28 / 83
第二章 黒金の城
第28話 伯爵閣下、頑張る!
しおりを挟む
ルーデウスは、唇を噛み締めた。
牙が出てしまっていたので、唇に穴があいて、血が流れた。
彼女は、伯爵級の吸血鬼である。
その自負はあった。
だが、目の前の連中は、ルーデウスのプライドをズタズタにして、踏みにじり、ほうきとちりとりで丁寧にかき集めては、燃えるゴミに出してくれたのだ。
およそ百年。西域では活動記録のない真祖。
ロウ=リンド。
上古の神獣ギムリウス。
とんでもない力をもつアデルは、『暗き御方』と『破壊の女神』の血を引くものだった。
ラウレスは、もうわかってる。竜だ。体の構成要素が足りないだけで、竜の姿にはなれないが、人間界でおそらくはただ1頭の古竜だ。
その全員が、倒れたルウエンの周りに集まって、彼を心配し、なんとかしようと議論を戦わせている。
うっかり、傷を終われせてしまったギムリウルなどは、しょげかえって、懸命にルウエンの身体をさすっていた。とくに意味もないのに。
と、とにかく、ちょっとイイトコ見せねば。
ルーデウスは、焦っていた。
彼女が使おうとしている魔術は、習得が困難な上に実用価値も低い。
だが、彼女はそれを何度も仲間たちに、使っていた。
人間のパーティメンバーとともに、たたかってきたルーデウスには、仲間がすぐに死んじゃうのが悩みの種であった。
強大な(?)貴族であるルーデウスのお眼鏡にかなう冒険者は、そうそうおらず、簡単にくたばっていただいては困るのだ。せめて
老いて技ふるえなくなるまで、ルーデウスに奉仕してもらいたい。
かといって、一瞬で、傷を治癒する魔法は、いろいろと弊害も多かった。もっとも効果的で、副作用も少ない治癒魔法。
それが、いまルーデウスが使った「ダメージや苦痛を自分に移す」魔法である。
漆黒城の広間に、ルーデスウの絶叫が響き渡った。
覚悟はしていた。
だが、グリムのもたらした傷の痛みは、そんなものを軽々と凌駕した。
痛みが筋肉を収縮させ、骨が折れる。
ガチガチと噛み鳴らされる口元から、白い破片が零れた。
歯が砕けたのだ。
「無茶をするなあ、閣下は。」
ルウエンが覗き込んだ。
こ、コロシテ。
言葉にならない言葉で、ルーデウスはうったえた。
これ以上は耐えられない。わたしをコロシテ。
その痛みが唐突に消えた。
ルーデウスは、痛みの中心だった肩口をみて、呆然とした。腕が付け根からなかった。
腕を切られた灼熱の痛みもグリムのもたらす苦痛に比べれば、春風のそよぎのようだった。
アデルが、あの斧剣を器用につかって、切り取ったルーデウスの腕を、ざくざくと切り刻んでいた。
顔全体が「?」になったルーデウスを振り向いて、アデルは大きく肉を抉ったルーデウスの腕を差し出した。
グロテスクな見た目だが、いかに再生能力にたけた“貴族”といえどもこのまま、接続して欠損部分のみを修復したほうが早い。
つまりは、呪剣グリムに侵された部分を切除してくれたのだとおもうが、アデルの手付きがなんとなく、肉を解体するように見えて、ルーデウスはちょっと不愉快になった。
「ありがとう、閣下。」
と、ルウエンは微笑んで、手をのばした。
ルーデウスの、切断された肩、抉られた腕のまわりで白い光が明滅し、腕が復元されていく。
感謝していることは、間違いないが、血を吸われて従属したものがとる立場でも、口調でもなかった。
「ずいぶんと無茶をする。」
アデルは、剣についた血を拭いながら、ルーデウスを睨んだ。
「グリムの与える苦痛は、気絶すら許さない。今回の件は感謝するが、こんな真似はもうするな。」
あれ?
