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後日談
第18話
しおりを挟む廃国の名はまだない。
《 永遠にないかもね 》
「すでに『廃国』が名前になってるもんねぇ」
エミリアの言うとおりだ。周辺国には『更生国』とも言われている。廃国の犯した最後で最悪な歴史を知られた上に住人として生死を繰り返す労働者もまた、各国で更生不可能な罪を犯した者たちが集められた巨大な収容所とも知られている。さらには世界で1年しか経っていないのに、廃国内では100年も過ぎていることも妖精たちの知識によって知られている。
……廃国がうまれてすでに数百年。しかし、廃国内ではその100倍の時間が流れており、増えないはずの住人が増えている事実が管理している妖精たちにより齎されている。
騰蛇の話では、この世界の表舞台を管理している神たちにより、悪質な罪を犯した者の魂が更生のために廃国に送られているらしい。死者の世界の神が「罰が足りない」と判断すると、死者の世界の門を通ることができず。記憶を残したまま、廃国に送られて罪を償わされているのだ。
「廃国時間で300年、廃国の外ではたった3年になるけど。生活環境がかわって更生した人生を送られたら元の転生の環に戻される。生まれた国や親の影響で犯罪にはしった者や、罪を罪だと理解していない者もいる」
そんな彼らの救済に、廃国で人生をやり直すチャンスが与えられている。根っからの罪人には、救済なしで魔物に落とされていく。
「その差は?」
《 罪人履歴の長さ 》
罪人としての人生を繰り返していれば「救いようがない」と判断されているらしい。『仏の顔も三度』と言われるけど、この世界の神が我慢できる限度は2回。それも2回目の途中で限界に達してしまうようだ。そのため、ある日突然世界から切り離されて見たこともない村で目を覚ます。そして住人たちや同じく罪を償うためにこの廃国に送られた先輩から自分の置かれた状況を知ることとなる。
残りの人生を廃国で過ごす羽目になって漸く後悔するものの、鍬や鋤を担いで人生をやり直せるか。一緒に送られた仲間たちと村をでて徒党を組み、フィールドに広がる魔物に襲われるか。冒険者の真似事をして魔物に向かい……それまで使えていた魔法や特技が使えないと身をもって知り敗北するか。
すべては本人の意思であり、誰も引き留めもしなければ助けることもしない。
人生をやり直している彼らは魔物に襲われる危険があるものの、コツコツと地道に農作業に従事している。主にダンジョン都市で新しく生まれた野菜や果物が、魔素によってどのような影響が出るかの実験と研究(と素材の毒味)が主な仕事だ。
そこには魔物が食べたときの影響も含まれている。大人しい魔物が興奮する作用がでたり、そんな草食の魔物を襲う肉食や雑食の魔物にもどう影響が出るか。
……これらは、生前のエミリアがエイドニア王国にいたときから続けていた魔物の調査や研究を、エミリアの死後にフィシスたちが託されたものだ。アクアとマリンの双子もまた、刻一刻とかわる魔物の棲息地の調査のために世界を駆け巡っている。
妖精たちも協力しているものの、彼らは害悪となる魔物を優先に選別しては廃国の外に廃棄している。
《 フィールドに捨てたら、運悪くその近くに住んでいただけの人たちの迷惑になるから。どこかの谷間に捨てて出られないようにしてあるよ 》
すでに世界中に妖精たちが住んでいる。各所の冒険者ギルドには魔物情報管理部が新設されていて、妖精たちがその部署をあずかっている。『妖精ネットワーク』によって新情報が共有されるからだ。その妖精たちが、廃国からきた魔物をも管理している。
強敵であれば、国家をあげて討伐部隊が編成される。……討伐された魔物はいずれまた新しい魔物として脅威を振り撒くこととなる。
「世界共通の『絶対悪』を協力しあって倒す」
そこにエミリアたち人神や白虎ら神獣、ピピンとリリンの神魔と無限寿命の精霊や妖精、半神たちは参加しない。すでに世界を一度救った彼らは『お役御免』である。次はその時代に生きる者たちが自らの手で切り開く必要がある。
罪人として生と死を繰り返す廃国の住人たちは、自らの罪を少しでも軽くするために第一戦で華々しく……散る。彼らは魔導具を装備できない。エミリア特製だけでなく一般の職人たちのつくった結界の指輪やネックレスなどで攻撃を耐えられたとしても、回数制限がある以上待ち受けるのは死だけだ。
その一戦は無謀で生命の無駄遣いのように思われる。それでも、あとに続く戦士たちに敵の属性や攻撃パターンを教えることができる。残された者たちは対策を立てて挑むことが可能になり、生き残れる確率もぐんっと上がる。たとえ第二戦、第三戦と負けても……その死はいつか勝つための糧になる。
その成果は、次に生まれるときに『ちょっとだけ幸せ』になれる。
罪を犯して罰を受けている第一戦の参加者なら、廃国の外で生まれ変われる可能性もある。実際に何人かの罪人が廃国から解放されている。そのことは妖精たちによる『廃国情報』でも公開されていて、各種ギルドで情報を閲覧することも可能だ。
そのリストの中には世界的に有名な大罪人の名も見受けられる。
彼らの兄弟姉妹の子孫の中には、直接ではないにしろ先祖の存在を恥じて息を潜めてひっそり生きている人もいる。歴史のある家系なら、家名をかえて国をもかえて……などということもできず。社会的な汚辱や恥辱を受けて生き続けて来た彼らにとってもまた名誉回復となる。
最近になってある2つの名前が公になった。
新しい絶対悪の魔物の名は『メクジャ』。そしてメクジャ戦で廃国から解放された住人の名は『ジュール』。両者共に、今は過去の歴史書に名を残すだけとなったコルスターナという国の事件関係者だ。
「かたや反省して罪を償い許されるまでになり、かたや魔物として得た強さを誇示して人々を蹂躙し続けて討伐された」
ジュールは親や兄弟姉妹に親戚をも復讐の対象者として本懐を遂げた。神獣たちを使役した罪と、事情がありつつも無関係の親族まで襲った事実は罰の対象となった。……最期を討伐という形で迎えて、人として葬られたとしても。
《 妊婦や幼児がいたからね 》
「妊婦本人はともかく、お腹の赤ちゃんは完全に無関係だよね」
「アレがまだ王子だった頃には生まれていなかった子どもまで巻き込んだからなぁ」
敵を選別せずに復讐したことが罰の対象だった。ちなみに、あのとき聖魔師の懐柔を目論んで王城に集っていた王や貴族たちは、罪の重さによってはこの世界で生きること自体が許されていない。
〈どこかの世界の修復で魔力を供給し続ける罰だ〉
火龍がいうには、世界はひとつではないらしい。その世界の中には滅びに瀕した世界も存在しているそうだ。彼らはその世界の修復に、その魔力や魂を使われている。
「メクジャとどう違うの?」
〈神獣たちを犠牲にしたことが運命を差別した〉
「じゃあ、廃国の国王たちは……」
彼らは妖精のみを犠牲にした。神獣の立場が神である以上、同じことをしようと、廃国の連中の方が罪深かろうと。
被害を受けた対象者の立場が大きく違うのだ。
〈とはいえ、廃国の連中もまた別の世界に送られる。たとえその世界で魂がバラバラになろうとも……死は訪れぬ〉
その身がその世界の神に譲渡する形となっても、消滅は訪れない。
人として地を彷徨い、暴力を受けたとしても。人々の苦しみをその身で受け止め、さらに自身の犯した罪の深さを痛みで贖う。
それはまるで『不死人』のようだ。
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