私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル

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最終章

第766話

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自分たちの代ではない。しかし先祖の、自分たちの国で実際に起きた過去。

被害者ヅラすることは許されない。
この責めは王家が長年放置し、現実から目を背けて、棺に遺体と共に犯した問題つみを詰め込んで蓋をし続けてきたとがが、蓋の隙間から漏れ出てきた。

「アンタら、親だろ? 我が子を奪われて、その子が暴行を受けて殺されても『世界のために仕方がない』と笑って許せるのか」

そして、自分たちの目の前には生き証人がいる。

「謝って許されることではないと分かっています。ですが言わせてください。申し訳ございません」

2人で深く頭を下げる。謝ったって許されることではない。

「ミリィさん。ルーバー」

黙って見ている2人に視線を向ける。
2人の娘シェシェは前世が聖女、それもポンタくんが一緒にいた聖女の生まれ変わりだ。シェシェの親である2人にも、この件に関して発言をする権利はある。

「俺たちの娘は聖女の生まれ変わりだ。ほかにも違う国で生まれ変わった聖女がいることをエミリアが確認している」

驚きで顔をあげるルナンバルトたち2人。真偽を確かめるためか、フランシアが私に視線を向けてきたけどそれをスルーする。

知ってどうするのか。会いにいって謝罪するのか?

「そんな権利、アンタらにはない」

だいたい、謝罪を求めるならエイドニア王国に生まれているだろう。

「エイドニア以外に家族しあわせを求めたんだ。エイドニアに掴んだ幸せを壊す権利はないし、いまさら謝罪されても遅いんだよ」

あと、これは神に聞いた話だけど……知っておいた方がいいだろう。

「聖女を召喚した者たちおよびその時代の国王は……アイツ以外にし、人の姿を保ってもいない」
「しかし父は、あ、いや……」
「アレの魂は完全消滅する。生前最後の悪行を償ってからだけどね」
「……アンタの弟だったヤツが言ってたよ、『我を求めれば助けてやろう』という声が届いた、と。アイツはその声で我に返ったらしい『救われるべきは自分ではない。自分たちがこの世界に引き摺り込んだ聖女様たちだ』とな」
「そんなこと言ってたの?」
「ああ。廃国でな」

私が精神的に不安定になっていた頃だ。主にダイバとシーズル、ピピンが対応してくれていて、誰もが私の前では廃国での話を避けていた。

私の気持ちがモヤモヤしているのに気付いたのか、ダイバが「大丈夫か?」と小声で聞いてきた。頷いた私に「無理しないでね」と隣に立って背中に手を添えてくれるミリィさん。ルーバーは一歩前に出て、私たちを守るように立つ。

「キミらはこれからも贖罪の日々を生きるがいい。エミリアや生まれかわった娘たちだけでなく、いままでの聖女たち。そして引き裂かれた家族たちにあがない続ける日々を」
「あの男が不死人しなずびとの罰を許されたのは、自らの罪と向き合い、自分のためでなくエミリアのために。そして世界のために自らの魂をほとんど使い切ったからだ。お前たちに同じことは求めない。すでに……聖女召喚術はこの世界から消滅したのだからな」

ダイバの言うとおりだった。
ジャミーラが死を迎えたとき、レイモンドの魂も消滅しかけていた。それを救ったのはジャミーラ自身。最後の力を使って、魂の消滅を防いだのだ。

ジャミーラはこの世界に生まれ変わるのを拒否した。……私がいた世界の自然界で意識を千千ちぢに散らしていくのを選んだのだ。

木漏れ日の中、雨の中、風の中、花の中。そのどこかに……いや、そのすべてにジャミーラが隠れているだろう。川のせせらぎや木々の葉音はおと、小さな虫の羽ばたきから、ジャミーラの子守唄や生きる嬉しさをささやく声が届くかもしれない。

その声に、人を闇に落とすようなものは含まれない。…………本来の優しい女神に戻ったジャミーラが、自然を愛し、生きる喜びを歌う声で疲れた人々を癒すだろう。
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