私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル

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後日談

第4話

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【第3話、編集しました。】


そんなエミリアは、ダンジョン都市シティに戻ってからはダイバやアゴールのパーティやキッカたち、そしてネージュとも一緒にダンジョンを攻略している。

「えっ⁉︎ ネージュとダンジョンに?」

アゴールがエミリアの行方を聞いたときに運が悪いとそう答えが返ってくる。そうなるとアゴールの嫉妬劇場が始まるのだ。

「エミリアさん、おかえりっ! 一緒にダンジョン行こっっっ!」
「いま帰ってきたばかりだから……次ね?」
「いつっ‼︎」
「来週、かなぁ」
「来週⁉︎ 来週っていつ⁉︎」
《 しっつこーい! 》
ばちこーんっっっ!

エミリアの帰還を待ち構えて関所ゲートの前で待つアゴール。それこそ、帰ってくるまで何日も広場から離れようとしない。

帰ってきたら今度は自分と一緒に行こうと誘う。

エミリアも慣れたものだ。いつもサラリと躱すものの、アゴールや妖精たちとの約束をたがえたことはない。そのため、妖精たちに強制的に排除された眠らされたアゴールでも、起きた後に騒ぐことはしない。

…………表の世界にある店に日参するけど。

「アゴール、今日は調合窯使いたいから【夢のさと】で過ごすけど?」
「お手伝いしてもいい?」
「となりの部屋で、ね」
《 新しく採取してきた薬草の仕分け、手伝って 》
「まかせて!」

前の人生でエミリアから教わった薬草の見分け方を、アゴールは覚えていたようだ。地の妖精やリリンに助けられつつも、エミリアの手伝いが出来ているようだ。


妖精たちがエミリアのレシピを使い続けてきたことで、エミリアはレシピ使用料で一財産を築いていた。元々、生前で使いきれない資産も貯めていたエミリアは、人神となった今では『働かずに遊んで暮らそう』という基本概念コンセプトを続けている。

ダンジョンに入るのも、調合窯や錬金窯を使って何かつくるのも。エミリアにとって、すべてが興味本位で遊びの範疇はんちゅうだ。

「エミリアさん。ここはどうしてこうなるの?」

アゴールはそんなエミリアに触発されて、少しずつ錬金術に興味を持ち始めた。そんなアゴールにエミリアやピピンは根気よく噛み砕いて教える。妖精たちも協力して、アゴールにつきっきりで見守り、たまに厳しく叱る。それもアゴールを思ってのことだと理解しているため、アゴールは汚名返上のため勉強を欠かさない。

「錬金術の学校をつくってはどうだ?」

そんな案は過去にもあった。資金はエミリアの私財を当てにしており、講師もまたエミリアを当てにしていた。エミリアの技術を公開させようという魂胆がミエミエなのだ。

しかし、錬金は一歩間違えれば事故になる。それはダンジョン都市シティの外周部で起きた大事故がいい例だ。あれは薬草の理解が足りない錬金師による調剤が原因だった。

「未熟者が集まっても良いことにはならない。みんなは魔法を使い始めた子どもの頃、もしくは学校で習った新しい魔法や戦闘術を試してみたくならなかったか?」

誰もが顔を見合わせて黙り込む。彼らには心当たりしかなかった。それをダンジョン内で試した結果、【妖精の救助隊】に救われて一命をとりとめた職人や研究者も一人や二人ではない。

「そんな好奇心の塊を集めて? はてさて。卒業まで生き残れる生徒はいるのかな~?」

いつの時代でも、職人とは『好奇心が服を着て歩いている』と言われている。エミリアがいい例だ。

しかし、エミリアはその危険性も分かっているため、安全面には配慮を欠かさない。もしもの場合を考慮して自分の周りに結界を張ったり、扉を閉めると結界が起動する錬金室を使う。

我が身より外部への影響を最小限に考えるのは生前から。

夢という意識下の中で起きたジャミーラの接触により、エミリアは騰蛇の管理するダンジョン都市シティ内で地震を引き起こした。無意識だったとはいえ、そのときのことを気に病んでいたエミリアは錬金室をテントの中につくり、さらに錬金室内も何重もの結界で覆った。

