私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル

文字の大きさ
上 下
758 / 789
最終章

第771話

しおりを挟む

ムルコルスタ大陸に残った妖精たちもいる。彼らは責任を持ってムルコルスタ大陸が復興するまで国外へ出られないように牽制してくれるそうだ。

そしてロアたち『別の進化をした竜人族』は自分たちの棲家へ戻った。仲間たちの死を告げるためだ。火龍に自分たちの今後を相談するのはそのあとからだ。

そして私たちはダンジョン都市シティに帰ってきた。

「エミリア‼︎」
「みんな、ただい……ぐぇ……!」

人混みを搔きわけて駆け寄ってきた人物に全力で抱きしめられた。

「エミリア! エミリア! エミリア~‼︎」
「死ぬ死ぬ死ぬ~!」
「気持ちはわかるが、ちょっと落ち着け。お前がエミリアを殺してどうするんだ」

ダイバの言葉に落ち着いたのか、ネージュが私を抱き締める腕が弱くなる。と同時に、別の誰かの腕で引き離された。

「エミリアさん、おかえりなさい」
「あ、アゴール……ただい、きゃぁぁぁぁ!」

近くの椅子に片足を乗せたアゴールが、その足に私の上半身を乗せると布団よろしく私のお尻をパンパンッと叩き出した。

「誰ですか! 家出した悪い子は!」
「きゃー! ごめん! ごめんなさーい! もうしない! しないからあああー!」
「それも……危ないところにいって……! あとで聞かされた私がどれだけ心配したのか……わかってるの……」

アゴールの声に湿り気が含まれてお尻を叩いていた手が止まった。身体をねじって見上げると、ボロボロと大粒の涙を落として震えるアゴールの顔がそこにはあった。

「アゴール……」

身体を起こそうとした私をアゴールが抱き上げた。そしてそのまま椅子に座ったアゴールの膝の上で横抱きに抱きしめられる。

「わかってる、わかってるの。私たちを、みんなを守るために行ったのは。…………でも、黙っていなくならないで。一緒にいけなくても……無事を祈らせて…………おね、がい……」

私を抱きしめて震えるアゴールを抱きしめ返す。謝罪なんていくら言っても意味はない。『遺される悲しみ』は嫌というほど経験してきた。そんな私が同じことをアゴールにしていた。

きっと、ムルコルスタ大陸を離れたときに、ミリィさんたちにも同じ悲しみを味わわせてしまっていただろう。

「ゴメン……ごめん、なさ……」

アゴールにしがみついて謝る。そんなのは、自分の気持ちを軽くするためだけだとわかっているのに。

「エミリア、お前は謝らなくていい。お前は……謝られる側だ」

ダイバの言葉に首を左右に振る。
私がアゴールに心配をかけたのは本当だ。ミリィさんたちの前から、何も告げずにいなくなったのは私だ。

『被害者なら、何をしても許される』

そんなはずがない。許されるのは当事者に対してであって、ほかの人たちに向けた場合、被害者から加害者に立場をスライドする。

「エミリア。お前は優しいから自分を責めるんだ。でも、お前はこの世界を救った。お前にとっては『仕返しをしただけ』でもな」

ダイバの優しい言葉に別の手が私を撫でる。この優しい手に、私はいつも救われた。何度も、日本とこの世界の記憶が混乱しては喚き散らして気持ちを爆発させても、いつも黙って隣に座ってそばにいてくれた。黙って抱きしめて、何度も背中をさすって落ち着かせてくれた。

「世界中の誰もががエミリアを敵だといっても、俺は必ず一緒にいる。エミリアを守る盾になるし死んでも隣にいる。覚悟しろよ、俺は諦めが悪いからな、─── 」

耳に残る、いつも同じ言葉。でも、私には安心できる『魔法の呪文』。最後に私の『日本で使っていた名前』で誓ってくれる。今はもう、呼ぶ人はいない。そして私がその名前を大事にしているため、ダイバも滅多に呼ばない。呼ぶのはネージュと2人きりのときだけ。
そんな彼は黙って私の頭を撫で続ける……いつものように優しく。

