神さまは生贄がお嫌いなようで

都茉莉

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世話焼きのさくや

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 ホズミがさくやを家に連れてきてまずさせたのは着替えだった。贄たることを主張する胸糞悪い死装束を、いつまでも着せておきたくはなかった。

 そこで問題になったのが変えの服。女物など当然持っているわけがない。ただ、ホズミの服は十分着れる大きさだった。
 なんせホズミの外見は少年そのもの。爛々と光る金の瞳に目を瞑れば、親元を離れる年にもならない麗しい少年でしかない。初めにわざとらしいほど神様らしく振舞ってみせるのも、幼い外見が起因している。
 それでも神は神。見た目に惑わされてはいけない。ふとした瞬間纏う雰囲気は人ならざるもののそれだ。

 ホズミの服を着たさくやは着慣れない質のいい服に落ち着かなげだったが、ホズミのあまりにあんまりな生活ぶりにそれどころではなくなった。

 なんせこの神、生活能力が皆無なのだ。全てを神気でまかなっているというダメっぷり。
 五人兄弟の長女で世話を焼いて生きてきたさくやは、いつの間にか吹っ切れた。蘇りかけていた神への畏敬はどこへやら、だ。見た目が少年なだけに遠慮も消し飛んでいく。

 彼女の手は先代が残した書物やらなんやらにまで及んでいた。

 彼女が神域に来て、三日経っていた。

「無傷で外に出す術式は完成した。発動する神気はあと三日でたまる」
「わかったわ。それまでにもう少し書物の整理を進めたいの」

 さくやの興味はがっつり書物に移っていた。
 有事の時に代々贄を捧げる代わりに特権を得てきた家系であるさくやは、簡単な読み書き程度ならばできる。だが所詮は田舎村。たいした書物はない。
 見たことがないほどたくさんの貴重な書物に心を奪われたさくやだが、そればかりに気を取られていたわけではない。
 生活感皆無神をどうにかすべく奮闘していた。

 朝起きたら朝餉を作り、ホズミにも食べさせる。片付けをしたら書物の整理。日が傾き始めたら夕餉を作る。
 食事は娯楽に過ぎず食べなくとも生きていけると豪語するホズミに食事を習慣にさせるのが目標だ。呼ばなくても来るようになってきたわけだからなかなかいい具合である。
 自分がしているのが侍女まがいなことだとは全く気付いていない。ほとんど生贄の行き着く先と同じことをしているなどとは。……そのままの方がお互いに幸せだろう。

 さくやがせっせと働いている間、ホズミはというと神気回復のために寝ていた。ひたすら寝ていた。これ以外に神気を回復させる手段はないのだ、致し方なし。

 先代が使っていたものを流用したせいで、結界は人間は入れるが出れないという生贄を逃さないつくりのまま。こんな結界から元生贄のさくやを出すには新たに術式を付け足す必要がある。
 出すだけならわざわざためる必要もないのだが、その後村まで女の足で三日程度。無事である保証はない。道中で死なれては後味が悪いので簡易的な加護を与えようとしたのだ。
 慣れないゆえに異様に大掛かりになってしまったが安全第一だ。さくやには我慢してもらおう。

 さくやのいる生活に馴染みつつあることには、気づかないふりをした。
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