778 / 789
後日談
第13話
しおりを挟む神魔だろうと、神獣だろうと、人神だろうと。紙の端で指を切るし、変なものを食べれば腹痛で苦しむ。ただ、老化しないし死なないだけだ。
「言い方を変えると、『一発で死んだケガが、痛みで苦しんでのたうち回っても楽になれない。だって死ねないんだから』ってことだ」
「「「縁起でもないことを言うなぁぁぁ!」」」
「南無南無~」と手を合わすエミリアにシーズルたちが声を上げたのは、【夢の郷】に移り住んだ頃。表の世界で話さなかったのは、死なないことを理由にされるのを避けるため。
平和とはいえ、魔物の討伐などを怠れば集団暴走が起こる。
「自分たちの尻拭いをこっちに押し付けないでよね」
エミリアの言葉を聞いたダンジョン都市の冒険者ギルドは、世界中から届く依頼や救いを求められても突っぱねている。
「エミリア教を敵に回す、と仰られるのですね?」
教祖様のたったひと言。それだけで、そのギルドは惨劇に見舞われることとなった。
エミリア教を信心する妖精たちから教育的指導を受けたのだ。
《 無礼者ぉぉぉぉぉ! 》
ばちこーんっ!
《 エミリア教本部の皆様に何を言ったぁぁぁ! 》
スパパパパーン!
《 自分たちの尻拭いを国外に押し付けんじゃねぇぇぇぇ! 》
ドドドドドッ!
《 罰として無料奉仕を命じます。片付くまで戻ってこなくて構いません。っていうよりも……こんなこと言われる前に、とっとと行ってこんかぁぁぁぁ! 》
ドッカーンッ!
ケツバットから始まり、往復ビンタ、頭頂部で足踏み(骨まで響く)。最後に水球に詰め込まれて風の魔法で最前線にまで吹っ飛ばされた、件の冒険者ギルド所属の冒険者たち。
「し……、死なば諸共ぉぉぉ!」
《 死ぬな、バカモノ! 》
頭頂部に拳骨一発。その小さな一発は、受けた本人には大きな一発だった。……そのうち、頭蓋骨が砕けてもおかしくはない。
「死ぬわぁぁぁ!」
《 仲間を道連れに死のうとしたのはどこの誰ダァ! 》
ギルド長が公開説教を受けている横で、地の妖精が大きな穴をつくるよう指示を出す。
《 まだ魔物と接触するまでに時間はある。底の深い落とし穴をつくってー 》
《 今回の魔物は地に特化してるから。水魔法で下半分は温度を下げて 》
《 氷ができたら、それを風魔法で循環させて 》
《 火魔法が使える人は、魔物たちが逃げないように周囲を火で囲って 》
妖精たちの指示に冒険者たちは黙って従う。すでに地響きが恐怖を煽っているのだ。妖精たちの指示に従えば助かると誰もが思っている。
《 ほら、出番! 魔物たちが前へ進むよう、後ろから風を送って! 》
説教されていたギルド長が妖精に落とし穴の前まで引き摺り出されると、言われたとおりに魔物の周囲を囲む火に風を送る。煽られた火が魔物たちの背を焼き、落とし穴に気付いて止まった魔物たちを後ろから落としていく。
落ちた魔物は、渦を巻く氷の礫によって首を切断されていく。
「あ、おい! 空が……」
空を指差す男の声に、半数が上空を見上げる。残りの半数は後方にいたことで見上げなくとも空の異常を目にしていた。
飛空タイプの魔物が、落とし穴の上空でバランスを崩して次々と落下していったのだ。中には落とし穴に落ちた魔物もいる。
《 ボサッとしない! 》
《 落ちた魔物を倒して来なさい! 》
言われたとおりに魔物を倒すため、落とし穴を避けてかけていく冒険者たち。
「う、わっ……」
「たっ、たすけ……うわぁぁぁ!」
《 落とし穴の上を渡るな、バカぁぁぁ! 》
落とし穴の中で空気が渦を巻いている。その上では飛行タイプの魔物が墜落するような上昇気流が起きているのだ。
その上を渡れば、弾き出されるか。下降気流に巻き込まれて落とし穴に吸い込まれるか。
吸い込まれた男たちは運が良かった。すでに見える範囲に魔物の姿がないため、落とし穴の中の風は止まっていたのだ。そして、すぐに気づいた妖精たちにツルや風で救い出された。飛ばされた冒険者も、水球に覆われて助けられた。
「「「《 危険回避くらいしろぉぉぉ! 》」」」
「「「すみませんでしたぁぁぁ‼︎」」」
助けられた冒険者たちは、周りに平身低頭で謝罪。普通に考えても仕掛けの上を魔法で跳躍などという愚行は……
《 巻き込まれて当然だぁぁぁ! 》
妖精たちの怒りは御尤も。ぽかぽか叩かれても、骨まで響くその痛みは生きている証拠。
こぼれる涙は、生きていると実感した心からの歓喜。
「そのまんま、魔物と同じように首を刈られてたぞ!」
「首だけじゃなく全身メッタ斬りだろ」
飛ばされた冒険者も、空に吹き飛ばされただけでない。真横に飛んだ事で、木々や岩に激突寸前だったのだ。
何人が死を覚悟して固く目を閉じただろう。それを守ったのが、水や風の妖精がつくった風船や水球だった。
一度死を覚悟して精神的に生き返ったギルド長たちは、心を入れ替えて新しい人生を生きると誓った。
そんな彼らが中心になってエミリア教に入信し、「誰かのために出来ることをする」を実践するようになった。
「奉仕活動がこんなに素晴らしいとは!」
ギルド長たちは今日も爽やかな笑顔で国の美化に精を出す。町の清掃から、フィールドの魔物討伐や間引き。依頼のない仕事は、彼らが自主的に動いている。
そんな情報をその地の妖精から教祖経由で聞いたエミリアは笑う。
「無償より高いものはなし」
妖精たちはタダで働く労働力を手に入れたのだという。
「それでも、問題はないんだよね。ギルド長たちは自主的に行なっているだけだから」
自身や仲間の生命を救われて、感謝しているのだ。恩を返したいと思うことは間違いではなく。エミリア教に入信して奉仕の心と感謝される喜びを知ったからと言って、それを否定する理由はない。
ただ…………問題があるのは、
「それを正しいと勘違いした信徒以外がいる、という点ですね」
ピピンの言葉にエミリアは頷く。しかし、ここはエミリア。普通の指示など出すはずもなく……
「エミリア教の信徒じゃない人たちでしょ? だったらその国の問題であって、エミリア教には関係ないよね」
そう言いつつ、ピピンには妖精たちの監視を厳しくするように注意を促した。もちろんその国の妖精たちは理解した上で信徒を管理し、信徒以外を監視している。
エミリアは知っている。
自由というものは、管理された土壌の上に成り立つことを。
ピピンも理解している。
厳しい管理下で抑圧されるからこそ、自由を感じられることを。
妖精たちも気づいている。
自分たちを彼らの上の立場にすることで、責任を持って他種族と接する厳しさを身につけるよう、エミリアやピピンたちが妖精たちが興した『エミリア教』を世界に広めたことを。
74
お気に入りに追加
8,060
あなたにおすすめの小説

