40 / 56
第39話 総力戦
しおりを挟む
「それでどうなったのだっ!」
ランゴバルド伯爵は喚いた。
「賊を拘束した時間は約18分間、投射された光の矢は456本、ボウガン1298本、光の剣56本、バリスタによる投石18回、さらに光の槍を使う術者が詠唱準備にはいったところで、逃げられました。」
「どうやってだ!」
ランゴバルド伯の顔は蒼白に近い。
「転移だと思われます。ただし、従来の転移とは異なる特殊は波動を感知しております。ただいま、法務局魔術支援特課にて解析を行っておりますが、時間がかかりそうです。
およそ、定命の我々には詠唱不可能な情報量が盛り込まれていますので。」
秘書官は、視線を資料に落とした。
書類は明滅して、あたらしい文字がそこには浮かび上がった。
「王室より、今回の事態への報告書の提出を求められております。期限は、本日午後11時。伯爵ご自身での署名が必要となりますので、本日は本庁にお泊りになることをおすすめいたします。」
「・・・わかった。」
ランゴバルド伯爵は、無能な人物ではない。怒りに任せて、喚いたとこで、事態は好転しないのは目に見えていた。
「で、賊の素性はヴァルゴールの12使徒のアスタロトに間違いないのか?」
「先日、交戦したカゼウミさまからの報告と、人相、風体、使う技なども合致しております。本人と断定して間違いないかと思われます。
「ああ・・・」
また、書類が明滅し、新しい文字が浮かんだ。
「アスタロトの潜伏先を特定できた者がいるとの報告です。」
「何者だ!?」
「ランゴバルド冒険者学校の自警団リーダーだそうです。」
「知らんな。『神竜騎士団』ならば団長は、メイリュウというはずだが・・・・」
「つい先日、新しい団長が就任しております。名前はアモン。竜人の女性だそうです。」
アモン。
それが、彼が逮捕しようとした「踊る道化師」のメンバーのひとりであることを思い出すまでには、数瞬かかった。
「わかった。今動ける聖櫃の守護者をすべて、完全装備で向かわせろ。各ギルドで動かせる黄金級以上の冒険者で、即時出動可能な者も、だ。」
「それが・・・」
「どうした?」
「アモンからは、すべてを自分に任せるようにとの要望です。それでなければ、アスタロトの居場所は教えられない、と。」
伯爵は唸った。踊る道化師のやつらはどいつもこいつも!
ひとりとして、思うように動かない。
「ひとりで、アスタロトを倒せるとでも言うのか!」
「いえ、説得してくる、と。」
はあ?
ランゴバルド伯爵の顔にでっかい疑問符が点滅した。
「なにを・・・するって?」
「よく言い聞かせて、血の祭典を中止させるそうです。」
「そんな、ことができるかっ! ヴァルゴールの狂信者を相手にするんだぞ。」
「すでに、ゴウセルとアレクハイドの二名は説得済みだそうです。」
伯爵と秘書官は沈黙した。
「ルト!」
昼過ぎ、ややまばらになり始めた学食だ。
ぼくと、フィオリナ、アキルたちが午後の授業をさぼりまくっているところに、ドロシーが飛び込んできた。
フィオリナとアキルの姿を見て、少し躊躇したが、意を決してぼくに話しかけようと
「落ち着け、鶏ガラ」
フィオリナは、ドロシーには容赦なさすぎる。リナなどは、クローディア家の猶子にまでしてやって、王立学院に復学させてやっているのに。
そもそも「鶏ガラ」が胸のボリュームの話なら、きみだって。
「フィオリナ姫!」
「フィオリナでいいから話せ。」
「・・・・」
言われてドロシーは絶句した。
「・・・なにをどう、話したらいいのか・・・」
「最初から話して、最後まで話し終わったら止めろ。」
そう言われて、かえって覚悟が決まったのか、ぽつりぽつりと話し始めたドロシー。
「ジウルがアモンさんと戦うと言い出して・・・」
「はしょりすぎだ。なんでじじいが、アモンと戦わなければならないんだ?」
『じじい』がジウル・ボルテックのことだとわからずに、きょとんとしたドロシーだ。
ここで、おまえがあれこれ励んでる師匠は、実は100歳を優に超えるじいさんだとバラして話を複雑にしたくなかったぼくは、口をはさんだ。
「フィオリナとぼくは、小さい頃からのつきあいなんで、あだ名でジウル・ボルテックをそう呼んでるんだよ。続けて。」
「ルトが渡してくれたギムリウスの羅針盤をたよりに、アスタロトの居場所を探してて・・・ほぼ居場所を特定できたの。
で、そこに乗り込もうとしたときに、アモンさんがやってきて、『アスタロトのことはわたしに任せろ』って。
ジウルは『さっきは繁華街のホテルで本気になれなかったからだ。』って言ってひかなくって。
昨日は遅くまで、頭を冷やせだの、おまえの出番は終わったとかで言い争いになって。
ついさっき、ふたりで出ていったの。
取り敢えず、現地まで行ってから決めようって言って。」
「場所は?」
「東部旧市場あとです。撤去が決まった廃ビルです。」
「ギムリウス!!!」
ぼくは叫んだ。
はい?
と、テーブルの下でいっしょにお昼を食べていたギムリウスが顔をだした。
なんでそこで食べるのか。いっしょにゴウグレもいた。メイドさんたちも。いた。
「いま、ドロシーが言った場所まで転移できるか?」
「地図ってあります?」
ほんとうはそんなもので転移は出来ない。
グランダ最高の転移魔法の使い手ボルテックでも無理だろう。
だが。
ギムリウスはおそらくは、神代を除けば歴史上でも最高の転移魔法の使い手だ。
「ぼくたちをそこに転移してくれる?」
そうだな。
これはぼくが悪いかもしれない。この状態で「ぼくたち」って言ったら、それはギムリウスたちも含んでしまうよね。
ランゴバルド伯爵は喚いた。
「賊を拘束した時間は約18分間、投射された光の矢は456本、ボウガン1298本、光の剣56本、バリスタによる投石18回、さらに光の槍を使う術者が詠唱準備にはいったところで、逃げられました。」
「どうやってだ!」
ランゴバルド伯の顔は蒼白に近い。
「転移だと思われます。ただし、従来の転移とは異なる特殊は波動を感知しております。ただいま、法務局魔術支援特課にて解析を行っておりますが、時間がかかりそうです。
およそ、定命の我々には詠唱不可能な情報量が盛り込まれていますので。」
秘書官は、視線を資料に落とした。
書類は明滅して、あたらしい文字がそこには浮かび上がった。
「王室より、今回の事態への報告書の提出を求められております。期限は、本日午後11時。伯爵ご自身での署名が必要となりますので、本日は本庁にお泊りになることをおすすめいたします。」
「・・・わかった。」
ランゴバルド伯爵は、無能な人物ではない。怒りに任せて、喚いたとこで、事態は好転しないのは目に見えていた。
「で、賊の素性はヴァルゴールの12使徒のアスタロトに間違いないのか?」
「先日、交戦したカゼウミさまからの報告と、人相、風体、使う技なども合致しております。本人と断定して間違いないかと思われます。
「ああ・・・」
また、書類が明滅し、新しい文字が浮かんだ。
「アスタロトの潜伏先を特定できた者がいるとの報告です。」
「何者だ!?」
「ランゴバルド冒険者学校の自警団リーダーだそうです。」
「知らんな。『神竜騎士団』ならば団長は、メイリュウというはずだが・・・・」
「つい先日、新しい団長が就任しております。名前はアモン。竜人の女性だそうです。」
アモン。
それが、彼が逮捕しようとした「踊る道化師」のメンバーのひとりであることを思い出すまでには、数瞬かかった。
「わかった。今動ける聖櫃の守護者をすべて、完全装備で向かわせろ。各ギルドで動かせる黄金級以上の冒険者で、即時出動可能な者も、だ。」
「それが・・・」
「どうした?」
「アモンからは、すべてを自分に任せるようにとの要望です。それでなければ、アスタロトの居場所は教えられない、と。」
伯爵は唸った。踊る道化師のやつらはどいつもこいつも!
