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後日談
第19話
しおりを挟む《 この世界で生きた記憶も残っていれば、自己も宿したまま。らしいよ 》
「搾取される立場となり、辛さを味わって反省しろ、ということか?」
「ただ単に『簡単に死なせずに長く苦しみを味わわせる』ため、かもね」
神獣の捕獲という罪を犯した、もしくは加担した彼らが神に赦される日が訪れるかは…………『神のみぞ知る』。それも、この世界の神ではなく、払い下げられた先の世界の神にその決定権はある。
「その世界にとって便利な人材なら……俺だったら手放さないだろうな」
ダイバの言うとおり、この世界の神に自己回復魔法をかけられた彼ら。どんなに霊魂を擦り減らしても。死んだり消滅して苦しみから解放されることはないだろう。
「神罰だもんね」
《 自業自得だもんね 》
「神に逆らったも同然だからな」
エミリアと妖精の会話にダイバが厳しい表情を浮かべる。
神獣たちの中には闇堕ちして討伐されたものも多い。エミリアが助けた神獣たちの中でも、ベヒモスが闇堕ちしかけていた。ダイバとシーズルが2人がかりで、それも竜人として生まれもつ強さを全開に解放してやっと鎮圧出来たくらいだ。
ジズやリヴァイアサンが正気を保っていたのではない。三位一体の神というのは、一神に力を集約させることもできる。ダイバとシーズルは一神を前にしつつ、三神と戦っていたことになる。
そして解放したキマイラや空魚たちも、遅かれ早かれ闇堕ちしていただろう。とくにキマイラはエミリアに攻撃を仕掛けた。…………善悪が分からなくなり、『周りはすべて敵』状態になっていたのが原因だ。もしエミリアを傷つけていたら、最悪、殺していたらその瞬間に闇堕ちしていた。
その恩があるため、キマイラはエミリアに。そして妖精たちに懐いている。ダンジョン都市の守護者となったのも、自分を助けてくれたエミリアや妖精たち、そして自身を受け入れてくれた住人の生活を守りたいと願ったからだ。
数年に一度、砂漠で砂浴びをする空魚は、砂漠に張り巡らされた魔導具によって行動を制限された。身動きできない上に無理矢理従わされてきた空魚だったが、解放後は人を憎まなかった。妖精たちが付きっきりで癒してきたからだ。
見た目が巨大なクジラの空魚には、見た目が巨大なエイの仲間もいる。そちらの種族は……半数が闇堕ちして討伐されていた。残った彼らは別の世界に渡ったらしい。
〈奴らはこの世界の腐敗と怠惰な神を許せなかったようじゃ〉
火龍の言葉に、眠りにつく前だった神々は目を伏せる。
自分たちが見捨てた大地で起きた大犯罪。気付いていて、それでも目をそらして見なかったことにした神もいた。
「見殺しにされたんだからさ、神も同罪だよね」
エミリアの言葉に、神から反論の意思は出なかった。
神獣たちは殺されなければ死なない。ただ、死んだのちは同じ神獣に生まれるとは限らない。神が死んで聖霊や精霊、妖精に生まれ変わるのとは違う。
コルスターナ国の聖魔士ギルドと犯罪ギルドによって乱獲された神獣たち。憎まれて、恨まれて。それはまるで……
「妖精と廃国の関係と同じだよね」
廃国の国民はこの世界で罪を償っている。今はまだ地中で逃げ回っている重罪人は、いずれこの世界から追放となる。
「これ以上、この世界に『死ねない罪人』は必要ない」
最下層に送られる予定の廃国の元国王たち。そこに聖魔士ギルドと犯罪ギルドの罪人たちもまた送られることとなった。
《 神に選ばれた存在を支配したんだもんね 》
「『神より偉い』なんて……傲慢だねぇ」
《 神より偉いのはエミリア教だけだよねー 》
《 それを言っちゃあ 》
「《 おしめえよー 》」
声を合わせて笑い合うエミリアたち。神も苦笑するしかない。
自身の罪を改めて思い知り、この世界を回復させたらそのまま消滅することを願った。しかし、死んで犯した罪が消えるわけではない。廃国の元国王たちやコルスターナ国の王族たち、聖魔士ギルドと犯罪ギルドの罪人より罪が軽いはずがない。
彼らの罪の大本は、神が大陸を見捨てたことから始まったのだから。
そのため、この世界を修復させたのちにこの世界からの追放が決定した。修復で神としての能力をすべて使い果たすことで、新しい世界の最高神からその世界にあった能力を与えられる予定だ
「同じ過ちを繰り返さないといいけどね」
「そこまでバカではないだろ?」
「バカは死んでも治りませんね」
「バカは死んでもバカのまま」
エミリアとダイバ、ピピンとリリンが神々を扱き下ろす。言い返せないのは、ジャミーラの一件があるからだ。
「ジャミーラを追い詰めて、結局死なせることになったのは誰だ?」
「それも、ジャミーラを追い回して。三位一体の二柱を喪わせた」
ガミーラとガミールの記憶を持つ意識は聖霊に。ジャミーラも深い眠りを経て聖霊となった。彼らは一層下の世界に移り住んだ。そこはこの世界の神が下ることが許されない世界。『神の被害者』のみが渡ることの許された世界。
「チャミはどうするの?」
ダンジョン都市で妖精たちと暮らしていたチャミにエミリアは確認をとる。
「私はすでに魅了の女神だった記憶はないわ」
チャミは私の中にいた時点で、女神ではなく精霊となっていた。ガミールも同様であり、他国にいたダンジョン都市に訪れたのは、ジャミーラとガミーラの気を強く感じたからだ。そこでチャミと再会し、一緒にアゴールのお腹の子を守ることにした。
それがジャミーラが罪を重ねないためになると信じて。
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