9 / 83
第一章 夜の淵を走る
第9話 カタパルト装填!
しおりを挟む
ボウガンは、もちろん手持ちのものもあったが、ここでいうのは、むろん、列車に搭載された大型の代物だ。
主にそれは、動きの鈍い巨大な魔獣を撃退するためのものだ。
「銃」またはそれを大型化させ、さまざな特性をもつ弾丸を打ち出せるようにした「砲」は、既に各国の軍は、さかんに導入を始めていた。
だが、こんなローカル路線を走る列車に搭載させるのは、いつの日か。
ナセルは、思う。
「砲」の一撃に相当する大火力をもった魔法士を、鉄道公社が、多数雇い入れてしまったことが、かえって、技術の発展に遅れをとる原因になっているのではないか、と。
避難民でごった返す車中をさけて、鉄道保安官と“貴族”、それに冒険者学校生徒の四名からなる臨時パーティは、客車の屋根に登った。
間もなく迎えるトンネルは、まあまあ広い。
だが、それでも大型のカタパルトは、天井にふれて損傷する危険があったので、冷静な操作係たちは、それを屋根に収納する準備を始めていた。
「こいつは残せ。」
ナセルの命令に、護衛隊の隊長は抗議した。
「しかし、間もなくトンネルに入ります。あと数分で。そうすればあの未知の魔物は追ってこれない。山の反対側に抜けてしまえば、一安心です。」
「そうはいかんようだぞ。」
振り返るその前で、豊麗な女伯爵は、両手を上げて天に祈った。
現れたのは、鼻面が尖り牙をむいた生き物、だ。頭部だけだったが、人間などひとのみにできるようなおおきさのそれは、若い護衛隊のものたちは見たこともない伝説の怪物「竜」のものだった。
一声吠えると、竜の生首はその口を開けた。
おそらくは何十人もの人間の魔法士が、陣を組み、数日かけて練り上げる魔力。
それが放流となって、射出される。
それは、夜の空を引き裂き、稲妻が最も集中する当たりを貫いた。
何かが。
それまで、相手の姿を隠していた黒雲の結界が消滅した。
すとん。
まったく、無造作に。
護衛隊長の腰が抜けた。
鮮やかなほど簡単に尻もちをついた彼は、声にならない、声をはっして、そのもの、を指さした。
その大きさは客車よりも大きいのではないか。
しっぽをいれれば、その数倍はある。
トカゲににた。だがまったくサイズの異なるその巨体。
「り、り、り、」
四名の臨時パーティは、それを相手にしなかった。
ルーデウス伯爵が、顔をしかめて、言った。
「これで倒せんとなると、わしにも打てがないぞ?」
「魔力不足なんです。」
ルウレンがぶうたれた。
「竜の魔力があっての竜のブレスです。閣下程度の魔力で片腹痛い。」
「しかし、なんだあの姿は!」
ナセルも、ゆっくりと、だが着実に近づく竜の姿に目を凝らしている。
だが、その姿は。
頭部は完全に白骨化していた。ただ、顎の辺りに僅かに肉が残り、牙の間から下が覗いていた。
その他の全身も、肉が腐り、骨が覗いていた。
黒雲で体を覆っていたのは、姿を隠すためと、おそらくは飛行の補助のためだったのだろう。
白骨となった翼はいかにも飛びにくそうに、よたよたと巨体をかろうじて前身させている。
「どうも死んだ竜の体を媒介にしているようですね。でもこれで、攻撃が通りやすくなった。お手柄です、伯爵。」
褒められてうれしかったのか、ルーデウスは胸をはったが、いや、そんな場合では無い。
「しかし、わたしの最大の火力を持つ魔法でも消滅させられなかったのだぞ。いったいどうする。」
その肩に、ポンとアデルは手を置いた。
「もちろん、当初の予定通り、わたしが突っ込んで行ってから、真っ二つだ。」
「カタパルトの準備だ。」
ナセルは、腰を抜かしていた護衛隊長を引きずり起こした。
「矢の代わりに、伯爵閣下とこのお嬢さんを、飛ばす。」
「バッサム地方の死刑にそんなのが、ありましたけど。飛ばした段階で骨折。加速で失神するんで、まあ死体の損壊のわりには残虐なな刑罰ともいえないとか。」
「豆知識のご披露、ご苦労さま。」
ナセルは、自らカタパルトをセットするための巻き上げ機を回し始めた。
ルウエンもそれに手を貸す。
「飛んでいくおふたりは、ここに立って。もっと体を引っつけてください。
出来れば抱き合うような感じで。」
護衛隊長は、なにを言っても無駄と思ったのか、それとも作業に集中することで、目の前に迫った死を忘れたいのか。
まるで機械のように、てきぱきと動いた。
「はあ、なるほどわかりました。ローデウス閣下が空中で向きを変えたりすることは、できる分けですね。ならば、とにかくヤツにち向かって最大の速度で飛ばします。」
「あれは?」
ルウエンは、白骨竜を睨んだ。
その体のそこここに、紫電が走る。
それは無作為ではない。その巨体の中に魔道具が組み込まれていて、そこから、発する力でこいつは動いているのだ。
その中心は。
「胸です。胸の中にある球体を破壊してください。」
わかった!
