Another World

第一章

風車

彼女が、その小さな男の子にあったのは、自宅からさほど離れていない、小さな神社の中。
人々に忘れ去られたかのような神社には、幼い男の子よりも、背の高い草が生い茂っている。
「一人でどうしたの？」
幼い男の子は、あたりを見回し答えた。
「おうち、どこ？」
幼い男の子は、一人だった。
いつも一緒にいる母親の姿はない。
「あら、迷子なのね」
彼女は微笑んだ。
「私と一緒に帰りましょう」
彼女の言葉に男の子は、瞳を輝かせた。
「僕のおうち、しってるの？」
「一緒に住んでるじゃない」
そう言われ、男の子は思い出した様にうなずいた。
彼女の後を、男の子は小走りでついていく。
日が暮れる頃に、家に一人で戻ってきた男の子を、母親は泣きながら抱きしめた。
周りを囲んだ警官や近所の人々から、拍手が起こる。


「やあ、おかえり」
「今日は恩返しが出来たわ」
出迎えた男に、彼女は微笑んだ。
「そうだね。僕たち、家賃払ってないからね」
男は、喜びあう人間たちを、眼下に眺めた。


幼い男の子の家には、ツバメが巣を作っている。