意外にやさしい・・・・
「ルウエンの苦痛を引き受けていいのは、わたしだけだ。」
嫉妬だった。
ルーデウスの悲鳴に、なにごとかと駆けつけた城のものたちを、ロウが追い払った。
ギムリウスは、自分が、倒したテーブルや椅子を自分でおこすと、三人に座るよう指示した。
一応、「領主さま」が、新しく街にやってきた有望な冒険者を謁見する、という体裁をとるらしい。
「じゃあ、ウォルト・・・・」
「ルウエンだ。」
ロウ=リンドが口をはさんだ。
ギムリウスは、不満そうな顔をした。
「わたしにとっては、ウォルトだ。」
「なかなか、裏がありそうだぞ。どっちも偽名かもしれない。冒険者学校の生徒なのは本当だろうけど、あそこの冒険者学校は誰でも受け入れるからな。
だから、とりあえず、本人がルウエンと名乗っているから、ルウエンだ。いいな?」
ルウエン、ルウエン。
ギムリウスは、口なかでその名前を転がして、から諦めたように言った。
「じゃあ、ルウエンと名乗っているウォルト。」
「ご領主さま」
「ギムリウスと呼んでいい。」
「わかりました。ギムリウス。さっき、人間で試しを終えて友人になったのが、ぼくで三人めといいましたけど、あとの二人は誰ですか?」
ギムリウスは明らかにほかに話したいことがあったようだったが、この質問に素直に頭をひねった。
「一人はミイシアだよ。ミトラでウォルト・・・・ルウエンが連れていた女の子だ。あの子はどうした?」
アデルが、きつい目でルウエンを睨んだが、少年は飄々とした答えた。
「結婚して子どもも生まれて、元気にしてるようです。夫婦仲はこのところよくないみたいですけど。」
「そうなのか。」
ギムリウスは、ちょっと複雑そうな顔をした。
「わたしの記憶では、ウォルト・・・ルウエンとミイシアという少女はとても仲がよかった。いずれは人間がする結婚というものするのだと思っていたのだ。」
ルウエンは変な顔で笑った。
「世の中、なにもかも思い通りにはいかないものですよ、ギムリウス。
あと一人は誰でしょう?」
「アウデリアさま・・・・はもともと半神というべき存在だから、除外だ。
フィオリナ・・・・・は、もう人間とは呼べなくなったから、これもはずす・・・あれ? 誰だろう。」
考えこんでしまったギムリウスに、アデルが、ルウエンに囁いた。
「“試し”って、神獣や“貴族”が相手の人間を友人として認めるかどうかを、実力でためすってやつでしょ?
わたしにも受けさせてよ、それ。わたしだって、このご領主さまに『友人』として認められたいもん。」
「それは大丈夫だと思うよ、アデル。」
ルウエンはやさしく言った。
「たぶんさっきので、もう試しは終わってる。」
牙が出てしまっていたので、唇に穴があいて、血が流れた。
彼女は、伯爵級の吸血鬼である。
その自負はあった。
だが、目の前の連中は、ルーデウスのプライドをズタズタにして、踏みにじり、ほうきとちりとりで丁寧にかき集めては、燃えるゴミに出してくれたのだ。
およそ百年。西域では活動記録のない真祖。
ロウ=リンド。
上古の神獣ギムリウス。
とんでもない力をもつアデルは、『暗き御方』と『破壊の女神』の血を引くものだった。
ラウレスは、もうわかってる。竜だ。体の構成要素が足りないだけで、竜の姿にはなれないが、人間界でおそらくはただ1頭の古竜だ。
その全員が、倒れたルウエンの周りに集まって、彼を心配し、なんとかしようと議論を戦わせている。
うっかり、傷を終われせてしまったギムリウルなどは、しょげかえって、懸命にルウエンの身体をさすっていた。とくに意味もないのに。
と、とにかく、ちょっとイイトコ見せねば。
ルーデウスは、焦っていた。
彼女が使おうとしている魔術は、習得が困難な上に実用価値も低い。
だが、彼女はそれを何度も仲間たちに、使っていた。
人間のパーティメンバーとともに、たたかってきたルーデウスには、仲間がすぐに死んじゃうのが悩みの種であった。
強大な(?)貴族であるルーデウスのお眼鏡にかなう冒険者は、そうそうおらず、簡単にくたばっていただいては困るのだ。せめて
老いて技ふるえなくなるまで、ルーデウスに奉仕してもらいたい。
かといって、一瞬で、傷を治癒する魔法は、いろいろと弊害も多かった。もっとも効果的で、副作用も少ない治癒魔法。
それが、いまルーデウスが使った「ダメージや苦痛を自分に移す」魔法である。
漆黒城の広間に、ルーデスウの絶叫が響き渡った。
覚悟はしていた。
だが、グリムのもたらした傷の痛みは、そんなものを軽々と凌駕した。
痛みが筋肉を収縮させ、骨が折れる。
ガチガチと噛み鳴らされる口元から、白い破片が零れた。
歯が砕けたのだ。
「無茶をするなあ、閣下は。」
ルウエンが覗き込んだ。
こ、コロシテ。
言葉にならない言葉で、ルーデウスはうったえた。
これ以上は耐えられない。わたしをコロシテ。
その痛みが唐突に消えた。
ルーデウスは、痛みの中心だった肩口をみて、呆然とした。腕が付け根からなかった。
腕を切られた灼熱の痛みもグリムのもたらす苦痛に比べれば、春風のそよぎのようだった。
アデルが、あの斧剣を器用につかって、切り取ったルーデウスの腕を、ざくざくと切り刻んでいた。
顔全体が「?」になったルーデウスを振り向いて、アデルは大きく肉を抉ったルーデウスの腕を差し出した。
グロテスクな見た目だが、いかに再生能力にたけた“貴族”といえどもこのまま、接続して欠損部分のみを修復したほうが早い。
つまりは、呪剣グリムに侵された部分を切除してくれたのだとおもうが、アデルの手付きがなんとなく、肉を解体するように見えて、ルーデウスはちょっと不愉快になった。
「ありがとう、閣下。」
と、ルウエンは微笑んで、手をのばした。
ルーデウスの、切断された肩、抉られた腕のまわりで白い光が明滅し、腕が復元されていく。
感謝していることは、間違いないが、血を吸われて従属したものがとる立場でも、口調でもなかった。
「ずいぶんと無茶をする。」
アデルは、剣についた血を拭いながら、ルーデウスを睨んだ。
「グリムの与える苦痛は、気絶すら許さない。今回の件は感謝するが、こんな真似はもうするな。」
あれ?
