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rumor
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その夜、セシリアは灯りもつけずに貰った短剣を眺めていた。
鞘から出した剣は、血の味を知らないはずなのにセシリアを妖しく魅了する。
ノエルの元から戻ってすぐ、同室の者に呼び止められた。
呼び出しの内容を執念く尋ねられたので、渋々贈り物を貰ったことを話すと、やっぱりと頷いていた。
納得のいかない表情をしていたのだろうか、噂好きの彼女は聞いてもいないのに理由を話し出した。
「ノエル様のお気に入りは、皆外見が似てるのよ。特にその、栗色の猫っ毛は全員に当てはまるわ。誰かの影を追ってるんじゃないかって、専らの噂」
こんな噂が出回っているというのに、多くの女性たちがもしかしたらと期待して、敗れていった。そして彼女は何人もそんな女を見送ってきたという。
「決して本気になったらダメよ。絆されたところでバクリ、なんだから」
あまりに真剣な表情で忠告するので、セシリアもつられて神妙に頷いた。
それから、やけに明るい口調で贈り物の内容を探ってきた。どうもノエルは人によってあげるものが違うらしい。
だからこそ、期待してしまう者が多発するのだ。
短剣だと告げると、彼女は目を見張った。
話をうかがうに、ほとんどが装身具で他でもカトラリーがせいぜい。
短剣なんて異例中の異例だという。
特別という文字が脳裏を掠めてドキリとした。
他の人とは違う短剣なんて物騒なものを贈られたのは何故だろうか。主は何を考えているのだろうか。……どういう「特別」なのだろうか。
内面を見透かされているのではと疑心暗鬼に陥り、身動きができなくなりそうだ。
指先でそっと刃をなぞると小さい痛みに続いて血が浮かんできた。ゆっくり口に含み、舌先で舐めとる。
じわりと広がる鉄の錆びたような味の奥で感じた仄かな甘みが、彼女を追い詰めていくようだった。
鞘から出した剣は、血の味を知らないはずなのにセシリアを妖しく魅了する。
ノエルの元から戻ってすぐ、同室の者に呼び止められた。
呼び出しの内容を執念く尋ねられたので、渋々贈り物を貰ったことを話すと、やっぱりと頷いていた。
納得のいかない表情をしていたのだろうか、噂好きの彼女は聞いてもいないのに理由を話し出した。
「ノエル様のお気に入りは、皆外見が似てるのよ。特にその、栗色の猫っ毛は全員に当てはまるわ。誰かの影を追ってるんじゃないかって、専らの噂」
こんな噂が出回っているというのに、多くの女性たちがもしかしたらと期待して、敗れていった。そして彼女は何人もそんな女を見送ってきたという。
「決して本気になったらダメよ。絆されたところでバクリ、なんだから」
あまりに真剣な表情で忠告するので、セシリアもつられて神妙に頷いた。
それから、やけに明るい口調で贈り物の内容を探ってきた。どうもノエルは人によってあげるものが違うらしい。
だからこそ、期待してしまう者が多発するのだ。
短剣だと告げると、彼女は目を見張った。
話をうかがうに、ほとんどが装身具で他でもカトラリーがせいぜい。
短剣なんて異例中の異例だという。
特別という文字が脳裏を掠めてドキリとした。
他の人とは違う短剣なんて物騒なものを贈られたのは何故だろうか。主は何を考えているのだろうか。……どういう「特別」なのだろうか。
内面を見透かされているのではと疑心暗鬼に陥り、身動きができなくなりそうだ。
指先でそっと刃をなぞると小さい痛みに続いて血が浮かんできた。ゆっくり口に含み、舌先で舐めとる。
じわりと広がる鉄の錆びたような味の奥で感じた仄かな甘みが、彼女を追い詰めていくようだった。
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