼくにとっては、身内と言ってもいい。
ただ、永年に渡って、生け贄を要求してきたヴァルゴールの使徒には、とんでもない快楽殺人者も多く、付き合いはけっこう難しいものがあった。
その点、吸血鬼ならむしろ安心だろう。
人を殺すことをなんとも思わない人間は、社会生をおくるのに、本人にも周りにも大きな障害になるが、吸血鬼ならそうでもない。
「…というか、おまえもなんなのだ?」
それなのに、キール公は、気味悪そうにぼくを見る。
「なぜ、わたしを見て怯えない。」
「それはもちろん、恐ろしいです。」
ぼくは。正直に答えた。とは言っても12使徒のなかでは、吸血鬼のほうがましだろうは、あんまりな気がしたので、そこは隠して。
「でも、話さなくちゃいけないこと、やらないともっと恐ろしいことになりますから、しょうがないんです。」
「キール公爵。」
アデルがゆっくりと言った。
「ルウエンがしょうがないと言ったらしょうがないことなんだ。だからまず話をきけ。」
キールの若々しい顔に、苦笑が浮かんだ。
「“黒の御方”と“災厄の女神”の御子は、たしかに王者の風格をお持ちだ。」
「そうかな。」
この言われ方は、納得できなかったのか、アデルは不機嫌そうに、口を曲げた。
「わたしは、あれらのことは、全く記憶にない。」
キール公とアデルが険悪になる前に、ぼくは口をはさんだ。
「アデルは、物心つく前に、両親から離れて、北の地で祖父母に、育てられたんですよ。」
「祖父母?」
「先代クローディア大公陛下と、アウデリアさん。」
ギムリウスとロウを除いた全員が軽くパニックになった。
皿やグラスが割れて、テーブルがいくつか倒れる。
北の狼?
白狼公が!?
アウデリアってあの英雄神アクロディティアの!
ならば頷ける。あの風格、あの佇まい。
どうしよう、俺さっき、目があった時睨んじまった。
ぼくは、すっかり手持ち無沙汰になった式典係から、奉書を受け取った。
ぼくやアデルを『城』の武官としてとりてる旨。ルーデウス伯爵は、ギムリウスの御付き役で、ラウレスは、宮中から学校に通えるように手配してくれていた。
好意でしてくれているのは、わかるが、まったくご褒美になっていなかった。
機嫌が悪い時のギムリウスは、吸血鬼の首根っこなど平気で引っこ抜くし、ラウレスは、屍竜になる前の記憶が、一時的にとんでいるだけで、別に見かけ通りの十歳にも満たない少女ではないのだ。
基本的に超越者の近くに、彼らのいう「試し」が終わっていないものはおかないほうがいいのだ。まったく悪気はなくとも、寝返りをしただけで、踏み潰してしまうかもしれない。
その意味では、「試し」の終わってるぼくか、アデルしか、ギムリウスの側役は無理だ。
一読して、ぼくは書面を式典官に返した。
「これはいりません。それよりこれからの事を話しましょうよ。」
式典官は、見るのも気の毒なほど青ざめた。
無傷で、バルトフェルを奪還し、鉄道公社とも契約を有利にとりつけた、ぼくとアデルを、古株から文句がでない程度に目一杯、優遇する。
あるいはその立案に、式典官自身も参加していたのかもしれない。
それを。
いらないって。
あまりにも失礼な。
「つまり、“黒の御方”と“災厄の女神”が、アデルを取り戻しにきたときの対応、ということか。」
ロウは、面白そうに言った。
ぼくは、式典官の落ち込み用が、あまりに気の毒だったので、ロウが、そう声をかけてくれたのは、ありがたかった。
「ここは、貴族の集まる貴族の国だ。武力で落とせるものじゃあない。」
「当たり前の武力では、でしょう。ぼくらが戦ったフィオリナの直属兵はたいしたものでした。あんなのを何十人も派遣され、しかも並行して現代兵器で攻撃されたら。
落ちるか落ちないかはともかく、被害はとんでもないものになりますよ。
城そのものを巨人にでも変形させて、戦いますか?」
「う、ウォルト‥‥ルウエン、なんでわかったの!?」
ギムリウス。まさかそんなバカみたいなギミックを仕掛けてたのか。
確かに質量も破壊力もすごいだろうが、城内のものがみんなミンチになる。
おまけに城下町を踏み躙らないとどこにもいけないぞ。
10
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。


少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
とあるおっさんのVRMMO活動記
椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。
念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。
戦闘は生々しい表現も含みます。
のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。
また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり
一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が
お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。
また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や
無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が
テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという
事もございません。
また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる