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第一章 夜の淵を走る
第9話 カタパルト装填!
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ボウガンは、もちろん手持ちのものもあったが、ここでいうのは、むろん、列車に搭載された大型の代物だ。
主にそれは、動きの鈍い巨大な魔獣を撃退するためのものだ。
「銃」またはそれを大型化させ、さまざな特性をもつ弾丸を打ち出せるようにした「砲」は、既に各国の軍は、さかんに導入を始めていた。
だが、こんなローカル路線を走る列車に搭載させるのは、いつの日か。
ナセルは、思う。
「砲」の一撃に相当する大火力をもった魔法士を、鉄道公社が、多数雇い入れてしまったことが、かえって、技術の発展に遅れをとる原因になっているのではないか、と。
避難民でごった返す車中をさけて、鉄道保安官と“貴族”、それに冒険者学校生徒の四名からなる臨時パーティは、客車の屋根に登った。
間もなく迎えるトンネルは、まあまあ広い。
だが、それでも大型のカタパルトは、天井にふれて損傷する危険があったので、冷静な操作係たちは、それを屋根に収納する準備を始めていた。
「こいつは残せ。」
ナセルの命令に、護衛隊の隊長は抗議した。
「しかし、間もなくトンネルに入ります。あと数分で。そうすればあの未知の魔物は追ってこれない。山の反対側に抜けてしまえば、一安心です。」
「そうはいかんようだぞ。」
振り返るその前で、豊麗な女伯爵は、両手を上げて天に祈った。
現れたのは、鼻面が尖り牙をむいた生き物、だ。頭部だけだったが、人間などひとのみにできるようなおおきさのそれは、若い護衛隊のものたちは見たこともない伝説の怪物「竜」のものだった。
一声吠えると、竜の生首はその口を開けた。
おそらくは何十人もの人間の魔法士が、陣を組み、数日かけて練り上げる魔力。
それが放流となって、射出される。
それは、夜の空を引き裂き、稲妻が最も集中する当たりを貫いた。
何かが。
それまで、相手の姿を隠していた黒雲の結界が消滅した。
すとん。
まったく、無造作に。
護衛隊長の腰が抜けた。
鮮やかなほど簡単に尻もちをついた彼は、声にならない、声をはっして、そのもの、を指さした。
その大きさは客車よりも大きいのではないか。
しっぽをいれれば、その数倍はある。
トカゲににた。だがまったくサイズの異なるその巨体。
「り、り、り、」
四名の臨時パーティは、それを相手にしなかった。
ルーデウス伯爵が、顔をしかめて、言った。
「これで倒せんとなると、わしにも打てがないぞ?」
「魔力不足なんです。」
ルウレンがぶうたれた。
「竜の魔力があっての竜のブレスです。閣下程度の魔力で片腹痛い。」
「しかし、なんだあの姿は!」
ナセルも、ゆっくりと、だが着実に近づく竜の姿に目を凝らしている。
だが、その姿は。
頭部は完全に白骨化していた。ただ、顎の辺りに僅かに肉が残り、牙の間から下が覗いていた。
その他の全身も、肉が腐り、骨が覗いていた。
黒雲で体を覆っていたのは、姿を隠すためと、おそらくは飛行の補助のためだったのだろう。
白骨となった翼はいかにも飛びにくそうに、よたよたと巨体をかろうじて前身させている。
「どうも死んだ竜の体を媒介にしているようですね。でもこれで、攻撃が通りやすくなった。お手柄です、伯爵。」
褒められてうれしかったのか、ルーデウスは胸をはったが、いや、そんな場合では無い。
「しかし、わたしの最大の火力を持つ魔法でも消滅させられなかったのだぞ。いったいどうする。」
その肩に、ポンとアデルは手を置いた。
「もちろん、当初の予定通り、わたしが突っ込んで行ってから、真っ二つだ。」
「カタパルトの準備だ。」
ナセルは、腰を抜かしていた護衛隊長を引きずり起こした。
「矢の代わりに、伯爵閣下とこのお嬢さんを、飛ばす。」
「バッサム地方の死刑にそんなのが、ありましたけど。飛ばした段階で骨折。加速で失神するんで、まあ死体の損壊のわりには残虐なな刑罰ともいえないとか。」
「豆知識のご披露、ご苦労さま。」
ナセルは、自らカタパルトをセットするための巻き上げ機を回し始めた。
ルウエンもそれに手を貸す。
「飛んでいくおふたりは、ここに立って。もっと体を引っつけてください。
出来れば抱き合うような感じで。」
護衛隊長は、なにを言っても無駄と思ったのか、それとも作業に集中することで、目の前に迫った死を忘れたいのか。
まるで機械のように、てきぱきと動いた。
「はあ、なるほどわかりました。ローデウス閣下が空中で向きを変えたりすることは、できる分けですね。ならば、とにかくヤツにち向かって最大の速度で飛ばします。」
「あれは?」
ルウエンは、白骨竜を睨んだ。
その体のそこここに、紫電が走る。
それは無作為ではない。その巨体の中に魔道具が組み込まれていて、そこから、発する力でこいつは動いているのだ。
その中心は。
「胸です。胸の中にある球体を破壊してください。」
わかった!
