私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル

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後日談

第22話

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妖精たちに運ばれた『女性たちを見下していた男たち』は、火山に送られず。

「「今日きょっお~は、たっのし~い、ご奉仕活ど~うの日♪」」

楽しそうに歌うエミリア。その横には、るんるん🎶と楽しそうに歩くアゴールの姿が。

ダンジョン都市シティを始めとした、エミリア教による清掃活動。いわゆる月一回のの日だ。もちろん、正しい意味の掃除……なのだが。

《 さあ、あなたたちの罪が軽くなる日です 》
「「「はい」」」

妖精たちに身柄を預けられて、奉仕によって罪を贖う人たちが含まれる。雑草抜きや通りの掃き掃除から、屋根の清掃など。この奉仕は魔法を使わないことが前提。もちろんエミリアたちも魔法を使わない。

《 そこ! 草の根が残ってる! え? 地面が固くて千切れた? だったら水を含ませて地面を柔らかくしなさい! 》
《 そこのバカ! それは薬草でしょ! そっちの敷地はいま薬草の栽培をしているって説明したわよ! ……なに、聞いていないって? 明日からその耳の機能には休暇を与えてあげるわ 》

妖精たちに罪を加算されて罰が増えていく。

「あの連中って、たしか先週で解放される予定じゃなかったか?」

妖精たちに見張られて奉仕をしている男たちを見てダイバが疑問を口にする。その中に都長の兄弟が含まれているのだ。父親と夫は含まれていない。彼らは早々に反省したため、罰が短くなったのだ。

「先週の『妖精たちの試験』までに反省していれば良かったんだけどね」

妖精たちに上手く誘導されると、残っている彼らは女性蔑視を口にした。

《 その頭は空っぽかぁぁぁ! 》
《 勉強と奉仕だけで反省できないなら労働を加算する! 》

都長の兄弟はその身分を笠に着て横柄な態度を繰り返していた。それもまた罰が重くなった理由だ。

「俺たちは……」
《 都長の兄弟だと言いたいなら縁を切らすぞ! 》
「自身の言動は誇ることも出来ず。足下に及ばないと理解しても努力をせず。支えもしないどころか…………都長の名をけがすだけの存在なんて」
「いらないよね」
「いらないわ」
「いらんな」

エミリアの言葉に声を繋いだ人々を振り返り、兄弟は声を失う。そこには人神じんしんでありながら、けっしてその立場を驕ることもない者たちがいたからだ。それも都長であるニチータを守るように。

エミリア教のトップに立っているものの人々と変わらない生活を好み、いまなお発展をもたらすエミリア。彼女を支えるピピンとリリンに白虎。ダンジョン都市シティだけでなく世界すらもを改革・発展させたダイバやアゴール。いまでも冒険者たちにとって英雄であり、自分たちが目指す『冒険者像』のコルデやアルマンにキッカたち。
世界に名高い彼らに、自分たち兄弟は否定されたのだ。

エミリア教の信徒になろうとして妖精たちに門前払いされたのも、不純な動機を見抜かれたから。彼らにとってエミリア教はダイバたち英雄に近づくための手段でしかない。
これで分かるだろう、彼らは『世界を救った英雄』でも女性蔑視を貫いているのだ。

「とりあえず、はここであがなってもらう。それ以外のに関しては……王都でいいか?」
「いえ、違う大陸のほうがいいでしょう」

ダイバの言葉にニチータが左右に首を振る。近ければ近いほど彼らの傲慢な態度は変わらないと、彼らを生まれたときから知るニチータは推考すいこうする。

何より、彼らがいるのは砂の城。1年という限定であり、砂の城が維持されるのも残り3ヶ月を切っている。
砂の城が崩れた後のことを考えていない。

自らの態度が『都長ニチータの権力という名の樹』によって成り立つものであることを周囲は知っている。努力で環境管理庁のトップといういまの地位を維持しているニチータのため、黙っているだけだ。

新年を迎えれば、ニチータは都長からおりる。それまでのガマンだ。

世界で『ダンジョン都市シティ』を知らない国はない。その『ダンジョン都市シティの都長の兄弟』という肩書きが彼らの立場を有利にするどころか、行動を制限して一瞬の気の緩みが首を絞めかねない。……物理的に。

彼らを生かすには、新年が来て次の都長に引き継いでから放出するしかない。もしくは目的地まで送る。ここプリクエン大陸から一番遠いムルコルスタ大陸まで時間をかければ船で3ヶ月。すべての大陸の主要港に寄港するためだ。そして鉱山のあるフルリアス国に送れば、トータルで4ヶ月。到着した時点で『都長の兄弟』の肩書きは失われている。そこからは個々の努力で生きていかなくてはならない。

しかし、ニチータの配慮こころを兄弟は理解しない。

「ふざけんなぁ!」

追放を申し渡されて激昂した彼らは…………に手を伸ばした。
一瞬で組み伏せられる兄弟たち。ここは公的な場であり、彼らは罪人であり、今後の罰を最高権力者から言い渡されただけ。

「自身の権限を超過した罪は重労働の罰が相当である。よってベンルーシにはムルコルスタ大陸フルリアス国のアラバス鉱山都市に、デリアスにはペジリアーノ大陸バラクビル国のウランベシカ開拓地へ。チャクラスはタムスロン大陸ウルクレア国にて灌漑農業に従事してもらう」

兄弟の年齢で配流はいる先を決定したのだろう。長兄から遠くなっている。弟2人より重い罪になっているのは、からニチータを見下していたからだ。

そうして奉仕が続けられているものの、彼らは『奉仕が伸びればダンジョン都市シティから出ていかなくて済むのではないか』と考えた。

……それは悪手であり、自身の罪を増やしただけだ。……『即時追放が妥当』という判断を受けるに足る罪を。

なぜ彼らの父と末の弟が、ニチータの夫が心を入れ替えたのか。それすら理解出来なかった時点で「劣っている」と判断されて当然だろう。
後悔とは現実を突きつけられて初めて目覚めるもの。後悔した時点ですでに手遅れ。

《 環境美化ってね、んだよ 》

彼らの考えは甘かった。『船内清掃要員』として働きながら永住の地へと向かうことになる。

「バカですね。奉仕という清掃活動だけで許されるはずだったのに、ニチータを見下してエミリアやリリンたち女性陣を見下して。この世界は女性に笑顔でいてもらえば誰もが幸せになれるのです。そのためなら、どんなに困難なことでも乗り越えられるんですよ」

ピピンの言葉にダイバたち男性陣が頷く。

『強い者が世界をべる』など、どこの世界の話だ。家庭という身近で小さな世界でも安寧をもたらせない者に、町や村、国や大陸、ましてや世界など統べるなどと烏滸おこがましいにも程があるというもの。

「本当に強い者は身近な弱者から救いの手を差し出します。……エミリアのようにね」

エミリアに救われたピピンだからこそ言えるセリフだ。
エミリア教が妖精たちに浸透したのは『救われた側』だからだ。そして救いを求めて伸ばした手に気付いた妖精たちに救われた人々もエミリア教に入る。
「今度は自分が救えるようになる」ために。
エミリア教では、その方法も教えているのだ。
大々的な『奉仕の日』。それもまた、感謝を伝える『エミリア教の大事な教え』でもあった。
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