769 / 789
後日談
第4話
しおりを挟む【第3話、編集しました。】
そんなエミリアは、ダンジョン都市に戻ってからはダイバやアゴールのパーティやキッカたち、そしてネージュとも一緒にダンジョンを攻略している。
「えっ⁉︎ ネージュとダンジョンに?」
アゴールがエミリアの行方を聞いたときに運が悪いとそう答えが返ってくる。そうなるとアゴールの嫉妬劇場が始まるのだ。
「エミリアさん、おかえりっ! 一緒にダンジョン行こっっっ!」
「いま帰ってきたばかりだから……次ね?」
「いつっ‼︎」
「来週、かなぁ」
「来週⁉︎ 来週っていつ⁉︎」
《 しっつこーい! 》
ばちこーんっっっ!
エミリアの帰還を待ち構えて関所の前で待つアゴール。それこそ、帰ってくるまで何日も広場から離れようとしない。
帰ってきたら今度は自分と一緒に行こうと誘う。
エミリアも慣れたものだ。いつもサラリと躱すものの、アゴールや妖精たちとの約束を違えたことはない。そのため、妖精たちに強制的に排除されたアゴールでも、起きた後に騒ぐことはしない。
…………表の世界にある店に日参するけど。
「アゴール、今日は調合窯使いたいから【夢の郷】で過ごすけど?」
「お手伝いしてもいい?」
「となりの部屋で、ね」
《 新しく採取してきた薬草の仕分け、手伝って 》
「まかせて!」
前の人生でエミリアから教わった薬草の見分け方を、アゴールは覚えていたようだ。地の妖精やリリンに助けられつつも、エミリアの手伝いが出来ているようだ。
妖精たちがエミリアのレシピを使い続けてきたことで、エミリアはレシピ使用料で一財産を築いていた。元々、生前で使いきれない資産も貯めていたエミリアは、人神となった今では『働かずに遊んで暮らそう』という基本概念を続けている。
ダンジョンに入るのも、調合窯や錬金窯を使って何かつくるのも。エミリアにとって、すべてが興味本位で遊びの範疇だ。
「エミリアさん。ここはどうしてこうなるの?」
アゴールはそんなエミリアに触発されて、少しずつ錬金術に興味を持ち始めた。そんなアゴールにエミリアやピピンは根気よく噛み砕いて教える。妖精たちも協力して、アゴールにつきっきりで見守り、たまに厳しく叱る。それもアゴールを思ってのことだと理解しているため、アゴールは汚名返上のため勉強を欠かさない。
「錬金術の学校をつくってはどうだ?」
そんな案は過去にもあった。資金はエミリアの私財を当てにしており、講師もまたエミリアを当てにしていた。エミリアの技術を公開させようという魂胆がミエミエなのだ。
しかし、錬金は一歩間違えれば事故になる。それはダンジョン都市の外周部で起きた大事故がいい例だ。あれは薬草の理解が足りない錬金師による調剤が原因だった。
「未熟者が集まっても良いことにはならない。みんなは魔法を使い始めた子どもの頃、もしくは学校で習った新しい魔法や戦闘術を試してみたくならなかったか?」
誰もが顔を見合わせて黙り込む。彼らには心当たりしかなかった。それをダンジョン内で試した結果、【妖精の救助隊】に救われて一命をとりとめた職人や研究者も一人や二人ではない。
「そんな好奇心の塊を集めて? はてさて。卒業まで生き残れる生徒はいるのかな~?」
いつの時代でも、職人とは『好奇心が服を着て歩いている』と言われている。エミリアがいい例だ。
しかし、エミリアはその危険性も分かっているため、安全面には配慮を欠かさない。もしもの場合を考慮して自分の周りに結界を張ったり、扉を閉めると結界が起動する錬金室を使う。
我が身より外部への影響を最小限に考えるのは生前から。
夢という意識下の中で起きたジャミーラの接触により、エミリアは騰蛇の管理するダンジョン都市内で地震を引き起こした。無意識だったとはいえ、そのときのことを気に病んでいたエミリアは錬金室をテントの中につくり、さらに錬金室内も何重もの結界で覆った。
「エミリアの安全は私たちが守ります」
ピピンの言葉に、エミリアの妖精たちが《 まかせて! 》と小さな胸を握ったこぶしで軽く叩く。エミリアも結界のアクセサリーを持っているため、最悪な事態が起きても被害は受けない。
それがわかっているから、誰も心配はしていなかった。……唯一、熱中するとギリギリまで錬金を続ける。そんなエミリアの身体のことは心配していたが。
人神として戻ってきてからは、エミリアの研究室は【夢の郷】に移された研究施設で行われている。
ムルコルスタ大陸のエイドニア王国の王都に残されていた鉄壁の防衛の住処から、正式にエミリアへ送られた研究施設。
「お恥ずかしい話、エアさん以外に使わないので」
そんな理由で送られた施設は、初めは農園の横の土地を購入して置かれていたものの、妖精たちが中に入れないということもあって窓にしがみついていた。窓にしがみついても、中は覗けなかったが。
妖精たちがピピンの教育的指導を受けて排除されると、次に湧いたのがドワーフ族たち。錬金だけでなく、ものづくりの観点から違う大陸の建造物や内部に興味を持ったようだ。こちらは妖精たちと共に内覧会を開いて対応していた。
「見たくても見られない。どうにかして見ようと集まっているんだったら、一度見せれば興味は半減する。ここにある道具は中古の上、ポンタくんのところで購入できるし」
確かに、内部や使っている道具を見せてもらい、ポンタがギルド長をしている職人ギルドで購入できる一般的なものだと知ると波が引くように落ち着いた。その裏で、職人ギルドに注文が殺到したらしいが。
それも数ヶ月で落ち着いた上、魔導具や錬金技術の向上に繋がった。
「元の世界の技術本、こっちでも魔導具のヒントにならない?」
エミリアのその言葉から、シーズルが進めていた図書館で持ち出し禁止本として取り扱われるようになった。管理は妖精たち。館長は、エリーの知り合いだという木の精霊だ。聖域に接ぎ木された『母なる木』ごと移ってきたらしい。
「見た目は年寄りだけど、若い姿にもなれる。精霊に年齢はないのだからな」
「フォフォフォ。年寄りをバカにする者、エミリアのように優しくなる者。人の本質を知るのにこの姿はよう役にたつもんじゃ」
「若い姿で男を揶揄うこともある」
「見た目で寄ってくる者の精気を頂くだけさね」
そう言って若返った姿は絶世の美女。その場にいたシーズルたちが顔を赤くしたものの、ダイバは表情を変えることはなかった。
「おや、珍しい」
「ダイバはアゴール一筋だもんね」
「……エミリア。あれが『男ウケする姿』なのか?」
「そうなんじゃない?」
ダイバの質問に興味なさそうなエミリアは頭の後ろで両腕を組んで会議室内を見回す。その視線の先には鼻の下を伸ばした男たちの姿がある。その後ろには妖精たちの姿もあり……
《 ワタシというものがありながらぁぁぁぁ! 》
「お前は妻じゃねぇぇぇぇ!」
《 不届きものぉぉぉ! 》
「ぶふぇぇ!」
《 てんちゅぅぅぅー! 》
「ぎゃぁぁぁ!」
《 実家に帰っていただきます 》
「ちょっと待てぇぇぇぇ……」
妖精たちの攻撃を後頭部に受けて言われたセリフにあちこちでツッコミや悲鳴が上がる。数人が姿を消したということは、実家に帰されたということだ。同じ大陸ならまだマシだけど…………数ヶ月、姿を見かけなかった職員もいた。
「ウフフ♪」
「リリン……張り合うな」
ダイバの忠告も空しく。後頭部で疼く痛みから逃れようとした職員たちは、リリンの微笑みひとつで数名が実家へ強制送還された。
「ひい、ふう、みい。……引き分けだったね」
消えた職員の数を数えていたエミリアの言葉に、無意識に張りあっていた美女2人が微笑み合う。
「あ、また消えた」
「……今日はここまでにするか」
ダイバのため息混じりのセリフに反対する声は上がらなかった。
「ねえ、シーズルもいないよ?」
「…………火龍に頼むか」
74
お気に入りに追加
8,060
あなたにおすすめの小説