我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★

聖女らしくないと言われ続けたので、国を出ようと思います
菜花
ファンタジー
ある日、スラムに近い孤児院で育ったメリッサは自分が聖女だと知らされる。喜んで王宮に行ったものの、平民出身の聖女は珍しく、また聖女の力が顕現するのも異常に遅れ、メリッサは偽者だという疑惑が蔓延する。しばらくして聖女の力が顕現して周囲も認めてくれたが……。メリッサの心にはわだかまりが残ることになった。カクヨムにも投稿中。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から「破壊神」と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。

【短編】追放された聖女は王都でちゃっかり暮らしてる「新聖女が王子の子を身ごもった?」結界を守るために元聖女たちが立ち上がる
みねバイヤーン
恋愛
「ジョセフィーヌ、聖なる力を失い、新聖女コレットの力を奪おうとした罪で、そなたを辺境の修道院に追放いたす」謁見の間にルーカス第三王子の声が朗々と響き渡る。
「異議あり!」ジョセフィーヌは間髪を入れず意義を唱え、証言を述べる。
「証言一、とある元聖女マデリーン。殿下は十代の聖女しか興味がない。証言二、とある元聖女ノエミ。殿下は背が高く、ほっそりしてるのに出るとこ出てるのが好き。証言三、とある元聖女オードリー。殿下は、手は出さない、見てるだけ」
「ええーい、やめーい。不敬罪で追放」
追放された元聖女ジョセフィーヌはさっさと王都に戻って、魚屋で働いてる。そんな中、聖女コレットがルーカス殿下の子を身ごもったという噂が。王国の結界を守るため、元聖女たちは立ち上がった。
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。

団長サマの幼馴染が聖女の座をよこせというので譲ってあげました
毒島醜女
ファンタジー
※某ちゃんねる風創作
『魔力掲示板』
特定の魔法陣を描けば老若男女、貧富の差関係なくアクセスできる掲示板。ビジネスの情報交換、政治の議論、それだけでなく世間話のようなフランクなものまで存在する。
平民レベルの微力な魔力でも打ち込めるものから、貴族クラスの魔力を有するものしか開けないものから多種多様である。勿論そういった身分に関わらずに交流できる掲示板もある。
今日もまた、掲示板は悲喜こもごもに賑わっていた――

【完結】略奪されるような王子なんていりません! こんな国から出ていきます!
かとるり
恋愛
王子であるグレアムは聖女であるマーガレットと婚約関係にあったが、彼が選んだのはマーガレットの妹のミランダだった。
婚約者に裏切られ、家族からも裏切られたマーガレットは国を見限った。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。