意外にやさしい・・・・
「ルウエンの苦痛を引き受けていいのは、わたしだけだ。」
嫉妬だった。
ルーデウスの悲鳴に、なにごとかと駆けつけた城のものたちを、ロウが追い払った。
ギムリウスは、自分が、倒したテーブルや椅子を自分でおこすと、三人に座るよう指示した。
一応、「領主さま」が、新しく街にやってきた有望な冒険者を謁見する、という体裁をとるらしい。
「じゃあ、ウォルト・・・・」
「ルウエンだ。」
ロウ=リンドが口をはさんだ。
ギムリウスは、不満そうな顔をした。
「わたしにとっては、ウォルトだ。」
「なかなか、裏がありそうだぞ。どっちも偽名かもしれない。冒険者学校の生徒なのは本当だろうけど、あそこの冒険者学校は誰でも受け入れるからな。
だから、とりあえず、本人がルウエンと名乗っているから、ルウエンだ。いいな?」
ルウエン、ルウエン。
ギムリウスは、口なかでその名前を転がして、から諦めたように言った。
「じゃあ、ルウエンと名乗っているウォルト。」
「ご領主さま」
「ギムリウスと呼んでいい。」
「わかりました。ギムリウス。さっき、人間で試しを終えて友人になったのが、ぼくで三人めといいましたけど、あとの二人は誰ですか?」
ギムリウスは明らかにほかに話したいことがあったようだったが、この質問に素直に頭をひねった。
「一人はミイシアだよ。ミトラでウォルト・・・・ルウエンが連れていた女の子だ。あの子はどうした?」
アデルが、きつい目でルウエンを睨んだが、少年は飄々とした答えた。
「結婚して子どもも生まれて、元気にしてるようです。夫婦仲はこのところよくないみたいですけど。」
「そうなのか。」
ギムリウスは、ちょっと複雑そうな顔をした。
「わたしの記憶では、ウォルト・・・ルウエンとミイシアという少女はとても仲がよかった。いずれは人間がする結婚というものするのだと思っていたのだ。」
ルウエンは変な顔で笑った。
「世の中、なにもかも思い通りにはいかないものですよ、ギムリウス。
あと一人は誰でしょう?」
「アウデリアさま・・・・はもともと半神というべき存在だから、除外だ。
フィオリナ・・・・・は、もう人間とは呼べなくなったから、これもはずす・・・あれ? 誰だろう。」
考えこんでしまったギムリウスに、アデルが、ルウエンに囁いた。
「“試し”って、神獣や“貴族”が相手の人間を友人として認めるかどうかを、実力でためすってやつでしょ?
わたしにも受けさせてよ、それ。わたしだって、このご領主さまに『友人』として認められたいもん。」
「それは大丈夫だと思うよ、アデル。」
ルウエンはやさしく言った。
「たぶんさっきので、もう試しは終わってる。」
10
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

テクノブレイクで死んだおっさん、死後の世界で勇者になる
伊藤すくす
ファンタジー
テクノブレイクで死んでしまった35才独身のおっさん、カンダ・ハジメ。自分が異世界に飛ばされたと思ったが、実はそこは死後の世界だった!その死後の世界では、死んだ時の幸福度によって天国か地獄に行くかが決められる。最高に気持ちいい死に方で死んだハジメは過去最高の幸福度を叩き出してしまい、天国側と敵対する地獄側を倒すために一緒に戦ってくれと頼まれ―― そんなこんなで天国と地獄の戦に巻き込まれたハジメのセカンドライフが始まる。
小説家になろうでも同じ内容で投稿してます!
https://ncode.syosetu.com/n8610es/

のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編
とあるおっさんのVRMMO活動記
椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。
念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。
戦闘は生々しい表現も含みます。
のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。
また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり
一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が
お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。
また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や
無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が
テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという
事もございません。
また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
世界中にダンジョンが出来た。何故か俺の部屋にも出来た。
阿吽
ファンタジー
クリスマスの夜……それは突然出現した。世界中あらゆる観光地に『扉』が現れる。それは荘厳で魅惑的で威圧的で……様々な恩恵を齎したそれは、かのファンタジー要素に欠かせない【ダンジョン】であった!
※カクヨムにて先行投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる