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07 マシワ・イヌガイとヨミ・キサラギ
嗜虐心の培養
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「ヨミちゃんはねぇ、学生時代はそんなに悪い奴には見えなかったんだよぉ。むしろ、教員からは気に入られてたんだからぁ。出来が良くてねぇ」
ヨミの過去について尋ねると、マシワは饒舌にあれこれ話し始めた。
「ただぁ、政府がサイバネの研究を推し進めるようになってからぁ、急にやる気がなくなってねぇ。僕は楽しかったんだけどぉ、ヨミちゃんは嫌いだったみたいだよぉ。それ以来かなぁ、あんまり一緒に遊んだり、話さなくなったのぉ」
「だが、あいつは今全身義体を提供できるほどの病院を経営しているが?」
「自分でやったり自分に入れたりするのが嫌なだけでぇ、部下にやらせる金儲けの道具としてはぁ、割り切ってるんじゃないかなぁ」
それなら納得できる。しかし、サイバネ嫌いとは。今の御時世何らかの機械を体に入れていないとしたら、そいつは相当な変わり者か健康体なのだが。
「分かってるとは思うが……奴と俺達は敵同士だ。俺達は、あいつを処分するつもりでいる」
「そんなのは分かってるよぉ。君達は掃除屋で、ヨミちゃんは廃棄物だもん」
「あの……嫌じゃないんですか? 昔の友達を殺されるのは」
「ヘルゼルちゃんは優しいねぇ。嫌じゃないよぉ。僕はもう、ヨミちゃん嫌いだもん」
一瞬だが、奇妙なだけで害はない生き物であるマシワの瞳に、影がさした気がした。
それは錯覚ではない。
「ヨミちゃんはぁ、人の大切なものを壊すのが生きがいだからねぇ。僕も、壊されちゃったんだぁ」
「それは……」
「可愛くて真面目な子だったんだよぉ。あ、恋人とかじゃないよぉ。妹ねぇ。……しんどかったよぉ、一時期は」
「殺されたのか……?」
「いやぁ。まだ生きてるけどねぇ。義体を入れづらい繊細な神経をやられて、半身不随の車椅子生活さぁ。今どき、バリアフリーなんて死語でしょぉ? 結構大変なんだよぉ、やっていくのぉ」
動機も分からないんだぁ、という呟きとともに小さくため息を付く。そのため息で負の感情を吐き出したかのごとく、瞳の光を取り戻したと思うと、また感情の読めない奇妙な口調でマシワは言う。
「君達は壊されないでねぇ、特にデシレちゃん。僕はぁ、君の研究にすっごくすっごく興味があるんだからぁ」
「ああ……せいぜい死なないように善処するさ」
我ながら、あまり前向きではない台詞。
するとマシワは、俺の胸、心臓のあるあたりにボールペンを押し当てこう言った。
「殺されたくないなら先に死になさ。捨てるのは命じゃなくてプライドだけどねぇ」
ニニィッという効果音が似合いそうな笑みはしかし、不愉快ではない。愛嬌さえある。
「あんた、面白いな」
「どうもぉ」
「プライドを、捨てる? マシワさん、それって」
「君達は頭の良い子だから、考えればきっと分かるはずだよぉ。すぐにねぇ」
こうして、お互いに話したい事は全て片付いた。時間も押してきたので、部屋を出ようとする俺達にマシワが思い出したように声をかける。
「ああ、デシレちゃん。君ってタバコ吸うぅ? 吸うよねぇ、臭いするもん。だから、これあげるよぉ」
手渡されたのは銘柄の書かれていない、古ぼけたタバコの紙箱。
「珍しそうな品だな」
「人前で見せびらかしたりしたら駄目だよぉ。吸うのも隠れて吸ったほうが賢明かなぁ」
「なんだ、違法なタバコなのか? 薬物入りとか?」
「そういう訳でもないけどぉ。吸いたい時は1人の時か、ヘルゼルちゃんと2人の時だけにしなさいねぇ。僕との約束だよぉ」
医者からタバコを勧められるのもおかしな話だと思ったが、それ以上追求せず俺達はシカ医院を後にした。
ヨミの過去について尋ねると、マシワは饒舌にあれこれ話し始めた。
「ただぁ、政府がサイバネの研究を推し進めるようになってからぁ、急にやる気がなくなってねぇ。僕は楽しかったんだけどぉ、ヨミちゃんは嫌いだったみたいだよぉ。それ以来かなぁ、あんまり一緒に遊んだり、話さなくなったのぉ」
「だが、あいつは今全身義体を提供できるほどの病院を経営しているが?」
「自分でやったり自分に入れたりするのが嫌なだけでぇ、部下にやらせる金儲けの道具としてはぁ、割り切ってるんじゃないかなぁ」
それなら納得できる。しかし、サイバネ嫌いとは。今の御時世何らかの機械を体に入れていないとしたら、そいつは相当な変わり者か健康体なのだが。
「分かってるとは思うが……奴と俺達は敵同士だ。俺達は、あいつを処分するつもりでいる」
「そんなのは分かってるよぉ。君達は掃除屋で、ヨミちゃんは廃棄物だもん」
「あの……嫌じゃないんですか? 昔の友達を殺されるのは」
「ヘルゼルちゃんは優しいねぇ。嫌じゃないよぉ。僕はもう、ヨミちゃん嫌いだもん」
一瞬だが、奇妙なだけで害はない生き物であるマシワの瞳に、影がさした気がした。
それは錯覚ではない。
「ヨミちゃんはぁ、人の大切なものを壊すのが生きがいだからねぇ。僕も、壊されちゃったんだぁ」
「それは……」
「可愛くて真面目な子だったんだよぉ。あ、恋人とかじゃないよぉ。妹ねぇ。……しんどかったよぉ、一時期は」
「殺されたのか……?」
「いやぁ。まだ生きてるけどねぇ。義体を入れづらい繊細な神経をやられて、半身不随の車椅子生活さぁ。今どき、バリアフリーなんて死語でしょぉ? 結構大変なんだよぉ、やっていくのぉ」
動機も分からないんだぁ、という呟きとともに小さくため息を付く。そのため息で負の感情を吐き出したかのごとく、瞳の光を取り戻したと思うと、また感情の読めない奇妙な口調でマシワは言う。
「君達は壊されないでねぇ、特にデシレちゃん。僕はぁ、君の研究にすっごくすっごく興味があるんだからぁ」
「ああ……せいぜい死なないように善処するさ」
我ながら、あまり前向きではない台詞。
するとマシワは、俺の胸、心臓のあるあたりにボールペンを押し当てこう言った。
「殺されたくないなら先に死になさ。捨てるのは命じゃなくてプライドだけどねぇ」
ニニィッという効果音が似合いそうな笑みはしかし、不愉快ではない。愛嬌さえある。
「あんた、面白いな」
「どうもぉ」
「プライドを、捨てる? マシワさん、それって」
「君達は頭の良い子だから、考えればきっと分かるはずだよぉ。すぐにねぇ」
こうして、お互いに話したい事は全て片付いた。時間も押してきたので、部屋を出ようとする俺達にマシワが思い出したように声をかける。
「ああ、デシレちゃん。君ってタバコ吸うぅ? 吸うよねぇ、臭いするもん。だから、これあげるよぉ」
手渡されたのは銘柄の書かれていない、古ぼけたタバコの紙箱。
「珍しそうな品だな」
「人前で見せびらかしたりしたら駄目だよぉ。吸うのも隠れて吸ったほうが賢明かなぁ」
「なんだ、違法なタバコなのか? 薬物入りとか?」
「そういう訳でもないけどぉ。吸いたい時は1人の時か、ヘルゼルちゃんと2人の時だけにしなさいねぇ。僕との約束だよぉ」
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