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第42話 戦いの火蓋

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後から、言われた。
ぼくたちが、ランゴバルドの使徒討伐部隊と、アモンたちが睨み合う場に、転移したときに起きたのは決して混乱ではない。
使徒討伐部隊は、ぼくらの出現で、明らかにこいつらは「敵」との判断した。

最初に動いたのは、初老の剣士。彼から最も近い位置にいたぼくに、なんの気負いもない3歩を踏み出し、3歩目に腰を捻るようにして抜刀。そのまま切り付ける。
東域では「居合い」として知られる技だった。

ギルド「精霊王の泉」、所属パーティ「斬月社中」所属、剣士「死風」マタシロウ。
もちろん、後から知った。
彼が抜き打ちの動作にはいるのと、フィオリナが彼の顔を鷲掴みにしたのがほぼ同時。
相当の修練の賜物だったのだろう。
フィリオナの手が彼の後頭部を地面に叩きつけ、意識を飛ばしたあとも、彼の斬撃は美しい弧を描いて、虚空を走り抜けていった。
一瞬遅れて、殺到する冒険者たちに、ゴウグレが立ちはだかる。

「萎えよ。」

銀級冒険者の半数がバタバタと倒れる。
同じ銀級のフィリオペは、危うく命を落とすところだったが、やほり、現役バリバリの銀級は半分はレジストするものだな。

残りの半分は、メイドさんたちが展開した“巣”に突っ込んだ。
身体をバタバタさせるが、動けば動くほど、絡みついていく。

リーダーらしき金色の胸当てをつけた男が、剣を一閃させると、何人かが解放された。

「おのれ! ヴァルゴール。」
金色胸当てが叫ぶ。
「やはり、貴様らがヴァルゴールの手引をしていたのだな! かまわん。ならば我が秘技にて戦うまでだ。」

胸当てが、発光した。それ自体にはなんの攻撃力もない。ただただまぶしいだけの光だった。
「うわああ、め、めがああ。」とギムリウスがのたうちまわる。ゴウグレとメイドさんたちがあわてて真似をした。
いや、ギムリウスの目はそういう構造になっていないはずなので、これはたぶん、その手の話を読んだギムリウスが真似をしてみたかっただけなんだろうと思う。

「『聖櫃の守護者』たるジーナスとわたしの聖獣『ボルカルク』の前に、まずおまえらが贄となれ、ヴァルゴールの使徒め!」

ボルカルク、とよばれだ召喚獣は光り輝く体毛をもつ、巨大な狼だった。

「ルト。」
アモンの声がやや緊張していた。
「あれは、やっかいだ。ああして呼び出してしまうと、2~3人食い殺さないと帰らない。」

「無理やり追い返すのは?」
「やってできないことはないが、そうするとあいつの胸当ての魔力自体が消滅するし、あとであいつ自身がボルカルクに食われる可能性がある。」

「そっちはそっちでなんとかしてもらいましょう。」
ぼくはフィオリナに目配せした。フィオリナは笑って頷いた。これで戦闘態勢は完了である。
ボルカルクが吠えた。いや音ではない。それの声が、いや声ではない。声に相当するなにかは光の針となって撒き散らされた。
幸いなことに、ギムリウスの糸にからまっていたのものは、糸が防壁となって光の針から守ってくれたようだ。
そうでないものは、盾を構えたり、自らの得物で懸命に光の針に対処した。

「見たか、我が聖獣の魔力を!」
『聖櫃の守護者』ジーナスは、取り敢えず損害を受けたのが、ほとんど味方であったことは気にならないようだった。

「聖獣一体!」
続いてジーナスがボルカルクにまたがるど、腰のあたしまでボルカルクに沈みこんだ。
「蹴散らせ!ボルカルク!」
そう叫んでの突進した彼らは、ギムリウスの巣に突っ込みもがき始めた。
学習はしないのか?


見れば、アモンとボルテックの体には光り輝く枷のような物がかけられていた。
動けないのか、と思ったが、そんなこともなく、ポルテックがなにやら唱えると枷は、はずれて地面に落ち、アモンのほうは彼女が、1歩動いただけでバラバラになって地面に散らばった。

「ジウル!!」
ドロシーがボルテックの逞しい胸のなかに飛び込んでいった。

「これはこれで、お似合いのカップルに見える。」
フィオリナが、つぶやいた。
「何故だ?」

「そのときどきで気持ちは真面目なのだろう。」
なんとなく、宥める言い方になったのは、フィリオリナの声にいらだちを感じたからだった。

アモンは、なんとか無事のままの冒険者の、肩をポンと叩いた。叩かれた方はそのままへたり込む。
そうして、最後に残ったいく人かを無力化してしまうと、アキルの前にたった。

「予定よりも早いようだ。」
見ると光学迷彩を外した戦士の一団が、奥にある廃屋になった建物を取り囲むところだった。

「ヴァルゴールは止めることが出来ないって言われました。」

「だ、そうだがどうする?ルト!」


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