「エミリア、さん」

彼はいつも私をそう呼ぶ。でも、いつもの彼らしくない声だ。

「ズルいですよ、俺のときはすぐに引き離されたのに……。返してください。エミリアは俺のです」

あ、嫉妬してる……
誰もがそう思っただろう。だって私もそう思った。

「ふふ……ふふふ」
「エミリア?」
「ふはははは……」
「アハハハハ」
「な、何がおかしいんですか。アゴール、ダイバも! ちょっと、周りも! なぜ笑っているんですかっ!」

嫉妬を自覚していない彼の様子にさらに笑いが広がる。……違う、嫉妬を隠せないほど彼は辛かったのだ。

置いていかれたことを知り、きっと居残り組から残された理由も聞いただろう。
それで理解はしても、納得出来るはずがない。ましてや、戦闘の様子は世界中の人たちが見ていたのだから。何度も手足だけでなく腹部に大穴をあけた姿も目撃していたはずだ。

そのときに気づいただろうか、ネージュを残した本当の理由を。
私を『庇って死んでも本望』という捨て身の者を戦場に立たせられないという真実に。

「必ず生きて戻る」

その強い思いがないなら…………戦場の死は周りの士気と戦力を下げるだけ。生死を分ける戦場に足手まといになる戦力など必要はない。

そのことに、きっとアゴールは気づいた。だから置いていかれたことではなく、何も言わずに行ったことを責めている。

「ねえ、お腹すいた!」
「ああ。祝勝会の準備は出来ているぞ」

私とランディおじいちゃんの会話に周囲が賑やかになる。

「はじめるぞー!」
「酒をまわせー!」
「子ども以外は酒を持ったなー?」
「ぼくたちはサングリア~」

フィムが掲げた取っ手付きのコップをみたシーズルがフィムからコップを取り上げ、横にいるエーメやリュリュのコップまで取り上げる。

「誰だぁ! 子どもたちにアルコール入りのサングリアいだやつは~」
《 あ、バレた 》
《 お祝いだからいいかと思って 》
「良いわけあるかぁぁぁ!」

たぶん、妖精たちは冗談で注いでいる。それを証拠に、取っ手には印がついているから。
シーズルが気付かなかったら、飲む前に交換していただろう。

「エミリア。音頭とれ」

ルーバーからそう言われて、私を後ろから離さないネージュから引き離してお立ち台に上げられる。

「じゃあ、いっくよ~」

みんなが優しい笑顔で私を見上げる。宿屋のパパさんたちやフィシスさんなど、私と交流を持っていた人たち。無事に再会出来たのだろう、ポンタくんはシェシェを抱き上げていた。
なんの言葉もいらない。私から言いたいことは、ただひと言。

「みんなっ、たっだいまぁぁぁ!」
「「「おっかえりぃぃぃ!」」」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

聖女らしくないと言われ続けたので、国を出ようと思います

菜花
ファンタジー
 ある日、スラムに近い孤児院で育ったメリッサは自分が聖女だと知らされる。喜んで王宮に行ったものの、平民出身の聖女は珍しく、また聖女の力が顕現するのも異常に遅れ、メリッサは偽者だという疑惑が蔓延する。しばらくして聖女の力が顕現して周囲も認めてくれたが……。メリッサの心にはわだかまりが残ることになった。カクヨムにも投稿中。

【短編】追放された聖女は王都でちゃっかり暮らしてる「新聖女が王子の子を身ごもった?」結界を守るために元聖女たちが立ち上がる

みねバイヤーン
恋愛
「ジョセフィーヌ、聖なる力を失い、新聖女コレットの力を奪おうとした罪で、そなたを辺境の修道院に追放いたす」謁見の間にルーカス第三王子の声が朗々と響き渡る。 「異議あり!」ジョセフィーヌは間髪を入れず意義を唱え、証言を述べる。 「証言一、とある元聖女マデリーン。殿下は十代の聖女しか興味がない。証言二、とある元聖女ノエミ。殿下は背が高く、ほっそりしてるのに出るとこ出てるのが好き。証言三、とある元聖女オードリー。殿下は、手は出さない、見てるだけ」 「ええーい、やめーい。不敬罪で追放」 追放された元聖女ジョセフィーヌはさっさと王都に戻って、魚屋で働いてる。そんな中、聖女コレットがルーカス殿下の子を身ごもったという噂が。王国の結界を守るため、元聖女たちは立ち上がった。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~

白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。 王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。 彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。 #表紙絵は、もふ様に描いていただきました。 #エブリスタにて連載しました。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から「破壊神」と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。