アデルが吠えた。
「いくぞ、さん、にい、いち……」
ローデウスとアデルの周りを流れる水に似た皮膜が覆った。
先の紫電の攻撃から、列車を守り抜いたナセルの防護障壁である。
「いけ!!!」
主にそれは、動きの鈍い巨大な魔獣を撃退するためのものだ。
「銃」またはそれを大型化させ、さまざな特性をもつ弾丸を打ち出せるようにした「砲」は、既に各国の軍は、さかんに導入を始めていた。
だが、こんなローカル路線を走る列車に搭載させるのは、いつの日か。
ナセルは、思う。
「砲」の一撃に相当する大火力をもった魔法士を、鉄道公社が、多数雇い入れてしまったことが、かえって、技術の発展に遅れをとる原因になっているのではないか、と。
避難民でごった返す車中をさけて、鉄道保安官と“貴族”、それに冒険者学校生徒の四名からなる臨時パーティは、客車の屋根に登った。
間もなく迎えるトンネルは、まあまあ広い。
だが、それでも大型のカタパルトは、天井にふれて損傷する危険があったので、冷静な操作係たちは、それを屋根に収納する準備を始めていた。
「こいつは残せ。」
ナセルの命令に、護衛隊の隊長は抗議した。
「しかし、間もなくトンネルに入ります。あと数分で。そうすればあの未知の魔物は追ってこれない。山の反対側に抜けてしまえば、一安心です。」
「そうはいかんようだぞ。」
振り返るその前で、豊麗な女伯爵は、両手を上げて天に祈った。
現れたのは、鼻面が尖り牙をむいた生き物、だ。頭部だけだったが、人間などひとのみにできるようなおおきさのそれは、若い護衛隊のものたちは見たこともない伝説の怪物「竜」のものだった。
一声吠えると、竜の生首はその口を開けた。
おそらくは何十人もの人間の魔法士が、陣を組み、数日かけて練り上げる魔力。
それが放流となって、射出される。
それは、夜の空を引き裂き、稲妻が最も集中する当たりを貫いた。
何かが。
それまで、相手の姿を隠していた黒雲の結界が消滅した。
すとん。
まったく、無造作に。
護衛隊長の腰が抜けた。
鮮やかなほど簡単に尻もちをついた彼は、声にならない、声をはっして、そのもの、を指さした。
その大きさは客車よりも大きいのではないか。
しっぽをいれれば、その数倍はある。
トカゲににた。だがまったくサイズの異なるその巨体。
「り、り、り、」
四名の臨時パーティは、それを相手にしなかった。
ルーデウス伯爵が、顔をしかめて、言った。
「これで倒せんとなると、わしにも打てがないぞ?」
「魔力不足なんです。」
ルウレンがぶうたれた。
「竜の魔力があっての竜のブレスです。閣下程度の魔力で片腹痛い。」
「しかし、なんだあの姿は!」
ナセルも、ゆっくりと、だが着実に近づく竜の姿に目を凝らしている。
だが、その姿は。
頭部は完全に白骨化していた。ただ、顎の辺りに僅かに肉が残り、牙の間から下が覗いていた。
その他の全身も、肉が腐り、骨が覗いていた。
黒雲で体を覆っていたのは、姿を隠すためと、おそらくは飛行の補助のためだったのだろう。
白骨となった翼はいかにも飛びにくそうに、よたよたと巨体をかろうじて前身させている。
「どうも死んだ竜の体を媒介にしているようですね。でもこれで、攻撃が通りやすくなった。お手柄です、伯爵。」
褒められてうれしかったのか、ルーデウスは胸をはったが、いや、そんな場合では無い。
「しかし、わたしの最大の火力を持つ魔法でも消滅させられなかったのだぞ。いったいどうする。」
その肩に、ポンとアデルは手を置いた。
「もちろん、当初の予定通り、わたしが突っ込んで行ってから、真っ二つだ。」
「カタパルトの準備だ。」
ナセルは、腰を抜かしていた護衛隊長を引きずり起こした。
「矢の代わりに、伯爵閣下とこのお嬢さんを、飛ばす。」
「バッサム地方の死刑にそんなのが、ありましたけど。飛ばした段階で骨折。加速で失神するんで、まあ死体の損壊のわりには残虐なな刑罰ともいえないとか。」
「豆知識のご披露、ご苦労さま。」
ナセルは、自らカタパルトをセットするための巻き上げ機を回し始めた。
ルウエンもそれに手を貸す。
「飛んでいくおふたりは、ここに立って。もっと体を引っつけてください。
出来れば抱き合うような感じで。」
護衛隊長は、なにを言っても無駄と思ったのか、それとも作業に集中することで、目の前に迫った死を忘れたいのか。
まるで機械のように、てきぱきと動いた。
「はあ、なるほどわかりました。ローデウス閣下が空中で向きを変えたりすることは、できる分けですね。ならば、とにかくヤツにち向かって最大の速度で飛ばします。」
「あれは?」
ルウエンは、白骨竜を睨んだ。
その体のそこここに、紫電が走る。
それは無作為ではない。その巨体の中に魔道具が組み込まれていて、そこから、発する力でこいつは動いているのだ。
その中心は。
「胸です。胸の中にある球体を破壊してください。」
わかった!
アデルが吠えた。
「いくぞ、さん、にい、いち……」
ローデウスとアデルの周りを流れる水に似た皮膜が覆った。
先の紫電の攻撃から、列車を守り抜いたナセルの防護障壁である。
「いけ!!!」
10
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。


少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
とあるおっさんのVRMMO活動記
椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。
念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。
戦闘は生々しい表現も含みます。
のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。
また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり
一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が
お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。
また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や
無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が
テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという
事もございません。
また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる