神さまは生贄がお嫌いなようで

都茉莉

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残されたホズミ

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 三日後。
 予定通り神気が回復し、さくやを村に返す日になった。

「ねえ、書物を少しくらい持って帰ったら駄目かしら?」
「駄目だ。人の世には過ぎたものだし、そもそも君はあんな重いものを背負って下山する気かい?」
「……重さは大したことないわよ」

 元から期待していなかったのだろう。拗ねたような声音だが、顔は笑っていた。
 ホズミは苦笑してさくやに道中の食料を気持ちばかり手渡した。

「神域の外でどれほど保つかはわからんが、持っていけ。多少は足しになるだろう」
「ありがとう。大事に食べるわ。ホズミ様も、私がいなくなってもちゃんとした食事をしてくださいね」
「ああ。ちゃんと帰れよ」
「ええ、もちろん」

 術式に神気を流し込む。ぱっと輝いた光の奔流はさくやに収束した。大掛かりなわりに見た目は随分と呆気ない。
 無言でさくやの背を押し、外へと促す。
 さくやは振り返り、深々と礼をしてから、促されるままに結界を越えた。
 彼女の姿はもう見えない。



「おい、朝餉はーー」

 ホズミは言いかけた言葉を飲み込んだ。
 さくやが居たのはほんの短い間、長寿な神にしてみれば瞬く間と言っていいほどの期間だったにも関わらず、ホズミに深く根付いたらしい。
 もういないことを忘れて声をかけるのも何回目だろうか。
 彼女のいなくなった家は何故だか広く感じた。

 欠落感を誤魔化すように役目に集中した。彼女たちの願い。村の豊穣。
 そして、万が一また贄などが送られてきたときに簡単に返せるように、結界を現ホズミ自身のものに修正しよう。

 ホズミが直接結界を確認しているとき、つい数日前に感じたばかりの、誰かが結界を越えた感覚を拾った。
 さくやではない。
 彼女には一時的に加護を与えたから、探ればわかるのだ。
 ならば誰だ。嫌な予感が脳裏に浮かんだ。

 放置するわけにもいかないので、結界を越えた場所に向かった。

 嫌な予感は的中した。

 死装束を着た十に満たない少年が祈るように手を合わせている。肩で揃えられた黒髪は女と見紛うほど艶やか。
 そして何より、顔立ちがさくやと似ていた。

 長い睫毛を持ち上げ、少年は事務的に言う。

「姉、さくやに代わり、不肖わたくし、ゆずりはが、贄となるべく参上いたしました」
「贄は不要と書いたはずだが」

 頭痛を耐え、ホズミも淡々と返す。

「娘を送るなとありましたので、神様の趣味が変わったのかと考えたしだいです」
「不要なのは生贄全てだ! 娘だろうが子どもだろうが送ってくるな!」

 ホズミの意思が人間に伝わる日は、まだまだ遠いようである。
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