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最終章
第769話
しおりを挟む「召喚された私たちはけっして許しはしない」
その意思を伝えた私に、神々も精霊たちも。ムルコルスタ大陸に生きる、生きとし生けるものたち誰もが、私への謝罪を止めた。
どんなに謝罪を言葉にしてもムダだと考えたのではない。『口先だけの謝罪に意味などない』とようやく気づいたのだ。
それに気づかせたのは妖精たち。私に寄り添い、私と共に嘆き…………私の言葉を教えとして信心し、自らの存在を高める努力をする。
その姿に神々は思い出した、神として敬われていた頃を。自らを崇める民たちをときには厳しく、ときには優しく。慈しみをもって導いてきたことを。
【 それを思い出した。これからはあの頃のように…… 】
《 信用できない 》
《 信用ならない 》
《 信じてもらえるなんて思ってるの? 》
神の言葉を妖精たちが断ち切る。
それも当然だ。この世界をつくってまだ浅い頃に、ジャミーラを追い回して『第一の世界崩壊』を起こしかけたのだから。
【 あの頃は新しい世界が完成したことで気持ちが浮ついていた。自分たちの新しい世界、自分たちの支配によって始まる世界が嬉しくて 】
この世界の人々は、元の世界の人々の魂を半分にして生み出したもの。自分たちで生み出すことをしなかったのは、創世の神たちが元の世界に残ったから。ただ、一種類の種族ではなく複数種の種族を作り出した。
「愛着がなければ、生き死にだって軽く考えるよね」
実際に一度目の世界崩壊で失われた生命を憂いる思いはなかった。今でもそう、ジャミーラとの戦闘で失われるかもしれなかった生命たちを守る気は……神々には一切なかった。
「だから精霊たちに頼んだんだよ」
その代わりに神々を前線で戦わせた。それ相応の責任は神々にあり、罪を贖う必要もあったのだから。
「しかし……俺たち竜人はともかく、ドワーフ族などはエミリアの世界ではゲーム以外に存在していないだろ?」
ダイバの言葉に私は首を左右に振る。
「ゲームの世界は神話が元になっていることが多いの。神のいた時代の話……つまり神にとっては知っていて当然の存在」
龍などの荒ぶる神獣たちを、過去の英雄たちは『平和のために』討伐していった。現代では自然淘汰されて失われた妖精などの存在を、神々は新しいこの世界で復活させようとした。
「でもね、何もないところから新しい生命を生み出せる神はいなかった」
だから、オオトカゲから龍を生み出した。少しずつ、銀龍や黒龍のように大きく。
「そして……大きくしすぎた。その結果、双龍の悲劇を生み出したものの……神々は喜んだ。偶発的とはいえ、この世界のオリジナルである竜人を生み出すことが出来たから」
火龍が竜人であるダイバたちを庇護しているのは、両親が流した血から生まれた竜人を、失った弟妹のように思っていたから。
「そうじゃないと、両親の死や弟妹たちの死を乗り越えることができなかったかもしれない。何でもいい、支えがないと……何かに、誰かに縋らないと生きられなかった」
火龍の気持ちは分かる。火龍も私の気持ちが分かる。だから、火龍は自分の気持ちを吐露してくれた。
「そうしないと……両親や弟妹を殺した人たちを憎しみだけで滅ぼしていただろうから」
私がこの世界に召喚された憎しみをエイドニア王国の人たちに向けなかったのは、私の心を支える存在がいたから。
「……もう、必要以上関わらないで。謝られても許す気はないし、憎しみが増すだけ。救いを求めないで。貴方たちを救いたいなどとは思わない……『勝手に滅びろ。苦しみ抜いて死に、死んでも苦しみ続けろ』と思うけどね」
私の突き放した言葉に、ルナンバルトとフランシアは唇を噛み締める。
「アンタの弟はその魂で罪を償った。この先も死ねずに罪を悔いていく。…………アンタらは、国民たちも何もしていない。罪を償わない者たちに救いなどあるはずがない」
私との接触を禁ずる。すでに許される猶予期間は過ぎた。
「口先の謝罪だけで許されると思うな。国の復興に尽力するのは王として当然だ。復興に向けて協力するのは国民として当然だ。それで罪を贖ったと思うな‼︎」
ダイバが私を胸に抱きしめて、シーズルが私の前に立ち塞がってルーバーと共に救いを求めて一歩前へ出た人や精霊たちを牽制する。
「帰りましょう。みんなが待ってるわ」
ミリィさんの言葉に妖精たちが《 まかせて 》と小さな胸を叩いた。
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