アデルが吠えた。
「いくぞ、さん、にい、いち……」
ローデウスとアデルの周りを流れる水に似た皮膜が覆った。
先の紫電の攻撃から、列車を守り抜いたナセルの防護障壁である。
「いけ!!!」
主にそれは、動きの鈍い巨大な魔獣を撃退するためのものだ。
「銃」またはそれを大型化させ、さまざな特性をもつ弾丸を打ち出せるようにした「砲」は、既に各国の軍は、さかんに導入を始めていた。
だが、こんなローカル路線を走る列車に搭載させるのは、いつの日か。
ナセルは、思う。
「砲」の一撃に相当する大火力をもった魔法士を、鉄道公社が、多数雇い入れてしまったことが、かえって、技術の発展に遅れをとる原因になっているのではないか、と。
避難民でごった返す車中をさけて、鉄道保安官と“貴族”、それに冒険者学校生徒の四名からなる臨時パーティは、客車の屋根に登った。
間もなく迎えるトンネルは、まあまあ広い。
だが、それでも大型のカタパルトは、天井にふれて損傷する危険があったので、冷静な操作係たちは、それを屋根に収納する準備を始めていた。
「こいつは残せ。」
ナセルの命令に、護衛隊の隊長は抗議した。
「しかし、間もなくトンネルに入ります。あと数分で。そうすればあの未知の魔物は追ってこれない。山の反対側に抜けてしまえば、一安心です。」
「そうはいかんようだぞ。」
振り返るその前で、豊麗な女伯爵は、両手を上げて天に祈った。
現れたのは、鼻面が尖り牙をむいた生き物、だ。頭部だけだったが、人間などひとのみにできるようなおおきさのそれは、若い護衛隊のものたちは見たこともない伝説の怪物「竜」のものだった。
一声吠えると、竜の生首はその口を開けた。
おそらくは何十人もの人間の魔法士が、陣を組み、数日かけて練り上げる魔力。
それが放流となって、射出される。
それは、夜の空を引き裂き、稲妻が最も集中する当たりを貫いた。
何かが。
それまで、相手の姿を隠していた黒雲の結界が消滅した。
すとん。
まったく、無造作に。
護衛隊長の腰が抜けた。
鮮やかなほど簡単に尻もちをついた彼は、声にならない、声をはっして、そのもの、を指さした。
その大きさは客車よりも大きいのではないか。
しっぽをいれれば、その数倍はある。
トカゲににた。だがまったくサイズの異なるその巨体。
「り、り、り、」
四名の臨時パーティは、それを相手にしなかった。
ルーデウス伯爵が、顔をしかめて、言った。
「これで倒せんとなると、わしにも打てがないぞ?」
「魔力不足なんです。」
ルウレンがぶうたれた。
「竜の魔力があっての竜のブレスです。閣下程度の魔力で片腹痛い。」
「しかし、なんだあの姿は!」
ナセルも、ゆっくりと、だが着実に近づく竜の姿に目を凝らしている。
だが、その姿は。
頭部は完全に白骨化していた。ただ、顎の辺りに僅かに肉が残り、牙の間から下が覗いていた。
その他の全身も、肉が腐り、骨が覗いていた。
黒雲で体を覆っていたのは、姿を隠すためと、おそらくは飛行の補助のためだったのだろう。
白骨となった翼はいかにも飛びにくそうに、よたよたと巨体をかろうじて前身させている。
「どうも死んだ竜の体を媒介にしているようですね。でもこれで、攻撃が通りやすくなった。お手柄です、伯爵。」
褒められてうれしかったのか、ルーデウスは胸をはったが、いや、そんな場合では無い。
「しかし、わたしの最大の火力を持つ魔法でも消滅させられなかったのだぞ。いったいどうする。」
その肩に、ポンとアデルは手を置いた。
「もちろん、当初の予定通り、わたしが突っ込んで行ってから、真っ二つだ。」
「カタパルトの準備だ。」
ナセルは、腰を抜かしていた護衛隊長を引きずり起こした。
「矢の代わりに、伯爵閣下とこのお嬢さんを、飛ばす。」
「バッサム地方の死刑にそんなのが、ありましたけど。飛ばした段階で骨折。加速で失神するんで、まあ死体の損壊のわりには残虐なな刑罰ともいえないとか。」
「豆知識のご披露、ご苦労さま。」
ナセルは、自らカタパルトをセットするための巻き上げ機を回し始めた。
ルウエンもそれに手を貸す。
「飛んでいくおふたりは、ここに立って。もっと体を引っつけてください。
出来れば抱き合うような感じで。」
護衛隊長は、なにを言っても無駄と思ったのか、それとも作業に集中することで、目の前に迫った死を忘れたいのか。
まるで機械のように、てきぱきと動いた。
「はあ、なるほどわかりました。ローデウス閣下が空中で向きを変えたりすることは、できる分けですね。ならば、とにかくヤツにち向かって最大の速度で飛ばします。」
「あれは?」
ルウエンは、白骨竜を睨んだ。
その体のそこここに、紫電が走る。
それは無作為ではない。その巨体の中に魔道具が組み込まれていて、そこから、発する力でこいつは動いているのだ。
その中心は。
「胸です。胸の中にある球体を破壊してください。」
わかった!
アデルが吠えた。
「いくぞ、さん、にい、いち……」
ローデウスとアデルの周りを流れる水に似た皮膜が覆った。
先の紫電の攻撃から、列車を守り抜いたナセルの防護障壁である。
「いけ!!!」
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