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第47話 その他の戦い
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「コスプレ。」
とんでもない言われようにリウは、振り向いた。
歳の頃は彼と変わらぬ美少年。だがこの瞳は固く閉じられ、それを補うかのように、額に瞳の絵が描いてあった。
「古の魔王バズズ=リウのファンなのか?」
必ずしも悪意は見られない。
むしろ興味津々という口調だ。
リウがたっているのは、広場でいちばん高い尖塔うえで、ヴァルゴールの司祭は同じ高さに浮遊していたが、いまさらそれはふたりとも気にも止めていないようだった。
「もうなんというか1周まわって、本人かっていうくらいファン。」
「・・・まさか、転生体なのか。」
邪神の司祭は、ひとりごとのように言った。
「それならば納得できる。この魔力。この威容。転生したものは過去の己の能力の7割を持って生まれると言うが・・・」
少年は、手にしたリウに向かって錫杖を突きつけた。
周りの虚空に、顎が生まれた。それは、強靭な歯と噛み砕くための顎だけの存在であった。
「上古に失われた魔道のいくつかを、ぼくは復活させている。無限硬度の牙に噛み砕かれよ!」
これは元のわたしの体ではない。
使徒の振り回す鉄球を掻い潜って、その腹に剣の柄を叩き込みながら、アキルは思った。
もともと、中学の時は、陸上部だった。大した成績は残せなかったけど、3年間きつい練習をやり通したことは、自分でも誇りに思っている。
でも。
相手が持っているのは、ホンモノの刀であり、一撃でこちらを撲殺できそうな棍棒であったり、果ては、電光を纏ったハンマーであったり、歯の部分からなんか滴ってる短剣、ものすごく燃えてる斧とか。
そんなものを向けられて、体が動くのが不思議だ。
そもそも、ヴァルゴールが安全を保証してくれたと言っても、そばにいるアキルには、斧の炎の熱さを感じるのだ。
実際に切り付けられて、ああ、やっぱり効いちゃいましたかてへぺろとやられても困るのは、アキルなのである。
それでも使徒たちの動きの鈍さは感じている。
なんとか無傷で、アキルを無力化したい様子はありありとわかる。
そこに漬け込んで、ここまで善戦して見せたのだが・・・。
「いったいなんなのかね? おまえは・・・」
使徒たちが道を開ける。現れたのは、年齢も定かならぬ老婆だった。
黒いローブにん全身を包み、皺深い顔は、目も鼻も皺に溺れて無くなっているようにさえ見える。
これが魔法使いでなかったら、魔法使いなど、いない、とそう思わせるほどの典型的な魔法使い・・・・
ゴキゴキと音がして、彼女の右手から砕けたくるみの殻が落ちた。
「12使徒が一人、“真邪魔拳”レオノーラ。」
武闘家だった・・・・・。
フィオリナの戦い方は、いくつかパターンがあるのだが、基本的には周りに合わせていることが多い。
戦っている仲間にまで危険が及ぶような攻撃は、行わないのが基本だ。
先にルトを襲おうとした使徒を二人、蹴り倒した勢いそのままに、今の彼女の戦闘スタイルは打撃主体の格闘家のそれになっている。
主に使うのは、体全体を回転させながらの回し蹴り。ときどき、軸足を替えながら、回り続け、蹴りを続けている。
使徒たちはそれぞれの得物を構えて、その人間竜巻に突進したが、いやはや!
