落日

MR.JiRO

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出逢い。

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「先生、生まれました!生まれましたよ!」
「男の子です!」
新しい生命を喜ぶ声が病院の中にこだまする。
冬の空気が馴染み、雪がちらつく12月のこと。消毒液の匂いが香る部屋に産声がいっぱいに響くとき先生と呼ばれる男が入ってくる。
父、東郷弘臣である。文才家の彼とイタリアンレストランを経営する母、美由の間に初めて子供が産まれた。
時、程なくして後に知る母の温もりという感覚を体全部で感じながら初めての我が家へと帰る。
父母ともにそれなり以上の財力を持つ我が家は大きく、誰もが羨み、そんな私もボンボンというやつである。大きな門、ガレージ、庭。豪邸とは言わずとも注文住宅による細かいこだわりと1球建築士が建てたこの家はどこからどうみても立派なものだ。
そのボンボンは東郷秀作と名付けられる。

何度かの季節の巡りを経験した秀作はすくすくと成長し今や5歳になる。
弘臣や美由は仕事を多少なりとも落ち着かせ、3人の家族の絆に重きを置いていた。それは徐々にしっかりと輪郭をみせて円満に時を刻んでいった。
今日は幼稚園の佳境。年長さんという時期へ突入して最初の日。春のうららかな日和の中、母、美由の声に起こされて秀作は目を覚ます。
「秀ちゃん起きて。朝ごはんよ」
「う~ん、今行く」
眠気と戦う心境とは生まれてから死ぬまで変わらないものであろう。小さいながらも幼稚園という仕事を全うすべく秀作は部屋を後にする。
リビングへ行くとそこには事務所へ向かう前に珈琲を片手に新聞を読む父の姿。時事ネタの仕入れと世界の様子を知るのは仕事のひとつなのだと彼はいう。
「秀作、今日は年長さんになる日だな」
「うん!」
「大きくなったんだね…」
「来年卒業して小学生になる時も同じこというでしょ」
美由が朝食を持ってくると話しに入ってきた。全くな話しである。
「それもそうだな」
ウェリントン型のお洒落な眼鏡の中で弘臣の目は笑みで柔らかにしわを寄せた。
「「「ご馳走様でした」」」
みなの声が響く。
それぞれがそれぞれの準備を始めると1番に準備完了の知らせを告げる声が上がった。秀作だ。秀作は内心年長になった今日を楽しみにしていたのか周りを急かす。
「準備できたよ。みんな早くー!」
その声につられるように慌ただしく身仕度を済ませて玄関を出るとお互いの行ってきますをして歩き出した。
弘臣は徒歩で駅へ、美由と秀作は自家用車のあるガレージへ踵を返す。
「じゃ、行こっか」
「うん!」
美由の運転は慣れていてスムーズにガレージを出ると軽快に幼稚園へと向かって行った。
10分程して幼稚園へと到着する。そこには登園した家族たちがたくさん集まっていた。今日は年長になる子、年中になる子、入園する子と新しい顔がたくさんいる。ともあればその分新しい父母もいる。父母方とて今日は大切な日である。
若い先生達に連れられて子供達がそれぞれのクラスへ行くと保護者は別室へと通され、説明を受ける。
「以上になります。本日はプリントに記した通り午前中のみとなりますので帰宅の際はくれぐれもお気をつけください」
先生の説明が終わると仲のいいママさんは世間話を繰り広げ、区切りのいいところで子供を迎えにいった。美由もその流れで秀作を迎えに行き、車へと戻った。
パーキングを出ると近くのレストランへと向かい昼食を取る。
「秀作。年長さんになった気分はどう??」
美由が柔らかい口調で問う。すると気のいい返事が返ってきた。
「明日もすっごく楽しみだよ!幼稚園の中で1番お兄ちゃんなんだ!」
「そうね!それじゃ頑張って立派なお兄ちゃんにならないとね!」
「うん!」
ニコニコと希望に胸を膨らませた笑顔で秀作は笑う。
「あ、そういえばね。先生がいってたんだけどね」
なんだろうか……
「明日僕たちに新しい友達がやってきます。って!」
「どんな子だろう。男の子かな。女の子かな。」
新学期の1日遅れなんて若干変なタイミングだなとふと思いながらレストランのハンバーグを頬張る。
「それはお母さんにもわからないなー。でも仲良くなれるといいね。」
美由は答える。
「早く会いたいなー新しい友達」
明日も楽しみだという気持ちがそれはそれは顔に出てらっしゃる秀作。
昼食もぼちぼち食べたところで家に帰ろうと美由と秀作はお会計にいった。
車に戻りキーを回すとブルンと気合いを入れたような音をたてて車は動き出した。
家に向かう途中晩御飯の買い物をしようとスーパーへと向かう。
いつも利用するスーパーに車を停めると丁度日が傾いてきた。
「晩御飯何にしようね?」
「うーん…唐揚げ?」
「唐揚げかー…」
どちらかといえばやりたくない油物を注文されて言葉に詰まっていると少し奥の惣菜コーナーの方から2人を呼ぶ声がした。
「おーい!」
「あ!お父さん!」
弘臣だ。
「あなた、どうして…?」
「なに、仕事が早く終わったし今日は秀作のめでたい日だからな。」
「私が晩御飯を作ってやろうと思ったんだよ!」
「珍しいこともあるものね」
「けっこう若いころは料理していたんだ。ちょっとばかし腕には自信あるよ」
「うわー!パパの料理楽しみー!」
「そうだろ!すごいの作るから楽しみにしてな!」
「あと晩御飯の時に年長さんのこと聞かせてくれよ」
そういうと弘臣はもうレシピは決まってあるとばかりにカゴに食材を入れていった。
「どれ、家まで運転するよ」
そういって父は車を走らせる。家につくと近くのアパートで母と子2人で引っ越しをしているであろう人物を見つけた。
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