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後日談
第11話
しおりを挟む「私はミズーリ草を、光の妖精は退治すべき魔物。いつ、その魔法にかかったの?」
「花粉だ」
「でも、妖精は呼吸をしないでしょう?」
《 吸わなくても見せられる。そうだよね? 》
火の妖精が確認するようにエミリアを見る。エミリアの笑顔を見ると嬉しそうに表情を崩す。
「幻影は魔法もあるけど、自然界でも普通にあるんだよ」
有名なところで蜃気楼や逃げ水。それらはエミリアが実際に見せたことで、妖精や聖魔は仕組みを理解している。
「虹もある意味では幻影だな」
コルデの言葉に妖精たちが頷く。妖精たちは虹の見え方を実際の虹で体験した。
《 えええっっっ! さっきまで見えてた虹が消えたぁぁぁ! 》
《 消えてないよ 》
《 見えてないっ! 見えなくなってるってぇ…………あれ? 虹、あるね 》
そんな地の妖精の言葉に、光の妖精が『虹の向こう側』へと回り込む。
《 あああっ! ほんとに見えなーい‼︎ 》
《 虹、消えた! 》
同じく水の妖精が目を丸くして、キョロキョロと周りを見回して虹を探す。
《 同調、同調。二人とも、僕の見ている風景、わかる? 》
暗の妖精が同調術で、自分の目の前に広がる風景を地と水の妖精の2人に見せる。同調術で『自分たちには見えない風景』を目にして、左右を見渡して空を見上げた。
《 あっ、暗の妖精! 》
《 そのままそこにいて。みんなも、僕の目を通して見てて 》
そう言うと、暗の妖精が虹から目を離さないで反時計回りにゆっくりと飛ぶ。それにあわせて、妖精たちの身体が自然と右側に傾く。一緒に動いている錯覚を起こしているのだ。
《 あっ、消えた…… 》
《あれ? でも、目の前に虹はあるよ 》
スッとエミリアやコルデが座る丸テーブルに置かれた虹の本。ピピンが開いて置いたのに気付いたリリンが、そのページを覗き込む。
「エミリア。これって『光の反射』だよね」
指をさす場所には図解がある。その指を優しく握って、太陽から光の屈折と反射の動きを教えるピピン。
「曲がって、曲がって……?」
「リリン。虹は屈折と反射の両方だ」
「じゃあ、ピピン先生。太陽が背中側にないと、光が戻ってこないから虹が見えなくなるの?」
先生と呼ばれて苦笑するピピンは黙って頷く。なんでも教えるのではなく、自分で考えさせてから正解に導く。それはエミリアの教え方をマネただけだ。しかし、教わる側にとって、自ら正解したことはいつまでも覚えているようだ。
リリンにしてみれば、『知らないことを教えてくれる人を先生と呼ぶ』と覚えた。こうして勉強しているときは相手を『先生』と呼ぶのが礼儀だと思っている。
同じように、アゴールもダイバや妖精相手に「先生」と呼ぶ。
《 ピピン先生! だったら、後ろに太陽がないコッチ側は…… 》
《 待って! だったら私が光を当てたら? 》
妖精たちが互いに意見を出し合って実験をするものの、失敗を繰り返す。
「高さに気をつけてね~」
エミリアの言葉にふたたび妖精たちが集まり、顔を突き合わせて議論し合う。
《 準備できたよー 》
水の妖精が作ったのは水滴でできた巨大な壁。
《 じゃあ、いっくよー 》
光の妖精が水滴の壁に光を当てる。
光が水滴の壁に当たると屈折と反射を繰り返し……
「眩しいな」
「まあまあ。……成功したみたいだよ」
エミリアが指先を向けると、虹色に輝く水滴以外を外して三重に重なった虹を作り出して喜び合っていた。
《 そっか。あのときと同じように反射してたんだ 》
《 光の屈折で隠れてた? 》
《 周りの壁を反射で見せてた? 》
妖精たちの視線はコルデに向けられる。何かに気付いてナイフを投げ、それは命中したのだ。
投げたのは暗の妖精が愛用しているナイフだ。ユーグリア領の廃都で手に入れたもの。
《 ただし、痺れ薬をちょっぴり 》
「何がたっぷり?」
《 操り水、ピピン製 》
「追尾を付与した」
コルデがナイフに息を吹いたのは追尾と必中を付与したためだ。
「オヤジ。2本投げてなかったか?」
「1本は当たっただろう?」
コルデの視線がピピンに向けられる。それにピピンが含み笑いで応えてナイフを2本差し出す。
「1本はトドメを。もう1本は……すでに操ってますよ」
「トドメを刺した魔物は?」
「すでに回収しています」
ピピンの黒い笑みに誰もが……(何かに気付いたエミリアは楽しそうな笑顔だ)表情を引き攣らせた。
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