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第43話 それでどうする?

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どうする?

どうするって?

決まってる。そんなの。

「これは、使徒アスタロトとレクスの良心と能力に期待して、傍観しましょう。」
「本気ですかっ!?
冒険者みんなやられちゃいますよ!?」

アキルが焦ったように言った。

「アスタロトたちがやられるとは言わないんだね。」

「それは・・・・12使徒だし・・・」

「力関係で言うと確かにそのくらいなんだけど、どうでしょう、アモン。」

「いい見立てじゃないか? アスタロトは知らんが、レクスなら例え首だけでも人間の群れなどに遅れは取らないだろう。」
アモンは言った。
「ただ、レクスが、ランゴバルドの冒険者相手に手加減してやる必要性も感じないんだが。」

「そこは、アスタロトを信じましょう。どうも彼は、今回の標的であるの冒険者学校の生徒以外に被害者を増やしたくないようです」

「おおっ!始まったな。」
アモンが心からうれしそうにそう言った。

陣形を組んで距離を詰める冒険者たちの前で、アスタロトたちが潜む建物は、壁を翼のように開き、一階部分を足に変えて歩き出した。
元は、市場の役所だったのだろう。

3階のバルコニーの窓が開くとそこから炎を噴き出した。

なんとなくユーモラスで、滑稽な見せものだったが、攻撃を喰らった冒険者たちは、盾を構え、防御の魔法を展開し、それに耐える。

なるほど。
これが西域流か。
基本的には、西域の冒険者はオールラウンダーなのだ。通常程度の攻撃ならば、回避行動はとらない。その場を動かず、レジストすることを目指す。
数人の冒険者が、ジャンプした。なんらかの魔法の補助を受けているのだろう。ほとんど役場を見下ろす高さまで到達すると、あるものは、弓で、あるものは光の剣で。あるものは鎖の先に鉄球をつけたもので、攻撃を開始した。
怪物は、翼のように開いた壁を使って攻撃を避けようと試みたが、鉄球は一撃でそれを打ち崩し、弓は当たった箇所で爆発を起こした。
そこに、光の剣が次々と突き刺さった。

それは三階建て程度の建物を倒壊されるのに、充分すぎる攻撃をだった。
だが、攻撃はそれだけで、終わらなかった。

その足元から巨大な石の拳が現れて、殴りかったのだ。
一撃で建物は揺らぎ、もう一撃でバラバラに崩れ落ちた。

続けて、投じられたのは。
恐ろしく、小さい。
しかし強力な爆発をもたらす魔法だった。おそらくは、この広場全体を更地に出来るほどの。
それと同時に、風邪の魔法も形成されている。
それは、渦を巻いて元役場の怪物を取り囲み、締め上げた。
そしてどこにも爆発の威力が逃げないようにした上で、その力を解放した。

暴力的な圧力の中、すべてが粉になるまで分解していく。逃げようのない爆風がさらにそれを撹拌し、すり潰す。

時間にすれば、1分にも満たなかっただろう。
中にあったあらゆるものを崩壊されたあと、爆風は残りの威力を空に吹き上げた。

「市街地での戦いを想定した魔法か。」
そう言ってから、アモンはボルテックを睨んだ。
「いい加減にベタベタするのはやめろ。」

「俺が、おまえに殺されちまうんじゃないかと、怖かったんだろ?
そうやすやすと殺されるつもりもないが、ただですむ気もしないがな。」
そう言いながら、ボルテックはドロシーを引き離した。



爆風はおさまりつつ、あった。
あらわれた人影は、巨大な爬虫類の首を脇にかかえていた。

相変わらず、旅の商人のような格好だ。
小脇にかかえた、神鎧竜レクスの頭を撫でながら、呆れるほど無傷で、呆れるほど冷静だった。

そして、呆れるほど上機嫌だった。

「魔法攻撃だけで抜ける障壁など最初から使わん。」

無造作に踏み出した1歩で、冒険者の集団が二つに割れた。

「まだまだ、闘いはこれからだろうに。」
ぼくがつぶやくと、アモンが笑った。
「よほど、鈍くなければわかる。彼我の力の差というものが。」

「力の差がわかったから抵抗をやめるのか。」
フィオリナが不快そうに言う。そんなやつなら最初から戦場に立つな。

「さて、さて、諸君。」
アスタロトは、エセ紳士が観衆を煙に巻くときのようなおどけた口調で言った。
「此度の争いはもともと、このランゴバルドを自らの贄場としていた銀級冒険者クリュークが、再起不能の重傷を負ったことに端を発する。
この血を新たに己の贄場としたい使徒どもが集まり、血の祭典がはじまった。
すでにいくつかの争いがあり、いくつかの決着をみた。

わたしは、別段ランゴバルドなどどうでもよかった。なので血の祭典自体に参加する意志もなかったのだが、敬愛する邪神の祭司たるアゲートどののたっての依頼あり。」

「じゃあ、なにをしに来た?」
フィリオリナが呟く。

それに答えるように、アスタロトが叫んだ。
「アゲート曰く。
およそ使徒という使徒。西域のみならず、大北方、中原までもありとあらゆるヴァルゴールの使徒を残らずランゴバルドの地に集めてほしいのだと。そのために我が魔力が必要なのだ、と。」

その背後の空間が、歪む。
転移のためのゲートを文字通り「門」として構築するのは、通るものにもわかりやすい。

特に転移になれないものは、扉をくぐる、という行動が、大事になったりする。

現れたのは、青銅の扉。
それが軋みながら開いていく。

「そして、我が身の準備が整ったところに、君たちが現れたわけだ。いや今からでも逃げて構わないよ。
わたしは追わない。」

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