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最終章
第749話
しおりを挟む回復を妨害する何かに気付いたのだろう。
ジャミーラが表情をゆがませると空を睨む。
【カチカチとなる時計 お花がねむるよ 小さなタネになって 生まれる前にもどって お母さんのゆりかごにゆられて しあわせな夢をみるよ】
「なんだ……これ、は」
歌が……優しい子守唄が、まるで世界が歌っているかのように聞こえてきた。それと同時に、悪神に落ちた女神から力が抜け落ちていくのが視認できる。
「歌、だよ。あの日、あなたに救われた妖精たちの」
《 私たちは……死ぬときに泣いた、私たちのせいであなたが苦しんでいるから。あなたも泣いた、自分のせいで私たちが死んでいくから。そのときにあなたが私たちに歌ってくれた子守唄 》
水の妖精がそういうと女神の目から涙がひとすじ流れ落ちた。
ほとんどの妖精たちにはジャミーラを巡って行われた神々の醜い争いの記憶はない。しかし心は覚えていたのだ、女神が繰り返し歌った子守唄を。
【カチカチとなる時計 お花が起きたよ 小さなツボミをひらいて おひさまに手を伸ばして お母さんの優しさを胸に羽をひらいて しあわせな夢を届けにいくよ】
聖女様の廟やお堂の中、仏像を囲んで歌っている妖精たちの祈りが届いているのだ。それがジャミーラの中で今も戦っている女神の心に力を与えている。
「やメろ、ワレは……許さ、ぬ。我らを、おいつめ、た……イッショ、にいた。ガミーラ……ガミーラ。が、みーら……がミ、ル。ど、こ……が、み……るぅぅ」
焦点のあっていない目が私を捉える。するとグワッと目と口を大きく開き、両腕を伸ばして私に向かってこようとする。その両膝にレイモンドがしがみついて離さないため、小さく一歩前に出ただけ。そしてそのまま前に倒れるが両腕は私に向けられたままだ。
「ガエセ! ガミーラの匂いがする! お前の中にいるのかああ!」
「いないよ」
私の言葉に一瞬動きが止まる。その隙にレイモンドの腕はジャミーラの括れた腰にしがみついている。そのおかげか、そのせいか。ジャミーラが身体を起こす。
「その中に隠しておるのだろう?」
「いないよ。この世界に来たときは一緒だった。……でも、ジャミーラがアウミの中に入っていた頃、私の身体から出て行った」
「ドこじゃ? ワれ、の……ガ、ミら。がみィル」
「もう……気付いているのでしょう? ガミーラとガミール、二柱を守り続けたあなたの前から…………もう、いない、理由……を」
「い、ヤ……じゃ」
「もう……この世界では生きられなかった」
「知らぬしらぬ知らヌ……」
信じたくないのだろう。この世界の空気は、長い時間をかけて変わってしまったことを。魔素を含み、神には毒となるその魔素を私の体内で吸い込んだチャミ……ジャミーラの姉妹神ガミーラを弱らせたことを。
ジャミーラはガミーラを助けようとした。でもチャミはそれを強く拒んだ。
「女神として生き続けることを、この世界は認めていない」
その証拠が、この世界の『魔素を含んだ空気にあわない女神の身体』だ。女神として生きられないなら死を受け入れよう。精霊や妖精に生まれるのではなく、有限の寿命を持つ種族のひとりとして。もし可能なら、自身を受け入れてくれたダンジョン都市の新しい生命に。
それを火龍と騰蛇が叶えることにした。
ただ、記憶を持つ精霊はどこかに生まれる。
《 それは仕方がない。ただ、罪を犯した記憶は薄れているだろう 》
それでもひとりぼっちではない。ガミーラことチャミとガミールもまた精霊となり、ジャミーラと共に生きる。
2人、いや神だから2柱か。彼女たちはジャミーラを二度とひとりぼっちにしないために神を下りたのだ。
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