我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。

聖女らしくないと言われ続けたので、国を出ようと思います
菜花
ファンタジー
ある日、スラムに近い孤児院で育ったメリッサは自分が聖女だと知らされる。喜んで王宮に行ったものの、平民出身の聖女は珍しく、また聖女の力が顕現するのも異常に遅れ、メリッサは偽者だという疑惑が蔓延する。しばらくして聖女の力が顕現して周囲も認めてくれたが……。メリッサの心にはわだかまりが残ることになった。カクヨムにも投稿中。

【短編】追放された聖女は王都でちゃっかり暮らしてる「新聖女が王子の子を身ごもった?」結界を守るために元聖女たちが立ち上がる
みねバイヤーン
恋愛
「ジョセフィーヌ、聖なる力を失い、新聖女コレットの力を奪おうとした罪で、そなたを辺境の修道院に追放いたす」謁見の間にルーカス第三王子の声が朗々と響き渡る。
「異議あり!」ジョセフィーヌは間髪を入れず意義を唱え、証言を述べる。
「証言一、とある元聖女マデリーン。殿下は十代の聖女しか興味がない。証言二、とある元聖女ノエミ。殿下は背が高く、ほっそりしてるのに出るとこ出てるのが好き。証言三、とある元聖女オードリー。殿下は、手は出さない、見てるだけ」
「ええーい、やめーい。不敬罪で追放」
追放された元聖女ジョセフィーヌはさっさと王都に戻って、魚屋で働いてる。そんな中、聖女コレットがルーカス殿下の子を身ごもったという噂が。王国の結界を守るため、元聖女たちは立ち上がった。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~
白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。
王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。
彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。
#表紙絵は、もふ様に描いていただきました。
#エブリスタにて連載しました。

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から「破壊神」と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。