残酷な異世界の歩き方~忘れられたあなたのための物語

此寺 美津己

文字の大きさ
上 下
35 / 83
第三章 バルトフェル奪還戦

第35話 貴族殺し

しおりを挟む
「つまり、アイシャさんが言うには」
ルウエンは、アデルの背中に呼びかけた。
ダラダラしている。
というか、一応、まとまって、50人ばかりの人数を行動させようとすれば、1番足の遅いものに合わせるしかない。

かき集められた冒険者のなかには、戦闘、というより、迷宮内での探索を得意とするものも混じっていた。

体力がないとは言わないが、得意なのは、何万メトルにもおよぶ行軍では無いはずだ。

アデルは、この手のことに、根をあげない。
幼い頃は、北の方で雪の中を転げ回って、狩りやそのほかの血なまぐさい遊びに、熱中していてらしい。

「わたしは、嫉妬深いのかもしれないぞ、ルウエン。」
後ろを振り返りもせずに、アデルは言った。
「あまり、ほかの女とイチャイチャするな。」

「してないよ!」
「そうか?」

アデルは振り返って、ルウエンの首を抱え込んだ。

「こんなに噛まれやがって。」
「……そっちか。」
「貴族はな。高位なものになると、生き血なんてそんなに必要じゃなくなるんだ。吸血は一種の恋愛行為だ。わたしたちが、その」
顔が赤くなっている。
「キスすることみたいに。」

「ロウ=リンドみたいに、本物の真祖さまなら、それもあるだろうけど、ルーデウス閣下程度は、まだ食事だよ。ぼくは単なる餌だ。」

「そ、そうだ。」
アデルは口早に言った。
「ロウ=リンドは“あの”ロウ=リンドめ、ギムリウスは“あの”ギムリウスなんだよな。」
「“どの”ロウで、“どの”ギムリウスなんだよ!」
「じっちゃんや、ばあちゃんが話してくれた『踊る道化師』の、だよ!」

「そこっ! 私語は慎め! とっとと歩くんだ。」
アイシャの罵声が飛んだ。

「行軍中は込み入った話には向かないんだ。」

ルウエンは、首をすくめた。アデルにホールドされたまま、それを行うのはちょっと難しかった。

「ロウやギムリウスは、あなたを知ってたよね?
フィオリナやリウもあなたのことを知ってるの?」
「それが、さあ。」
ルウエンはため息をついた。
「もちろん、ぼくは、向こうを知ってても、向こうはこっちのことをなんも覚えてなかったりするんだよ。」

アデルは、彼女自身の勘によって、ルウエンが、嘘は言っていないことがわかった。だが、同時に、なにかを隠したがっていることも。
だが、アデルは、それに切り込む勇気がなかった。

親が、この争いに満ち溢れた世界を作り出した張本人であるという事実は、まだ少女と言ってよいアデルには、受け入れ難いものだった。
そして、その両親から顧みられることがほ、少なかったことも。

「当面、やるべきことがあるんだ。その話をしよう。」
「わかった。とりあえずこのバーレムパーティはルウエンが、意図的に組んだんじゃ無いことにしてやる。」

気がついたときには、アイシャが目の前にいた。振りかざした腕を、アデルが抑えた。

「悪かった。」
素直に、アデルは、謝った。
「無駄口を叩かずに、行軍するんだったな。
それについては詫びる。だが、いきなり殴打されるのは性にあわない。反射的に反撃してしまうかもしれないし、それが致命的なもとのになってしまったら、お互いに困るだろう?」

“人間風情”にここまで言われて、平気で居いられる“貴族”は皆無だろう。
だが、アイシャは、まじまじと、アデルを見つめて、あきらめたように首を振った。

「わかった、ルウエン。おまえのパーティには、まともなヤツはひとりもいないんだな。」


それからは、2人は、気を使って歩いた。
つまり、ちょっと声を落としてしゃべったのだ。

「アイシャさんが言うには、貴族殺しのブテルパは、別段、“貴族”の弱点となるような強力な聖魔法や特別な武具などを持っているのではないらしいんだ。」
「じゃあ、なぜ“貴族”殺し?」
「好んで貴族を殺したがるからだ。」

アデルは、胡散臭そうに、ルウエンを見た。

「なんていうか……わかったような、わからないような。つまり、とくに貴族に対する強みはないけど、貴族ばっかり的に掛けるから“貴族殺し”になったってこと?」

「結果として、そうなんだけど。」
ルウエンは、汗をぬぐった。
午後の日差しが、暑い。道は急勾配に差し掛かっていた。
ちらりと、目をやったが、ロウはともかく、ルーデウスも大丈夫そうだった。ラウレスは元気いっぱいである。
「実際に、“貴族”が戦いにくいと感じるであろう特徴もいくつかもってるんだそうだ。
たとえば、力が強い!」

「“貴族”だって力持ちよ?」

「それよりも強いんだ。そして、強大なま力。」

「“貴族”だって。」

「だから、それを上回る魔力。さらに不死身に近い再生能力。これも“貴族”を凌ぐ。」

「“貴族”の持つはずのアドバンテージを全てで凌駕してるってこと?」
アデルは、納得したように頷いた。
「それは、確かにいやな相手よね。」

「そうなんだ。でも。」
「そうね。わたしとルウエンならなんとかできる相手よ、ね?」


■■■■■


日が午後に傾きかけたころ、一行は小休止をとった。
食事は、車中でもでたあの「ペースト状のなにか」を平たい箱に詰めたものだった。

「わたしのパーティのものを索敵に出しています。」
アイシャが、寄ってきて、ロウに囁いた。
「いまのところ、こちらに、気づいた様子はありません。このまま、少し行軍を遅らせて、戦闘への参加を避けるつもりでおります。」

「ダメだよ、ミイナの親友。」
ロウはあっさりと言った。
「わたしは、『城』の冒険者が、無駄に命を散らせないために来たんだ。後詰めでふんぞり返っていては、責務が果たせない。」
「しかし、ブテルパが来ているのです!」 
「わたしが、そんな小物にどうにかなるとでも?」
「万が一、です。御身になにかあったら……」
「そうだな、停滞フィールドにくるんで、ミイナのそばにでも安置しておいてくれ。
墓碑銘はこうだな。『たいしていいこともわるいこともしなかったが、いるさきるだけいきた』。」

「西域唯一の希少生物が、そんなことを言ってはダメです。」
ルウエンが身も蓋もない言い方で、割って入った。

「いいじゃないか、その笑顔!!」
アイシャが、怒るよりも早く、ロウが嬉しそうに言った。
「カザリームのトーナメントを思い出す。また、とんでもないことを言い出してくれるんだろ?」

「そんなにとんでもなくは、ないです。」
ルウエンは、照れたように言った。
「次の索敵は、うちのパーティにさせて下さい。」

「バカをいえ!」
アイシャは踊りあがって叫んだ。
「おまえにも状況はわかっているはずだ。
奴らは、必ずこちらを、狙ってくる。目標はただひとつだ。」

「そのために、“貴族殺し”なんかを投入するから、話が分かりやすくなる。」
ルウエンは。
にっこりと笑って続けた。
「こちらはその“貴族殺し”1人倒せば、、やつらを撤退に追い込めます。」
「しかし、ロウさまと“貴族殺し”を対峙しせるなど。」
「そのために、ぼくたちがいます。」
ルウエンは、仲間たちを振り返った。
「我が“暁の道化師”が。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...