743 / 789
最終章
第756話
しおりを挟む「じゃあ、話を戻すね」
旧シメオン国の国民は綺麗な人たちが多かったみたいだ。しかし、美を求める女神たちの影響を受けてしまったため、ただ美しさだけを求めすぎた。それも身の内の美しさより外見の美しさを。
その異常ともいえる美への偏りは、生まれた子の美醜だけでなく、髪や瞳の色がキレイでなければ捨てられたり殺されるようになった。これもすべてジャミーラの影響ではなく、手を出した女神たちの影響にある。
当然だ。ジャミーラを癒やすために興った宗教が、彼女を悲しませる行為などするはずがない。
「愚かにも、信仰を荒らせばジャミーラが現れるとも思ったんだよ」
「でも、出てこなかった?」
フィシスさんの言葉に頷く。
ジャミーラが出てこない。だったら、さらに酷いことをしよう。
まだ出てこない。じゃあ、もっと酷いことを。もっともっと酷いことを。
いつのまにか、旧シメオン国には『美しくなければ国民として認めない』という暗黙の了解がうまれた。さすがに美醜だけで我が子を手にかけられない親も祖父母もいた。そんな人たちが幼な子を連れて国を離れた。離れられない家は……国外の知人を頼ったり大金を積んで託すしかなかった。
その捨てられた子たちが、今のシメオン国の国民の祖だ。
国王以下女神ジャミーラの信徒たちは、ほかの神々からも罰を与えられた。そのひとつがジャミーラの信仰の棄教。しかし、彼らにとって神は『ジャミーラただ一柱』のみだ。
信仰を続けた結果、信仰もジャミーラの名を口にすることも許されず、地の神に旧シメオン国に住み続けることを許されず。国を追われてもなお定住が許されないため、流民として流離うことになった。
そして、移り住む度に先の国民と血を混ぜていった。自分たちはダメでも、せめて子孫が神に許されて定住ができるように。その願いが叶ったのか。混血で血は薄まり、定住が可能になりだしたのが約三百年前。
その頃になって聖女の召喚が行われている国があることを知り、それが『遠き昔に信仰することも名を呼ぶことも許されなくなった女神』を消滅させると考えた彼らは、仲間を募ってエイドニア王国に潜り込んだ。
自分たちを追い出した大陸に、王族の直系の血に。かつて先祖が信仰していた女神を感じ取った。それと時を同じゅうにして、彼らの薄まったはずの血が『過去の信仰の厚さ』を思い出した。思い出したのはそれだけではない。先祖が受けてきた酷い仕打ちもだ。彼らはムルコルスタ大陸の国すべてを滅ぼすために三百年かけて動いた。
「それが、ムルコルスタ大陸で彼らが起こした様々な事件の真相だ。そして、ほかの大陸に新たな信仰を広げた。それが『魅了の女神信仰信者』だ」
「しかし、魅了の女神と美の女神は違うだろう?」
「姉妹神だよ。それにジャミーラの名は表にだせない。だいたい、本当に信仰させるわけではない。『神の名のもとに』を掲げるため。生命をかけることに『選ばれて光栄です』と思わせられればいい。……その洗脳のための芥子だったんだ」
私の説明に、ここにいる全員が大きく息を吐き出した。
「……それで、これからはどうなる?」
「どうなる、というと?」
「すでに女神は消えた。しかし、信仰していた連中が……」
「どうもならない。いま自分で言ったじゃない。『女神は消えた』って。ジャミーラがいないから、薄まった血が再び暴れ出すこともないし、治療院の連中の中で暴れていた血は沈静化する」
実際にシルキーは自らの意思で女神信仰をやめ、女神の加護を自分の手で打ち切った。すでに加護の所持者や長子の死で加護を持つ者も多く失われている。
信仰自体も失われつつある。シルキーたちの支部で発覚した事件と危険物の所持から、各地の支部でも一斉調査が行われた。すでに妖精たちとアラクネによって『公開できない危険物』を回収されていたものの、公開できる危険物自体は残してきたため多数が押収された。危険物が見つからなかった支部も、危険な信仰と指摘されて一斉に棄教した。
今は信仰の大半も加護も、ムルコルスタ大陸に残った信者たちに残されたくらいだろう。
「だいたいさあ。加護って言っても、自身の特技を芥子で強化させただけだし」
ここで強化されたのが魔法ではなかった点が、発見の遅れた大きな要因だ。
魔導具でわかるのは、魔法や生まれもったスキルに手が加えられたりという問題行為があるかどうか。『誰からも好かれる』程度の特技など、個人によって変わるものは魔導具では分からない。
「それに、ジャミーラは美の女神。与えられるのはガミーラの魅了ではなく美の加護。その美しさに惑わされないのがガミールの『男の魅力』」
三柱にはそれぞれの良さがある。……それを過信せず、正しく身につけられれば、カリスマ性を上げられただろう。エイドニア王国の賢妃フランシアのように。
66
お気に入りに追加
8,060
あなたにおすすめの小説

我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★

聖女らしくないと言われ続けたので、国を出ようと思います
菜花
ファンタジー
ある日、スラムに近い孤児院で育ったメリッサは自分が聖女だと知らされる。喜んで王宮に行ったものの、平民出身の聖女は珍しく、また聖女の力が顕現するのも異常に遅れ、メリッサは偽者だという疑惑が蔓延する。しばらくして聖女の力が顕現して周囲も認めてくれたが……。メリッサの心にはわだかまりが残ることになった。カクヨムにも投稿中。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から「破壊神」と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。

【短編】追放された聖女は王都でちゃっかり暮らしてる「新聖女が王子の子を身ごもった?」結界を守るために元聖女たちが立ち上がる
みねバイヤーン
恋愛
「ジョセフィーヌ、聖なる力を失い、新聖女コレットの力を奪おうとした罪で、そなたを辺境の修道院に追放いたす」謁見の間にルーカス第三王子の声が朗々と響き渡る。
「異議あり!」ジョセフィーヌは間髪を入れず意義を唱え、証言を述べる。
「証言一、とある元聖女マデリーン。殿下は十代の聖女しか興味がない。証言二、とある元聖女ノエミ。殿下は背が高く、ほっそりしてるのに出るとこ出てるのが好き。証言三、とある元聖女オードリー。殿下は、手は出さない、見てるだけ」
「ええーい、やめーい。不敬罪で追放」
追放された元聖女ジョセフィーヌはさっさと王都に戻って、魚屋で働いてる。そんな中、聖女コレットがルーカス殿下の子を身ごもったという噂が。王国の結界を守るため、元聖女たちは立ち上がった。
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。

団長サマの幼馴染が聖女の座をよこせというので譲ってあげました
毒島醜女
ファンタジー
※某ちゃんねる風創作
『魔力掲示板』
特定の魔法陣を描けば老若男女、貧富の差関係なくアクセスできる掲示板。ビジネスの情報交換、政治の議論、それだけでなく世間話のようなフランクなものまで存在する。
平民レベルの微力な魔力でも打ち込めるものから、貴族クラスの魔力を有するものしか開けないものから多種多様である。勿論そういった身分に関わらずに交流できる掲示板もある。
今日もまた、掲示板は悲喜こもごもに賑わっていた――

【完結】略奪されるような王子なんていりません! こんな国から出ていきます!
かとるり
恋愛
王子であるグレアムは聖女であるマーガレットと婚約関係にあったが、彼が選んだのはマーガレットの妹のミランダだった。
婚約者に裏切られ、家族からも裏切られたマーガレットは国を見限った。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。