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第一章 夜の淵を走る

第10話 空中戦(前)

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「さん、にい…」

「もっと引っつけ。」
ルーデウスが言った。
言われたおりに、アデルは身体を密着させたが、ローデウスの乳房に顔が埋まり、プはあ、と息をはいて、文句を言った。

「もっと、鍛えろ。全体に脂肪がつきすぎた!」
「やかましい。ちゃんと締めるところは締まっておる。おまえこそ、女のくせになんだ、その筋肉の付き方は。」
「いつだって、最後に頼れるのは己の肉体」

だ。
まではいえなかった。
幾重にも貼り合わせた木材の反りと、ゴムを組み合わせたカタパルトは、柱ほどもある矢を打ち出す代わりに、世にも変わったカップルを夜空に打ち上げたのだ。

与えられた加速は、並の人間ならば骨折くか内臓破裂が、必至のしろものだった。

ルーデウスは、このアデルという少女か、並の人間だとは、もう指の爪先程にもおもっていない。それでも、自分をクッションにできる限り、衝撃からアデルを守った。、

「さすがだ。友人二号。」

陽翔の魔法は苦手だと言っていた。すなわち。
ルーデウスがいなければ、目標にたどり着こうが着くまいが、谷底まで真っ逆さまのはずなのだが、アデルは気にも止めていない。




戦いは苦手、と看破されてしまったルーデウスであるが、もちろん戦ったことがないわけではない。
“貴族”は根本的に血を好む。それは、食物としての血を必要とするだけではなく、闘争というものを生きていくことに不可欠なものとしている。

その彼女のカンは、目の前に急速に迫りつつある巨大な骨のアギトに、魔力が集積していくのを感じた。それが、彼女たちに向かって放たれようとしていることを。

ルーデウスは、翼を広げる。
黒い翼は伝説の悪魔に似ていた。


カタパルトで得た初速を殺さないように、わずかに角度を変える。

紫電の射出魔法は、ふたりのわずかに下をかすめた。ほんのわずかにふれたのだが、ナセルの施した魔法障壁がそれを流した。


角度は、ちょうどいい。このままなら白骨竜のわずかに上方をかすめる。だが、二人に気がついていた白骨竜は、そのまま高度を上げた。

ふるった長大な尻尾もまた白骨化していた。
巨大な鞭と化した尾は、アデルとルーデウスの軌道をさえぎるように、振られている。


「いくぞ、友だち二号!」
「その呼び方はなんとかならんのか!」

どん!
力まかせに、腹を蹴飛ばされて、ルーデウスは落っこちた。

あわてて、態勢を立てなおしたその頭上を尻尾がかすめていく。その風圧だけで、ルーデウスの体は木の葉のように舞う。
あのまま、進んでいたらカウンターで尾の一撃を食らっていた。
ルーデウスを蹴飛ばして、突き放すことで、ルーデウスは下方に。アデルは上方に別れて、なんとか一撃から身をかわしたのだ。

でもおまえ、飛べないんだろう!!

叫ぼうとして、ルーデウスは見た。

アデルは、風魔法を利用して。
いや、違う。飛翔魔法と風魔法を利用した飛翔は、似て異なるものだ。風を利用して「飛ぶ」ことは一応できるが、それでは空中での機動性など飛翔魔法におよぶべくもない。

もともと空中を飛翔している竜に空で対抗するには、かなり高度な飛翔魔法がなければ無理だ。

アデルが作り出したのは、風の塊だった。
そのまま、とばせば、相手を昏倒させるくらいの力はある。
だが、アデルがそれを投げずに足元に、投げた。

その空気の塊を蹴って。
角度をかえる。次々と生み出される空気の塊を足場にして、アデルは空を駆ける。

その腕には、彼女の奇怪な得物。斧の刃をもつ剣が握られていた。


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