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1人と1人と1人
しおりを挟む2041年
よく晴れた青空の下。
木陰の隙間から天を仰ぐ。
そよ風の中には近代化したなんというか「街くさい」という言葉が似合う感じが混ざっている。
ここは私の故郷。海の街、石巻だ。
新しく創られた街の公園で1人膝を抱く。
思いというほどの輪郭はなく、呆けてるような緩さではない。
そんな無色透明な心模様を他人がみたらどんな風に見えるのだろうか…
なにせ私は30年前の過去から来たのだから……………
_________________________
「…………………」
静寂と呼ぶには周りはとても五月蝿い。
「ねむ……」
ぼそりと彼女は呟く。
そして東から声がする。詩音だ。
「希未~!待った??」
「ううん、今日はバンドはないの?」
「今日はオフ!なんか…どしたの?」
「ん~、考え事」
先ほど無色透明だなんだかんだかっこつけて求めた他人からの自分の見え方に泣きたくなるほど彼女は普段と変わらないリアクションである。
程なくして私達は立ち去り、自分らの住むA地区へと足を進める。
過去から来たのに何故住居をもってるか。それは言いづらいが何故かは知らない。「ここが私の家だから」としかいいようがないんだ。
そんなことは置いといて。
近所のカフェテリアで昼食をとり、自室をオリジナルのDIYでまとめた詩音の家へと向かう。
帰宅後の行動パターンがプログラムされているようにアコースティックギターを膝に乗せて曲を奏でる姿は未熟であってもミュージシャンであり自分なりの答えを求めて探求心を燃やして生きていることを納得させられるような力強さをひしひしと感じる。
「詩音さ、なんで音楽やってるの?つかなんでギターだったの?そもそもきっかけって何?」
「ちょ…そんないっぺんに聞かれてもわかんないって!」
そりゃそうである。
「んーなんでって聞かれて答えられるものなようやそうでもないような…」
「なにそれ…」
「ぶっちゃけすごい漠然としてるけど気付いてたら持ってたような気がするんだよね。そりゃ音楽なんて人間に生まれた以上関わらないことなんて多分ないじゃん?」
「そう…だね」
「んでそうなると楽器だって然りじゃん?んでちょっとかっこいいなんて思ったら多分そん時には拾ってた。つまりきっかけなんてものは始めるだけの瞬間の動機であってギター持ってからはそんなのどうでもよかったというか、とうの昔に拾った粗大ゴミ置き場に捨ててきたというか」
「あーなんとなくわかる」
「結果オーライじゃないけど私は自分の中の不透明なものをぶつけられるのが音楽でよかったな。ある意味それが音楽やってる理由なのかもね」
「そっか」
「うん、なんとなく自分ではわかってたけど口にだして人にこんな話したの初めてかも」
そういって笑う彼女はどこか嬉しそうで、恥ずかしそうで、だけど悲しそうだった。
そう感じたのは詩音という女の子がこれまでを生きる上で一般的にいえば"苦痛な人生"というのを歩んできたことを知ってるからだろうか。
そう彼女は捨て子なのだ。それも物心がついてから捨てられた女の子なのである。
「ねぇ…」
句点のつくような会話のやりとりの後、先に口を開いたのは詩音の方だった。
「本当の"生きる"ってなんだと思う?」
「……わかんない。少なくともまだ」
「そうだよね…w」
思春期というか中二病というか、はたまた哲学というか1人1人の思想というか。そういった曖昧な感覚でも多少なり考えるであろうこの思考に彼女達も思いを巡らせる午後。
彼女は歌う。
自分でもよくわからない感情を、感覚を、想いを、言葉と音に乗せて。
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