ひとりとして、思うように動かない。
「ひとりで、アスタロトを倒せるとでも言うのか!」
「いえ、説得してくる、と。」
はあ?
ランゴバルド伯爵の顔にでっかい疑問符が点滅した。
「なにを・・・するって?」
「よく言い聞かせて、血の祭典を中止させるそうです。」
「そんな、ことができるかっ! ヴァルゴールの狂信者を相手にするんだぞ。」
「すでに、ゴウセルとアレクハイドの二名は説得済みだそうです。」
伯爵と秘書官は沈黙した。
「ルト!」
昼過ぎ、ややまばらになり始めた学食だ。
ぼくと、フィオリナ、アキルたちが午後の授業をさぼりまくっているところに、ドロシーが飛び込んできた。
フィオリナとアキルの姿を見て、少し躊躇したが、意を決してぼくに話しかけようと
「落ち着け、鶏ガラ」
フィオリナは、ドロシーには容赦なさすぎる。リナなどは、クローディア家の猶子にまでしてやって、王立学院に復学させてやっているのに。
そもそも「鶏ガラ」が胸のボリュームの話なら、きみだって。
「フィオリナ姫!」
「フィオリナでいいから話せ。」
「・・・・」
言われてドロシーは絶句した。
「・・・なにをどう、話したらいいのか・・・」
「最初から話して、最後まで話し終わったら止めろ。」
そう言われて、かえって覚悟が決まったのか、ぽつりぽつりと話し始めたドロシー。
「ジウルがアモンさんと戦うと言い出して・・・」
「はしょりすぎだ。なんでじじいが、アモンと戦わなければならないんだ?」
『じじい』がジウル・ボルテックのことだとわからずに、きょとんとしたドロシーだ。
ここで、おまえがあれこれ励んでる師匠は、実は100歳を優に超えるじいさんだとバラして話を複雑にしたくなかったぼくは、口をはさんだ。
「フィオリナとぼくは、小さい頃からのつきあいなんで、あだ名でジウル・ボルテックをそう呼んでるんだよ。続けて。」
「ルトが渡してくれたギムリウスの羅針盤をたよりに、アスタロトの居場所を探してて・・・ほぼ居場所を特定できたの。
で、そこに乗り込もうとしたときに、アモンさんがやってきて、『アスタロトのことはわたしに任せろ』って。
ジウルは『さっきは繁華街のホテルで本気になれなかったからだ。』って言ってひかなくって。
昨日は遅くまで、頭を冷やせだの、おまえの出番は終わったとかで言い争いになって。
ついさっき、ふたりで出ていったの。
取り敢えず、現地まで行ってから決めようって言って。」
「場所は?」
「東部旧市場あとです。撤去が決まった廃ビルです。」
「ギムリウス!!!」
ぼくは叫んだ。
はい?
と、テーブルの下でいっしょにお昼を食べていたギムリウスが顔をだした。
なんでそこで食べるのか。いっしょにゴウグレもいた。メイドさんたちも。いた。
「いま、ドロシーが言った場所まで転移できるか?」
「地図ってあります?」
ほんとうはそんなもので転移は出来ない。
グランダ最高の転移魔法の使い手ボルテックでも無理だろう。
だが。
ギムリウスはおそらくは、神代を除けば歴史上でも最高の転移魔法の使い手だ。
「ぼくたちをそこに転移してくれる?」
そうだな。
これはぼくが悪いかもしれない。この状態で「ぼくたち」って言ったら、それはギムリウスたちも含んでしまうよね。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
40
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる