私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル

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最終章

第745話

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風を切る音が、地響きが辺りに轟き、着弾する度に黒い土煙が立ち上がる。その煙を突き切って飛び込んでくるジャミーラ。その一瞬を、ダイバと同調したままの目が反応する。あとは瞬時に武器を繰り出しては互いの武器で火花が起き、一瞬でその場を離脱するとその場で小爆発が連発する。静電気による粉塵爆発。それはグモール国の大地に鉱石が混じっているから。

《 エミリア! 》
《 ダイバッ! 》

位置を確認して後ろに飛んだ私の横をダイバが前に飛び出す。スイッチ攻撃。ダイバがジャミーラと対峙している隙に武器を交換する。ダイバとジャミーラの動きを目で追いながら後ろに投げた武器を誰かが受け取る。交換先はポンタくん。ダンジョン都市シティの鍛治師たちが修理してくれるのだ。修理の終わった武器はポンタくんが微調整してから私に直接送ってくれるため、自分のアイテムボックスから武器を取り出して装備していくだけで済んでいる。それはダイバも同様で、管理部の仲間たち経由で届けてもらっている。

《 ダイバ! 》
《 分かった! 》

声の位置からダイバを確認して前へと飛び出す。その前に、獣化している白虎がジャミーラに体当たりして注意をそらしてくれた。白虎の背にのるピピンとリリンが、白虎のフォローと防御を繰り広げている。

私たちが繰り出すスイッチ攻撃にジャミーラは翻弄されている。集中力が必要な呪文を用いる大きな魔法攻撃が使えないのだ。火球などの小さな魔法は繰り出されるものの、それらは目隠しなどの攻撃補助となっている。

私とダイバの攻撃は短期集中型……ではない。

ただ細かいキズでさえ回復するのに魔力を使う。失った魔力を回復させるためにグモール国の大地から奪ったであろう魔力は、ジャミーラの本来もっていた魔力の1割も回復していない。その前に妖精たちがグモール国から撤退していたからだ。

さらに一時的とはいえピピンの支配下におかれた神たちが、ジャミーラがグモール国に入った時点で国境を封鎖した。国境を越えてグモール国に入ることができても、グモール国から出ることはできない。国境の封鎖が解除されるのは、ジャミーラにお尻ペンペンができてからだ。

すずめの涙どころかミジンコの重さ8μg(μg=マイクログラム。1μg=100万分の1グラム)も減らせたかどうか。それでも削っていくしか手はない。

唯一、魔力が減りつつある理由、それはジャミーラが手にする魔剣。魔力でかたどった剣は、その形を維持するために魔力を必要としている。媒体がないため、手を離せば魔剣は霧散する。その魔力はジャミーラに戻っていかず、空気に混じって消えていく。

それに気付いたピピンから、同調している風の妖精ふうちゃん経由で私とダイバに伝えられた。

その肉体は武器の使用が許されない罪人。たとえジャミーラに似せた身体に改造しても、その身体もとが負った罰は変わらない。
さらに神は魔素を取り込めない。それは神々から分離して誕生した妖精たちもだから。そしてピピンに精神を支配されている神々からの証言もある。

そのため、自然界の魔力を奪って自分のものにすることで魔力を補っている。ジャミーラのように自然界の魔力を奪うことをしなければ……チャミのように弱って死んでいく。チャミや男神たちがアゴールの胎内に宿ったのは、火龍が農園で働く妖精たちに栽培させていた『フルーツガーリック』の効果おかげだ。

それを知ったアゴールから「火龍……潰す」と宣言されて青ざめたけど、それは自業自得だ。


そろそろ次の攻撃に入ろうと考え、ダイバと交代するためバックステップでジャミーラから距離をとった瞬間だった。

「エミリア!」

意思を持ってとんできた光球が無数の小さな光球に分かれて襲ってきた。私を突き飛ばしたその男は、私の身代わりに全身に光球を受けて……傷が塞がっていく。

「なんで……」
「貴様!」

みんなの驚きは私を庇った男、レイモンドに。殺気を含んだ声が、ゆがんだ笑みを浮かべるジャミーラに向けられる。

「俺はここで死なせるために召喚したんじゃない!」

光球のひとつが左ふくらはぎを貫通した私の足に、いやしの水が大量にぶちまけられた。慌てたピピンが必要量を間違えたのだろう。はねた水が私の口に入り、迫り上がっていた血の味が胃に戻されて体力を回復させる。すぐに立ち上がると地の妖精ちぃちゃん水の妖精みぃちゃんがいやしの水を回収して大地を乾燥させる。少しでも、ジャミーラが回復する要素を減らすためだ。

ダイバと白虎+リリン&光の妖精アイちゃん が、ジャミーラの注意がこちらに向いた一瞬の隙をついて攻撃した。背後から音もなく駆け寄った白虎の爪が何十本目かの魔剣を持つ右手首を切断し、ダイバの剣がジャミーラの左腕を斬り落とす。ジャミーラの背からリリンの触手ツタがダイバを絡めて、立ち上がった私の隣に放り出した。白虎は私の前に横向きになって壁になろうと踏ん張ってジャミーラを睨んでいる。

ジャミーラの両腕から流れ落ちているのは血ではなく魔力。これまで流され続けた血は、ジャミーラが乗っ取った肉体に一滴も残されていないのだろう。 やっと、あの肉体という名のヨロイが、ジャミーラを閉じ込めるだけの檻になった証拠だ。


ここからがジャミーラ本人との勝負となる。
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