「エミリアの安全は私たちが守ります」

ピピンの言葉に、エミリアの妖精たちが《 まかせて! 》と小さな胸を握ったこぶしで軽く叩く。エミリアも結界のアクセサリーを持っているため、最悪な事態が起きても被害は受けない。

それがわかっているから、誰も心配はしていなかった。……唯一、熱中するとギリギリまで錬金を続ける。そんなエミリアの身体のことは心配していたが。

人神じんしんとして戻ってきてからは、エミリアの研究室は【夢のさと】に移された研究施設で行われている。

ムルコルスタ大陸のエイドニア王国の王都に残されていた鉄壁の防衛ディフェンス住処アジトから、正式にエミリアへ送られた研究施設。

「お恥ずかしい話、エアさん以外に使わないので」

そんな理由で送られた施設は、初めは農園の横の土地を購入して置かれていたものの、妖精たちが中に入れないということもあって窓にしがみついていた。窓にしがみついても、中は覗けなかったが。

妖精たちがピピンの教育的指導を受けて排除されると、次に湧いたのがドワーフ族たち。錬金だけでなく、ものづくりの観点から違う大陸の建造物や内部に興味を持ったようだ。こちらは妖精たちと共に内覧会を開いて対応していた。

「見たくても見られない。どうにかして見ようと集まっているんだったら、一度見せれば興味は半減する。ここにある道具は中古の上、ポンタくんのところで購入できるし」

確かに、内部や使っている道具を見せてもらい、ポンタがギルド長をしている職人ギルドで購入できる一般的なものだと知ると波が引くように落ち着いた。その裏で、職人ギルドに注文が殺到したらしいが。

それも数ヶ月で落ち着いた上、魔導具や錬金技術の向上に繋がった。

「元の世界の技術本、こっちでも魔導具のヒントにならない?」

エミリアのその言葉から、シーズルが進めていた図書館で持ち出し禁止本として取り扱われるようになった。管理は妖精たち。館長は、エリーの知り合いだという木の精霊ドリュアスだ。聖域にぎ木された『母なる木』ごと移ってきたらしい。

「見た目は年寄りだけど、若い姿にもなれる。精霊に年齢はないのだからな」
「フォフォフォ。年寄りをバカにする者、エミリアのように優しくなる者。人の本質を知るのにこの姿はよう役にたつもんじゃ」
「若い姿で男を揶揄うこともある」
「見た目で寄ってくる者の精気を頂くだけさね」

そう言って若返った姿は絶世の美女。その場にいたシーズルたちが顔を赤くしたものの、ダイバは表情を変えることはなかった。

「おや、珍しい」
「ダイバはアゴール一筋だもんね」
「……エミリア。あれが『男ウケする姿』なのか?」
「そうなんじゃない?」

ダイバの質問に興味なさそうなエミリアは頭の後ろで両腕を組んで会議室内を見回す。その視線の先には鼻の下を伸ばした男たちの姿がある。その後ろには妖精たちの姿もあり……

《 ワタシというものがありながらぁぁぁぁ! 》
「お前は妻じゃねぇぇぇぇ!」
《 不届きものぉぉぉ! 》
「ぶふぇぇ!」
《 てんちゅぅぅぅー! 》
「ぎゃぁぁぁ!」
《 実家にいただきます 》
「ちょっと待てぇぇぇぇ……」

妖精たちの攻撃を後頭部に受けて言われたセリフにあちこちでツッコミや悲鳴が上がる。数人が姿を消したということは、ということだ。同じ大陸ならまだマシだけど…………数ヶ月、姿を見かけなかった職員もいた。

「ウフフ♪」
「リリン……張り合うな」

ダイバの忠告もむなしく。後頭部で疼く痛みから逃れようとした職員たちは、リリンの微笑みひとつで数名が実家へ強制送還された。

「ひい、ふう、みい。……引き分けだったね」

消えた職員の数を数えていたエミリアの言葉に、無意識に張りあっていた美女2人が微笑み合う。

「あ、また消えた」
「……今日はここまでにするか」

ダイバのため息混じりのセリフに反対する声は上がらなかった。

「ねえ、シーズルもいないよ?」
「…………火龍に頼むか」
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