私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル

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最終章

第756話

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「じゃあ、話を戻すね」

旧シメオン国の国民は綺麗な人たちが多かったみたいだ。しかし、を受けてしまったため、ただ美しさだけを求めすぎた。それも身の内の美しさより外見の美しさを。

その異常ともいえる美への偏りは、生まれた子の美醜だけでなく、髪や瞳の色がキレイでなければ捨てられたり殺されるようになった。これもすべてジャミーラの影響ではなく、手を出した女神たちの影響にある。

当然だ。ジャミーラを癒やすために興った宗教が、彼女を悲しませる行為などするはずがない。

「愚かにも、信仰を荒らせばジャミーラが現れるとも思ったんだよ」
「でも、出てこなかった?」

フィシスさんの言葉に頷く。

ジャミーラが出てこない。だったら、さらに酷いことをしよう。
まだ出てこない。じゃあ、もっと酷いことを。もっともっと酷いことを。

いつのまにか、旧シメオン国には『美しくなければ国民として認めない』という暗黙の了解がうまれた。さすがに美醜だけで我が子を手にかけられない親も祖父母もいた。そんな人たちが幼な子を連れて国を離れた。離れられない家は……国外の知人を頼ったり大金を積んで託す捨てるしかなかった。

その捨てられた子たちが、今のシメオン国の国民の祖だ。

国王以下女神ジャミーラの信徒たちは、ほかの神々からも罰を与えられた。そのひとつがジャミーラの信仰の棄教。しかし、彼らにとって神は『ジャミーラただひとはしら』のみだ。
信仰を続けた結果、信仰もジャミーラの名を口にすることも許されず、地の神に旧シメオン国に住み続けることを許されず。国を追われてもなお定住が許されないため、流民るみんとして流離さすらうことになった。

そして、移り住む度に先の国民と血を混ぜていった。自分たちはダメでも、せめて子孫が神に許されて定住ができるように。その願いが叶ったのか。混血で血は薄まり、定住が可能になりだしたのが約三百年前。

その頃になって聖女の召喚が行われている国があることを知り、それが『遠き昔に信仰することも名を呼ぶことも許されなくなった女神』を消滅させると考えた彼らは、仲間を募ってエイドニア王国に潜り込んだ。

自分たちを追い出した大陸に、王族の直系の血に。かつて先祖が信仰していた女神を感じ取った。それと時を同じゅうにして、彼らの薄まったはずの血が『過去の信仰の厚さ』を思い出した。思い出したのはそれだけではない。先祖が受けてきたむごい仕打ちもだ。彼らはムルコルスタ大陸の国すべてを滅ぼすために三百年かけて動いた。

「それが、ムルコルスタ大陸で彼らが起こした様々な事件の真相だ。そして、ほかの大陸に新たな信仰を広げた。それが『魅了の女神信仰信者シルキーたちの先祖』だ」
「しかし、魅了の女神と美の女神は違うだろう?」
「姉妹神だよ。それにジャミーラの名は表にだせない。だいたい、本当に信仰させるわけではない。『神の名のもとに』を掲げるため。生命をかけることに『選ばれて光栄です』と思わせられればいい。……その洗脳のための芥子ケシだったんだ」

私の説明に、ここにいる全員が大きく息を吐き出した。

「……それで、これからはどうなる?」
「どうなる、というと?」
「すでに女神は消えた。しかし、信仰していた連中が……」
「どうもならない。いま自分で言ったじゃない。『女神は消えた』って。ジャミーラがいないから、薄まった血が再び暴れ出すこともないし、治療院の連中の中で暴れていた血は沈静化する」

実際にシルキーは自らの意思で女神信仰をやめ、女神の加護を自分の手で打ち切った。すでに加護の所持者や長子の死で加護を持つ者も多く失われている。

信仰自体も失われつつある。シルキーたちの支部で発覚した事件と危険物の所持から、各地の支部でも一斉調査が行われた。すでに妖精たちとアラクネによって『公開できない危険物』を回収されていたものの、公開できる危険物自体は残してきたため多数が押収された。危険物が見つからなかった支部も、危険な信仰と指摘されて一斉に棄教ききょうした。

今は信仰の大半も加護も、ムルコルスタ大陸に残った信者たちに残されたくらいだろう。

「だいたいさあ。加護って言っても、自身の特技を芥子ケシで強化させただけだし」

ここで強化されたのが魔法ではなかった点が、発見の遅れた大きな要因だ。
魔導具でわかるのは、魔法や生まれもったスキルに手が加えられたりという問題行為があるかどうか。『誰からも好かれる』程度の特技など、個人によって変わるものは魔導具では分からない。

「それに、ジャミーラは美の女神。与えられるのはガミーラの魅了ではなく美の加護。その美しさに惑わされないのがガミールの『男の魅力』」

三柱みはしらにはそれぞれの良さがある。……それを過信せず、正しく身につけられれば、カリスマ性を上げられただろう。エイドニア王国の賢妃フランシアのように。

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