私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル

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後日談

第24話

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アゴールから手を離したダイバ。だからといって夫婦を辞めたなどということはない。
アゴールがエミリアに迷惑をかけなくなったからフォローを必要としなくなった、というだけだ。

「とはいえ、手放しには出来ないんだけどな」

苦笑するダイバの視線の先には、エミリアを背後から抱きしめているアゴール。

「ネージュとダンジョンに入ると、いつもコレだ」

そう、エミリアは妖精やピピンたちとともに、夫であるネージュも連れてダンジョンに入ることがある。それを知ると、アゴールの「ズルい!」が始まる。

から『エミリア病』を発症しているからなぁ」
「【死者の世界】で悪化させたのも効いているな」

【死者の世界】でエミリアは二者択一の選択を迫られたのだ。元の世界で生まれかわるか、このままこちらの世界で生まれかわるか。

すでに『聖女の召喚』は失われ、エミリアが元の世界に戻ったら二度と巡りあう奇跡は起きない。

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

それを知ったアゴールが悲鳴をあげてエミリアを抱きしめて離れなくなった。…………聖女たちは、召喚されると同時に『分かたれた魂魄たましいは融合した』。
エミリアが『魂の片割れ』であるシエラと融合しなかったのは、エミリアの中に女神が入り込んでいたからだ。

女神チャミがいなかったら、私はこの世界に渡れずに消滅してた」

その事実が、アゴールの執着を悪化させたのだ。
聖女の召喚に合わせて、ジャミーラを倒せるエミリアが召喚された。エミリアの祖先が巫女、この世界でいう聖女だったらしい。

《 ほかの聖女たちも巫女の血筋だったらしいよ 》

エミリア自身も、学生時代に氏子うじこだった関係から近所の神社で巫女のバイトをしたことがあったらしい。その神社の氏神うじがみが、傷ついてこの世界から渡ったチャミだったのもなんの因果だろうか。


「魔法のない世界に生まれた私が、ゲームの知識があってダンジョンで練習したからとはいえ、この世界に来ただけで魔法が使えるって摩訶不思議おかしなことだよね」

そうなのだ。魔法の使い方はともかく、『魔力を魔法に変換する』などという基礎など、この世界で生まれ育った子どもが成長とともに身につける知識を、異世界からきたエミリアたち聖女様がで身につくはずがない。

【 召喚には、この世界に同じ魂が存在していることが前提となる 】
「それは種族? 年齢や性別?」
【 …………すべて、だ 】

この世界の基礎的な常識ある程度の知識を持ち、穿うがった見方が出来る。
それが最低限の条件らしい。それ以上の条件について、神々は『すでに失われた召喚術』を理由に口を閉ざした。それに対して、エミリアはこう言っている。

「私たちの世界では数十年の寿命。この世界では百数十年、種族によっては数百年から千数百年。条件の合うは奇跡に近いよ」

それはダイバたちを見ればわかる。
彼らの魂の片割れは、エミリアが『元の世界で関わった』人たちだ。エミリアの兄と同じ魂を持つダイバ。エミリアの職場の先輩だった人の魂の片割れのミリィ。

彼らはまだマシだ。

アゴールはエミリアの育ての親が魂の片割れであり、ダイバの祖父であるランディはエミリアの祖父の魂の片割れであるものの年齢差は80年ほども違う。
エミリアの魂の片割れであるシエラが、エミリアと融合…………死ぬ運命から逃れた、この偶然。

【 エミリアが自身の記憶を対価に、…………親や兄姉を知らないシエラと似た境遇となることでと認識した 】

神の言葉に、エミリアの中にいたチャミが繰り返し頷く。

チャミことガミーラは、ガミールと共に神籍を手放して、ダイバとアゴールの娘として生まれかわった。記憶を封じて竜人としての生をまっとうした二人は、記憶をもつ聖霊として【夢のさと】に生きている。人としての生を体験したことで、人に寄り添える聖霊となれたらしい。
もし正邪もわからぬ生を送っていたら、下の世界に送られていただろう。とはピピンや妖精たちの言葉だ。

「しかし、エミリアは日本元の世界で家族を失っている」
【 死別と生別は違う。ましてや、エミリアを仲介して再会する可能性もあった 】

神の言葉に誰もが頷く。
もしエミリアがシエラと融合したのなら、このような穏やかな関係にはなっていなかっただろう。

「そうだな。どんな理由があろうと『シエラ』というひとりの人生が奪われるんだ。エミリアをシエラの代わりに出来ないだろうし。エミリアの中にを探して、エミリア本人を見ることができなかっただろう」

ダイバがエミリアとアゴールを挟んだ隣にいるシエラを見遣る。彼女たちは別のテーブルで『エミリアの編み物教室』の真っ最中だ。楽しそうに笑いあうエミリアとシエラ。まったく違う笑い顔に、見守るダイバたちの表情も優しくなる。

「ああ、たしかに。エミリアちゃんのおかげで、家族が生きて再会出来た」
「そうね。私たちは正確な情報が手に入らなかったから、エルスカントの尾根から逃げ出すことは出来なかったわ」
「エミリアが奴隷にされた子たちを助けてくれたから。そこから事態が動き出したのよね」

そう。エミリアを中心に火龍や妖精たちの協力も得られたことから、離れ離れになっていた一族が連絡を取り合い、最終的に再会できた。……罪を犯した者たちとは再会が叶わなかったものの、人として生まれかわっていると聞いて安堵のため息がもれた。

【 ただし、ジャミーラが関わったために人生が捻じ曲げられたものだけだ 】

そこにセリシアをはじめとした人たちは含まれていない。階層を下げられて、住む国や大陸の違いから二度と接触することはないらしい。

〈 彼らの組み込まれた『転生の環』は奴隷だ。贖罪に捧げる一生だ 〉

どれほどの人生を繰り返そうと、贖罪が済めばやり直せる。

そう聞いて、こっそり彼らの魂魄たましいが贖罪の日々から解放されることを願う元家族たち。彼らの望みどおりに生きられるかは…………本人次第だろう。

遠くから、彼らの幸せを祈るの彼らの気持ちは、きっと届くだろう。
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