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後日談
第1話
しおりを挟むダンジョン都市では今日も朝から元気な声が響く。
「エッミリ~アさ~ん! あっそび~ましょ~♪」
エミリアの店の前で、元気な声を出しているのはエミリアの義姉アゴール。
世界を救ったエミリアたちは人神としてこの世界に戻ってきた。最後の英雄であるミリィの死から優に100年経っている。
神による褒美と詫び、そしてエミリアたちは【死者の世界】の改革までやらかしてきた。
つまり【死者の世界】からまとめて追い出されたと言っても過言ではない。
戻ってきた彼女たちは『現世』から外れた……騰蛇が管理するダンジョン都市と隣り合う空間、今では伝説となっている【夢の郷】に住んでいる。
家族がすでに家を継いでいる彼女たちは、子孫を押し退けて自分たちが占拠することはしたくない。そんな理由から『同じであって同じではない』世界で生活している。まったく同じにも関わらず、彼女たちや妖精たち以外は誰も住んでいないのだ。
ただ……エミリアとネージュは違う。
二人が住んでいた店舗兼住宅はエミリアの死後もテントと共に妖精たちに管理されていたこともあり、ダンジョン都市での生活が可能なのだ。
そのため、ダンジョン都市を拠点にしているエミリアに会うため、アゴールは日参しているのだ。
「アゴール。二人はダンジョンに行ってるだろ?」
「ウソ! いつから」
「昨日から。……いや、今朝からか?」
ダイバの言葉にアゴールの見開いた両の眼から大粒の涙がこぼれ落ち、地面にシミをつくる。
「一緒に行きたかったぁぁぁ!」
アゴールの気持ちは分かる。しかし今回は、ピピンたちや妖精たち『本来のパーティ』でダンジョンに入っている。
「……ネージュは?」
「オヤジたち【鉄壁の防衛】で別のダンジョンに入っている」
「………………そう」
残念そうな表情を見せながら、少し嬉しそうに唇の端が上に向く。
現在、アゴールの敵はネージュだ。ダイバの死から数年後に【死者の世界】に行ったアゴールは、その日からエミリアを片時も離さない。
「エミリアさぁぁぁん‼︎」
泣きながら抱きつくアゴールの様子を周りが微笑ましく見ていたのが失敗だった。
「いい加減にエミリアを離せ」
「いやぁぁぁ!」
離れないアゴールからエミリアを引き離すために始まったのが【死者の世界】の改革だった。
まずは住居環境を調えるところから始まった。生前同様に建物があり、そこで家族や友人たちと共同生活しているようなものだ。時間の感覚はないからか飲食の欲はないものの睡眠欲はある。話し疲れて、という理由からだけどその場合は雑魚寝する。
「寝具くらいよこせぇぇぇぇ!」
ワワワワワァァァァァン!!!
エミリアの抗議に合わせて声をあげて騒いでいるのが、【死者の世界】の四つ目の番犬、サーラメーヤ。まだら模様のシャバラと黒色のシュヤーマだ。
完全にエミリアの飼い犬として……仔犬化して甘えている。もちろん、ピピンの教育的指導を受けてエミリアに従順になった。
生前からエミリアの前では従順だったシャバラとシュヤーマは、エミリアが現世に移ったのちは【夢の郷】で過ごしている。死者の世界、もしくは神の世界に属するためだ。エミリアに近いからか、毎日会えなくても騒ぎを起こさない……アゴールのように。
そうしてひとつを改善すれば次に目につく課題が見つかっていき……エミリアがそれを放置するわけもなく。あれよあれよと解決していき、気がつけば快適な世界となった。
そして世界を満喫するようになった死者たちが生まれかわることを渋るようになった。
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