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最終章
第771話
しおりを挟むムルコルスタ大陸に残った妖精たちもいる。彼らは責任を持ってムルコルスタ大陸が復興するまで国外へ出られないように牽制してくれるそうだ。
そしてロアたち『別の進化をした竜人族』は自分たちの棲家へ戻った。仲間たちの死を告げるためだ。火龍に自分たちの今後を相談するのはそのあとからだ。
そして私たちはダンジョン都市に帰ってきた。
「エミリア‼︎」
「みんな、ただい……ぐぇ……!」
人混みを搔きわけて駆け寄ってきた人物に全力で抱きしめられた。
「エミリア! エミリア! エミリア~‼︎」
「死ぬ死ぬ死ぬ~!」
「気持ちはわかるが、ちょっと落ち着け。お前がエミリアを殺してどうするんだ」
ダイバの言葉に落ち着いたのか、ネージュが私を抱き締める腕が弱くなる。と同時に、別の誰かの腕で引き離された。
「エミリアさん、おかえりなさい」
「あ、アゴール……ただい、きゃぁぁぁぁ!」
近くの椅子に片足を乗せたアゴールが、その足に私の上半身を乗せると布団よろしく私のお尻をパンパンッと叩き出した。
「誰ですか! 家出した悪い子は!」
「きゃー! ごめん! ごめんなさーい! もうしない! しないからあああー!」
「それも……危ないところにいって……! あとで聞かされた私がどれだけ心配したのか……わかってるの……」
アゴールの声に湿り気が含まれてお尻を叩いていた手が止まった。身体を捻って見上げると、ボロボロと大粒の涙を落として震えるアゴールの顔がそこにはあった。
「アゴール……」
身体を起こそうとした私をアゴールが抱き上げた。そしてそのまま椅子に座ったアゴールの膝の上で横抱きに抱きしめられる。
「わかってる、わかってるの。私たちを、みんなを守るために行ったのは。…………でも、黙っていなくならないで。一緒にいけなくても……無事を祈らせて…………おね、がい……」
私を抱きしめて震えるアゴールを抱きしめ返す。謝罪なんていくら言っても意味はない。『遺される悲しみ』は嫌というほど経験してきた。そんな私が同じことをアゴールにしていた。
きっと、ムルコルスタ大陸を離れたときに、ミリィさんたちにも同じ悲しみを味わわせてしまっていただろう。
「ゴメン……ごめん、なさ……」
アゴールにしがみついて謝る。そんなのは、自分の気持ちを軽くするためだけだとわかっているのに。
「エミリア、お前は謝らなくていい。お前は……謝られる側だ」
ダイバの言葉に首を左右に振る。
私がアゴールに心配をかけたのは本当だ。ミリィさんたちの前から、何も告げずにいなくなったのは私だ。
『被害者なら、何をしても許される』
そんなはずがない。許されるのは当事者に対してであって、ほかの人たちに向けた場合、被害者から加害者に立場をスライドする。
「エミリア。お前は優しいから自分を責めるんだ。でも、お前はこの世界を救った。お前にとっては『仕返しをしただけ』でもな」
ダイバの優しい言葉に別の手が私を撫でる。この優しい手に、私はいつも救われた。何度も、日本とこの世界の記憶が混乱しては喚き散らして気持ちを爆発させても、いつも黙って隣に座ってそばにいてくれた。黙って抱きしめて、何度も背中をさすって落ち着かせてくれた。
「世界中の誰もががエミリアを敵だといっても、俺は必ず一緒にいる。エミリアを守る盾になるし死んでも隣にいる。覚悟しろよ、俺は諦めが悪いからな、─── 」
耳に残る、いつも同じ言葉。でも、私には安心できる『魔法の呪文』。最後に私の『日本で使っていた名前』で誓ってくれる。今はもう、呼ぶ人はいない。そして私がその名前を大事にしているため、ダイバも滅多に呼ばない。呼ぶのはネージュと2人きりのときだけ。
そんな彼は黙って私の頭を撫で続ける……いつものように優しく。
「エミリア、さん」
彼はいつも私をそう呼ぶ。でも、いつもの彼らしくない声だ。
「ズルいですよ、俺のときはすぐに引き離されたのに……。返してください。エミリアは俺のです」
あ、嫉妬してる……
誰もがそう思っただろう。だって私もそう思った。
「ふふ……ふふふ」
「エミリア?」
「ふはははは……」
「アハハハハ」
「な、何がおかしいんですか。アゴール、ダイバも! ちょっと、周りも! なぜ笑っているんですかっ!」
嫉妬を自覚していない彼の様子にさらに笑いが広がる。……違う、嫉妬を隠せないほど彼は辛かったのだ。
置いていかれたことを知り、きっと居残り組から残された理由も聞いただろう。
それで理解はしても、納得出来るはずがない。ましてや、戦闘の様子は世界中の人たちが見ていたのだから。何度も手足だけでなく腹部に大穴をあけた姿も目撃していたはずだ。
そのときに気づいただろうか、ネージュを残した本当の理由を。
私を『庇って死んでも本望』という捨て身の者を戦場に立たせられないという真実に。
「必ず生きて戻る」
その強い思いがないなら…………戦場の死は周りの士気と戦力を下げるだけ。生死を分ける戦場に足手まといになる戦力など必要はない。
そのことに、きっとアゴールは気づいた。だから置いていかれたことではなく、何も言わずに行ったことを責めている。
「ねえ、お腹すいた!」
「ああ。祝勝会の準備は出来ているぞ」
私とランディおじいちゃんの会話に周囲が賑やかになる。
「はじめるぞー!」
「酒をまわせー!」
「子ども以外は酒を持ったなー?」
「ぼくたちはサングリア~」
フィムが掲げた取っ手付きのコップをみたシーズルがフィムからコップを取り上げ、横にいるエーメやリュリュのコップまで取り上げる。
「誰だぁ! 子どもたちにアルコール入りのサングリア注いだやつは~」
《 あ、バレた 》
《 お祝いだからいいかと思って 》
「良いわけあるかぁぁぁ!」
たぶん、妖精たちは冗談で注いでいる。それを証拠に、取っ手には印がついているから。
シーズルが気付かなかったら、飲む前に交換していただろう。
「エミリア。音頭とれ」
ルーバーからそう言われて、私を後ろから離さないネージュから引き離してお立ち台に上げられる。
「じゃあ、いっくよ~」
みんなが優しい笑顔で私を見上げる。宿屋のパパさんたちやフィシスさんなど、私と交流を持っていた人たち。無事に再会出来たのだろう、ポンタくんはシェシェを抱き上げていた。
なんの言葉もいらない。私から言いたいことは、ただひと言。
「みんなっ、たっだいまぁぁぁ!」
「「「おっかえりぃぃぃ!」」」
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