私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル

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後日談

第21話

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つい先日にも、表の世界に常設されているエミリア所有の巨大な水槽にいやしの水をたっぷり詰めたピピンは、水属性のダンジョンで胞子を大量に吸った冒険者パーティを放り込んだ。緊急事態だったため回復優先だったけど、治療代に関する契約は口頭で行われた。

回復後にルーレットを回させて治療費お布施分捕るいただくことは忘れない。

「一律定価の3割増しですね」
「「「ええええええええ!!!」」」
「一人一回じゃないのか!」
「助けてもらっといて文句を言いますか。じゃあ、回収した胞子をもう一度吸い込みたい、と」
《 エミリア教からの破門も追加する? 》
《 冒険者ギルドからの追放もオマケにしようか? 》

ピピンと妖精たちに凄まれて冷や汗が流れる冒険者たち。口々に「違う!!」「止めろ!」などと上から目線の言葉に、周囲からの視線が冷たく突き刺さる。彼らは都市シティ外からきた冒険者だったようだ。

「あら? だったらダンジョン都市シティからの追放が希望なのですね。すぐに手続きしなきゃ」
《 罪名は混乱罪? 治療費未払いは事実でしょ。それを指摘されても支払いを拒絶したんだから……これは菌を戻すことで不問に付す、だね 》
《 ここは3倍濃縮で返そうよ 》
「3倍濃縮を3倍増しにしてですか……? この都市まちから追放しても生きていけるかしら?」
「「「すみませんでしたぁぁぁぁぁぁ!!!」」」

妖精たちと共に都長の追撃にあった冒険者たちは土下座で謝罪した。…………しかし、妖精たちの《 許さん 》という言葉に、ふたたび水槽の中へ戻されることになった。

《 まだ性格が汚染されてたねー 》
《 根性も腐ってたねー 》
《 助けてもらったのに感謝も出来ないんだから。頭の中もしっかり洗浄してから出てらっしゃい! 》

そう言いながら、水面に浮かんできた冒険者を、長い棒で突っついて深く沈める。そのうち、水の妖精が洗濯機のようにグルグルグルとかき混ぜはじめた。

《 たまには反転はんてーん 》

風の妖精が気まぐれという名の八つ当たりで反転させたりするため、見ている方は楽しい。

「コッチは楽しくなぁぁぁぁぁぁいぃぃぃぃぃ!」
「あ、まだ元気」
《 じゃあ、高速回転かいてーん 》
「「「ギャァァァァァァ」」」

いやしの水の中に入っているのだ。吐き気をもよおそうと、三半規管がストレスをためて目が回ろうと。どんな状態になろうと瞬時に回復してしまう。そのため、反省の言葉を口にするまで妖精たちに遊ばれ続けた……


「今日はクラゲの鑑賞……」

水槽の中では気力なく浮いたり沈んだり、ぷかぷか。ぷかぷか、ぷかぷか。

「そんな良いもんか?」
「じゃあ、すすぎし忘れた洗濯物。By.ばーい二層式洗濯機」
《 じゃあ、すすぎする? 》
《 そのあとは脱水して干すんだよね 》
「「「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」

さっそくすすぎが始まったようだ。冒険者たちが元気な声をあげる。その様子に気付いた人たちが集まってきた。
すすぎの後は柔軟剤、ではなく、水槽から出されてそのまま高速回転で脱水。

「…………ザンネン、バターにはならなかったか」
「そいつは物語フィクションだ」

脱水後は……

《 日干しだね! 》

ということで用意されたものは……

「どうみても……磔台、だね」
「どこから出した、そんなもん」
《 これこれ! 》
《 この本に載ってたの! 》

ダイバとエミリアの前で《 ほらー 》と広げられたのは、このダンジョン都市シティの歴史書。貴族たちが繰り返した襲撃で住人たちが迎え撃ったという『全裸の子息たちの磔』の挿し絵。見開きで、磔にされた子息たちが親や国王たちと対面したという場面だ。

ダイバとエミリアはなんとも言えない。見方によれば、確かに全身ずぶ濡れになった男たちの衣服を剥ぎ取って乾かしているように見えるからだ。
……それも、背後にはズボンやシャツを乾かしているような形の旗も。

「…………今日はいい天気、だねぇ」
「……短時間で乾くな」
「さっき……って言ってなかった?」
「…………言ってたな」
「ヒモノになるかも」

干物ヒモノ乾物ヒモノ…………干者ヒモノ。冒険者たちの未来はきっと明る……い?

「お先真っ暗だ!!」
《 私たちが楽しければ、それでいいのよ 》
《 ……まだ元気そうだね 》
「「「ヒィィィ……!」」」

立派な見世物として。そして見事なとして、こんがり焼かれたとさ。

「日焼けだ!」
「火で焼かれたかった?」
「そこで巨大な焼き網を用意するなぁぁぁ!!!」

妖精たちに遊ばれたおかげで、弱っていた肺も落ちた体力も予定より短い期間で回復した。そしてそのまま冒険者学校へ入学。

「アー、アナタガタハ……冒険者学校に入学するか、罪名を背負ってダンジョン都市シティからの永久追放。ドチラヲ選ビマスカァ?」

都長とちょうから真顔でそう言われて、後者を選ぶ人はいない。

「都長ってエミリア教の信者だっけ?」
「……しっかり信徒を増やしているな」
「彼女が都長になって、信者が一気に増えました」
《 それも信心深い信者がね 》

信者はけっして強制ではない。それでも信心深くなるのには理由があった。

「エミリア教が現在のダンジョン都市シティいしずえを築き、混沌を生み出した『悲しみの女神』に安らぎを与えられました。都市外そとの世界と比べれば都市ここがどれほど発展しているかを身をもって知ることができます」

いまの都長の言葉に周囲で耳をそばだてていた商人や冒険者たちが深く頷く。

水槽内には新たに妖精たちの罰を受ける商人の息子たちがしていた。彼らは婦女に無体を働こうとしたらしい。妖精たちが目撃者であり証言者である。これ以上の証拠は必要ないだろう。

「ちょっと声をかけただけだ!」
《 そのような言い訳は通用しない! 》
彼らは「美人をナンパしただけ」のつもりであっても、その相手が悪かった。
《 『エミリア教の聖母様』に声をかけるなんて……迷惑千万! 》

そう、獣人の姿になっていた白虎に声をかけたのだ。
人見知りだった白虎もいまでは…………1ミリほどは前に進めている。それを妨害しているのは、彼らのように半端なナンパ者たちの存在だ。

「どーぞ、どーぞ」

彼らの親である商人たちは率先して息子の身柄を差し出した。

「息子たちのように女性を快楽の道具にしかみない者たちが多いと聞いております。そんな連中に一撃を与えることができるのでしたら」

その言葉が先にあった。大なり小なり、手が焼ける息子たちを独立させるキッカケにはなるだろう。すでに息子たちに「粉骨砕身で罪を償え」と突き放している。

…………親から見捨てられた。そのショックが『クラゲ化』だった。

「いや、そんなにいいものか?」
「じゃあ、海洋ゴミ」
《 埋め立てる? 》
《 焼却する? 》
《 火山に投げ込んでこようか 》
《 そういえば……ほかにもいるよね。女性を見縊みくびっている連中 》
「それって同罪だね」

エミリアと妖精たちの会話の直後、水槽に10人が問答無用で投げ込まれた。
エミリアたちの会話を聞いていたダイバたちには、妖精たちが連れてきた若者たちが『なぜ入れられたのか』を理解している。

「うわぁぁぁ!!」

次々と風の妖精たちによって運ばれてくる若者の多さに、さすがの都長も苦笑しか浮かばない。

「……あれ、は」

都長の目の前で水槽に落とされたのは都長にとってあまりにも知りすぎた男たち。

「よっぉぉぉぉぉっっっく反省してもらいましょうねぇぇぇぇ」

都長の父親と兄弟、そして夫だった。
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