本物の竜巻を相手にした方がいいくらいだった。
回転の渦に巻き込まれたものは、片端から、武器を壊され、痛打を受けて倒れ伏す。
意識を刈り取られないまでも、早急に回復できるようなダメージではない。
「距離をとれ!」
誰かが叫んだ。
「魔法で攻撃するんだ!」
残念ながら、その時には、フィオリナの体を隠すように空気の渦が発生していた。
中に仕込んだ氷の粒が、使徒たちの顔や体を叩く。
それ自体は致命傷にはならないが、戦意を失わせるには十分な痛手だった。
「やるなあ、ジウル・ボルテックとやら。」
12使徒ドズレは、まんざら世辞でもないように、そんなことを言ってボルテックをたたえた。
いや、どうしてどうして。
ボルテックも舌を巻いている。本当の拳法家とは、これ、か。
彼が、長年の研鑽に渡り、突き詰めた「打撃に直接魔力を乗せる」という技は、確かに見事なものではあった。だが、彼がそれを実践に移してからまだまだ日が浅い。
全ての打撃に魔力を乗せるべきなのか。それとも相手の防御を崩し、とどめの一撃として使うべきなのか。ドロシーが使う手足に炎や氷を纏う攻撃と、どう使い分けるベキなのか。
課題は多く、どこぞの竜のように互いに力比べのように攻撃を受けてくれる相手ばかりではない。
拳法家としてのジウル・ボルテックは、その現在の外見通りに若く、ひとつの拳法として体系が作られるのはこれからなのだろう。
「我流なのだろうが、邪拳なりに、よくぞここまで練っている。魔力を打撃力にそのまま乗せるなど、魔道の修行だけを百年やっても追いつかん。」
ドズレは、ふんっと息を吐いて、両の手を顔の前に組み合わせた。
「ならば、俺も全力を出そう。わが秘奥義の前に骸となるがいい、ジウル・ボルテック!」
彼のつけた骨のアクセサリー、それは、ネックレスだけではなく手首や足首にも巻かれている。
それが一斉に飛び上がって、3本目の腕を作り出した。
“いや、そっちこそ、邪拳だろう”
ボルテックは呆れた。ならば彼もまた魔道具を使うまでだ。
「うむむ。」
ギムリウスは唸った。
「いかがいたしましたか? 創造主さま」
「けっこう、数が多いね。」
「はい、ゲートから出現した使徒は百を超えておりましたから。」
「よし」
とギムリウスは、手を打った。
「こちらも数で対抗しよう。戦いは数だよ、ゴウグレ。」
「それは確かに。」
「おまえは赤いやつを呼べ。わたしは黒いのを出す。」
蜘蛛通しの会話は人間の言葉で交わされたが、なんのことだかわかりにくいと思う。
訳せばこういうことだ。
「ユニーク以外の蜘蛛軍団を投入しろ。」
迷宮ランゴバルドの上空に、黒い雲が現れた。まるで夕立でもきそうな真っ黒な雲だ。
そして、降ってきたのも蜘蛛だった。
とんでもない言われようにリウは、振り向いた。
歳の頃は彼と変わらぬ美少年。だがこの瞳は固く閉じられ、それを補うかのように、額に瞳の絵が描いてあった。
「古の魔王バズズ=リウのファンなのか?」
必ずしも悪意は見られない。
むしろ興味津々という口調だ。
リウがたっているのは、広場でいちばん高い尖塔うえで、ヴァルゴールの司祭は同じ高さに浮遊していたが、いまさらそれはふたりとも気にも止めていないようだった。
「もうなんというか1周まわって、本人かっていうくらいファン。」
「・・・まさか、転生体なのか。」
邪神の司祭は、ひとりごとのように言った。
「それならば納得できる。この魔力。この威容。転生したものは過去の己の能力の7割を持って生まれると言うが・・・」
少年は、手にしたリウに向かって錫杖を突きつけた。
周りの虚空に、顎が生まれた。それは、強靭な歯と噛み砕くための顎だけの存在であった。
「上古に失われた魔道のいくつかを、ぼくは復活させている。無限硬度の牙に噛み砕かれよ!」
これは元のわたしの体ではない。
使徒の振り回す鉄球を掻い潜って、その腹に剣の柄を叩き込みながら、アキルは思った。
もともと、中学の時は、陸上部だった。大した成績は残せなかったけど、3年間きつい練習をやり通したことは、自分でも誇りに思っている。
でも。
相手が持っているのは、ホンモノの刀であり、一撃でこちらを撲殺できそうな棍棒であったり、果ては、電光を纏ったハンマーであったり、歯の部分からなんか滴ってる短剣、ものすごく燃えてる斧とか。
そんなものを向けられて、体が動くのが不思議だ。
そもそも、ヴァルゴールが安全を保証してくれたと言っても、そばにいるアキルには、斧の炎の熱さを感じるのだ。
実際に切り付けられて、ああ、やっぱり効いちゃいましたかてへぺろとやられても困るのは、アキルなのである。
それでも使徒たちの動きの鈍さは感じている。
なんとか無傷で、アキルを無力化したい様子はありありとわかる。
そこに漬け込んで、ここまで善戦して見せたのだが・・・。
「いったいなんなのかね? おまえは・・・」
使徒たちが道を開ける。現れたのは、年齢も定かならぬ老婆だった。
黒いローブにん全身を包み、皺深い顔は、目も鼻も皺に溺れて無くなっているようにさえ見える。
これが魔法使いでなかったら、魔法使いなど、いない、とそう思わせるほどの典型的な魔法使い・・・・
ゴキゴキと音がして、彼女の右手から砕けたくるみの殻が落ちた。
「12使徒が一人、“真邪魔拳”レオノーラ。」
武闘家だった・・・・・。
フィオリナの戦い方は、いくつかパターンがあるのだが、基本的には周りに合わせていることが多い。
戦っている仲間にまで危険が及ぶような攻撃は、行わないのが基本だ。
先にルトを襲おうとした使徒を二人、蹴り倒した勢いそのままに、今の彼女の戦闘スタイルは打撃主体の格闘家のそれになっている。
主に使うのは、体全体を回転させながらの回し蹴り。ときどき、軸足を替えながら、回り続け、蹴りを続けている。
使徒たちはそれぞれの得物を構えて、その人間竜巻に突進したが、いやはや!
