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出雲ライン
わたしはうそつき
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――どうして卑怯な真似をするのか、って? それを聞くの? 私に?
『疾風に負けじと 疾く駆けぬるは 君の想いと 空言か』
だって私はそういうふうに作られているから。
私のために詠まれた詩なんて知る由もないけど。
北小町は得るものの少ない会議の後、自分の居室兼仕事場であるモニタールームへ来ていた。そして、まだうんうん頭を捻って策を練っている段階の四万十よりひと足早く、千里たちを迎撃するための行動に転じていた。
出雲一帯に張り巡らされた監視カメラの映像がすべて映し出されているマルチモニター。彼女はその全体がよく見渡せる真ん中の椅子に座り、トンッ、と人差し指で自分の心臓のあたりを小突いた。
「起動」
異能発動のスイッチである。
「今日は雨がひどいね、映像の質も最悪」
北はそうぼやいたが、本日の出雲は紛れもない快晴であり、モニターに映し出される風景や通行人はくっきり鮮明に映し出されている。マルチモニター中央に映された、出雲大社のしめ縄の毛羽立ちまで見えてきそうなほどだ。
彼女は『空言』を吐いた。
つまりは嘘。
頭が冴えてくる。視界はクリアになり、思考速度が一段回上昇する。気のせいなどではなく、これが神子である北の異能だ。
「イザナミなんて見つからなきゃいいのに」
さっきまで三つほどしか追えていなかったマルチモニターを、ゆうに五つは捉えられるようになった。どこでどんな人間が歩いているかもよく見える。
嘘をつけばつくほど、思考能力が上がる。これが北の異能の基本能力である。先述した妨害能力はおまけ程度のものであり、このモニタールームで彼女がめちゃくちゃな独り言を言えば言うほど、ターゲットは袋の鼠、知らないうちに追い詰められていくのだ。
「いないな~」
見つけた。
「単独行動とは舐めた真似を」
すっかり飼い犬となった沼斑と伊勢を引き連れたイザナミとスサノオ――こと、千里と幾兎。彼女ら一行は今、日御碕灯台のてっぺんで、夏の潮風を一身に受けるように佇んでいる。
もう一度心臓のあたりをタップしてスイッチオフ。そして施設中に緊急連絡放送を告げる。
「北小町よりの連絡。目標を日御碕灯台にて補足。繰り返す。目標を日御碕灯台にて補足した。神子一同はただちに指定地点へ向かい、目標を殲滅すること。これは最優先事項である。繰り返す――」
ニヤリ、と笑いながら無感情な声で放送を続ける北。
とりあえず正義至上主義の坊っちゃんはだしぬけた。もたもたしてるからこうなるのよ。
『疾風に負けじと 疾く駆けぬるは 君の想いと 空言か』
だって私はそういうふうに作られているから。
私のために詠まれた詩なんて知る由もないけど。
北小町は得るものの少ない会議の後、自分の居室兼仕事場であるモニタールームへ来ていた。そして、まだうんうん頭を捻って策を練っている段階の四万十よりひと足早く、千里たちを迎撃するための行動に転じていた。
出雲一帯に張り巡らされた監視カメラの映像がすべて映し出されているマルチモニター。彼女はその全体がよく見渡せる真ん中の椅子に座り、トンッ、と人差し指で自分の心臓のあたりを小突いた。
「起動」
異能発動のスイッチである。
「今日は雨がひどいね、映像の質も最悪」
北はそうぼやいたが、本日の出雲は紛れもない快晴であり、モニターに映し出される風景や通行人はくっきり鮮明に映し出されている。マルチモニター中央に映された、出雲大社のしめ縄の毛羽立ちまで見えてきそうなほどだ。
彼女は『空言』を吐いた。
つまりは嘘。
頭が冴えてくる。視界はクリアになり、思考速度が一段回上昇する。気のせいなどではなく、これが神子である北の異能だ。
「イザナミなんて見つからなきゃいいのに」
さっきまで三つほどしか追えていなかったマルチモニターを、ゆうに五つは捉えられるようになった。どこでどんな人間が歩いているかもよく見える。
嘘をつけばつくほど、思考能力が上がる。これが北の異能の基本能力である。先述した妨害能力はおまけ程度のものであり、このモニタールームで彼女がめちゃくちゃな独り言を言えば言うほど、ターゲットは袋の鼠、知らないうちに追い詰められていくのだ。
「いないな~」
見つけた。
「単独行動とは舐めた真似を」
すっかり飼い犬となった沼斑と伊勢を引き連れたイザナミとスサノオ――こと、千里と幾兎。彼女ら一行は今、日御碕灯台のてっぺんで、夏の潮風を一身に受けるように佇んでいる。
もう一度心臓のあたりをタップしてスイッチオフ。そして施設中に緊急連絡放送を告げる。
「北小町よりの連絡。目標を日御碕灯台にて補足。繰り返す。目標を日御碕灯台にて補足した。神子一同はただちに指定地点へ向かい、目標を殲滅すること。これは最優先事項である。繰り返す――」
ニヤリ、と笑いながら無感情な声で放送を続ける北。
とりあえず正義至上主義の坊っちゃんはだしぬけた。もたもたしてるからこうなるのよ。
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