本物の竜巻を相手にした方がいいくらいだった。
回転の渦に巻き込まれたものは、片端から、武器を壊され、痛打を受けて倒れ伏す。
意識を刈り取られないまでも、早急に回復できるようなダメージではない。
「距離をとれ!」
誰かが叫んだ。
「魔法で攻撃するんだ!」
残念ながら、その時には、フィオリナの体を隠すように空気の渦が発生していた。
中に仕込んだ氷の粒が、使徒たちの顔や体を叩く。
それ自体は致命傷にはならないが、戦意を失わせるには十分な痛手だった。
「やるなあ、ジウル・ボルテックとやら。」
12使徒ドズレは、まんざら世辞でもないように、そんなことを言ってボルテックをたたえた。
いや、どうしてどうして。
ボルテックも舌を巻いている。本当の拳法家とは、これ、か。
彼が、長年の研鑽に渡り、突き詰めた「打撃に直接魔力を乗せる」という技は、確かに見事なものではあった。だが、彼がそれを実践に移してからまだまだ日が浅い。
全ての打撃に魔力を乗せるべきなのか。それとも相手の防御を崩し、とどめの一撃として使うべきなのか。ドロシーが使う手足に炎や氷を纏う攻撃と、どう使い分けるベキなのか。
課題は多く、どこぞの竜のように互いに力比べのように攻撃を受けてくれる相手ばかりではない。
拳法家としてのジウル・ボルテックは、その現在の外見通りに若く、ひとつの拳法として体系が作られるのはこれからなのだろう。
「我流なのだろうが、邪拳なりに、よくぞここまで練っている。魔力を打撃力にそのまま乗せるなど、魔道の修行だけを百年やっても追いつかん。」
ドズレは、ふんっと息を吐いて、両の手を顔の前に組み合わせた。
「ならば、俺も全力を出そう。わが秘奥義の前に骸となるがいい、ジウル・ボルテック!」
彼のつけた骨のアクセサリー、それは、ネックレスだけではなく手首や足首にも巻かれている。
それが一斉に飛び上がって、3本目の腕を作り出した。
“いや、そっちこそ、邪拳だろう”
ボルテックは呆れた。ならば彼もまた魔道具を使うまでだ。
「うむむ。」
ギムリウスは唸った。
「いかがいたしましたか? 創造主さま」
「けっこう、数が多いね。」
「はい、ゲートから出現した使徒は百を超えておりましたから。」
「よし」
とギムリウスは、手を打った。
「こちらも数で対抗しよう。戦いは数だよ、ゴウグレ。」
「それは確かに。」
「おまえは赤いやつを呼べ。わたしは黒いのを出す。」
蜘蛛通しの会話は人間の言葉で交わされたが、なんのことだかわかりにくいと思う。
訳せばこういうことだ。
「ユニーク以外の蜘蛛軍団を投入しろ。」
迷宮ランゴバルドの上空に、黒い雲が現れた。まるで夕立でもきそうな真っ黒な雲だ。
そして、降ってきたのも蜘蛛だった。
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