私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル

文字の大きさ
上 下
731 / 789
最終章

第744話

しおりを挟む

ジャミーラの言葉に跪いて後悔したのは2人。私の声にわれを取り戻し立ち上がったのは…………レイモンド、ただひとり。
エルフレッドはピクリとも動かない。……それが何を意味するのか。ジャミーラが肉体うつわの権限を握ったということにほかならない。

「お喋りしすぎたと思ったけど……フフフ。肉体からだが手に入ったわ。それも不死身の身体が」
「感動しているところを悪いけどな。父上の顔で女の声で喋るな。気持ちワリい」

悪態をついたのは、肉体それの正当な所有者の息子であるレイモンド。私たち第三者が気持ち悪いと思うのに、この場で唯一の身内であるレイモンドが受け入れられるはずがない。

「あら。お父様に『ごめんなさい』しなくてもいいの?」
「俺は父上のように他国に迷惑をかけてはいない」

そう、レイモンドはエイドニア王国に。特に召喚された私とあの子に迷惑をかけただけ。
それに対してエルフレッドは、息子レイモンドの教育を放棄して次の国王になるルナンバルトには厳しい教育を受けさせた。それを途中で放棄せざるを得ない状況にまで追い詰められたのは、王妃がルナンバルトの婚約者に据えた賢妃。名をフランシア、当時7歳。

初対面のキッカさんに『護衛失格』の烙印を押したのち、教育係には「教えていることが古すぎる! だからほかの国に何歩も遅れをとっているのよ!」と、自身の家庭教師を連れてきて一緒に勉強を。それが世界に目を向けるキッカケになった、とルヴィアンカとの会談で話していたらしい。

「お前は私とあの子、そしていまの国王おまえの兄に謝罪すればいい。ほかの奴には直接迷惑はかかっていない」

チラリと目だけ向ける。思いっきり驚いた表情を見せていたけどね。

「貴族はそれまでの悪い態度を注意されて立場を失っただけ。文句があっても、貴族脳で凝り固まった自分やそれを押し付けた親を恨めばいい」

そう唾棄した私にレイモンドは表情を固くしたけど、スッと覚悟を決めた表情で頷いた。
レイモンドには「私に謝罪する気があるなら私たちの盾になれ‼︎」と事前に命じてある。それを実行するかどうかはレイモンド次第だ。

「まあ、父親を見捨てるの? ひどい息子ね」
「なんとでもいえ。俺は実の息子より、自分の血を一滴も継いでいない『王妃の血脈だけを継いだ王太子』を我が子のように思い込んでいた無能なぞすでに見限った」

《 その王太子に嫉妬し、無能な父親に振り向いて欲しいと違法召喚までした愚か者のくせに 》
《 エミリア。それを口にするなよ 》

ダイバと念話をさせるために、騰蛇と火龍が私たちに同調術をかけさせた。それは確かに功を奏している。私のツッコミや愚痴をダイバが全部引き受けてくれる。聖魔以外の妖精たちと私は同調しない。そのため、妖精たちとは主に会話だ。

その妖精たちはエイドニア王国に残してきた。グモール国の外までついてきて、事情を知らずに避難していなかった妖精たちをエイドニア王国まで連れていくように指示もしてある。グモール国の隣にあるシメオン国は、人々は廃国へ。精霊たちは自分たちの領域エリアに入って外界と遮断し、エルフ族は……

《 ミリィさんをイジメようとした連中なんて、前線でミリィさんの盾になればいいんだわ! 》
《 なんて言い出したから、ハイルたちが出てきただろう? 》

そうなのだ。ハイルにはこの戦いに出陣を決めたミリィさんを守る盾になるように命じた。それで残っている借金の返済にあてさせることにしたのだ。

「頑張って完済しないと、私と一緒に人生終わるよ~」
「……自分はいいのか?」

ハイルの質問に私は笑顔を返しただけだ。
死ぬ気はない。しかし、女神ジャミーラの頬を引っ叩くかお尻ペンペンする正当な理由を持っているのも私以外にはいない。

《 お尻ペンペンは前提か? 》
《 もちろん、そうだよ 》

そう簡単にお尻を差し出してくれるわけがない。だから、その前に教育的指導をフルボッコにしなくてはならない。

それは私とダイバ、聖魔たちが引き受ける。

みんなには「死なない程度に頑張れ」と伝えている。この場にネージュはいない。彼は一瞬でも無意識に私を守ろうとしてしまう。……だから置いてきた。

「まずは自分を優先しろ。自分が倒れたら、守りたかった相手の身が危険に晒される。自分が生き残ること。それを優先して、はじめて相手を守ることができるんだ」

何度そう言っても……ダメだったのだ。

「お前がエミリアの前で傷つき、ましてや倒れてみろ! エミリアの集中力が途切れることになるんだぞ! それでエミリアが傷ついてみろ。その時点でエミリアだけじゃない、世界の敗北が決定するんだ」

分かっていても、目の前で私が攻撃を受けただけで一瞬でも反応してしまう。それが次の攻撃をまともに受けてしまう原因になった。
いまこの場にいるのは、騰蛇と火龍によって行なわれた模擬戦で参加許可が下りた人たちだけだ。

「私が……私たちが倒れたあと、頼むわね」

彼らのために、私たちは半分以上の体力と生命力をナナシから……ジャミーラから奪わなくてはならない。

「忘れないで。ナナシは女神なのだということを」

通常の魔物討伐ではない。戦争の前線ではない。

むかし、我が子たちを殺されて愛する黒龍おっとと引き離された銀龍。彼女をしずめるために立ち上がった、黒龍と勇気ある者たち=勇者。

私たちは、その歴史を繰り返そうとしている。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

聖女らしくないと言われ続けたので、国を出ようと思います

菜花
ファンタジー
 ある日、スラムに近い孤児院で育ったメリッサは自分が聖女だと知らされる。喜んで王宮に行ったものの、平民出身の聖女は珍しく、また聖女の力が顕現するのも異常に遅れ、メリッサは偽者だという疑惑が蔓延する。しばらくして聖女の力が顕現して周囲も認めてくれたが……。メリッサの心にはわだかまりが残ることになった。カクヨムにも投稿中。

【短編】追放された聖女は王都でちゃっかり暮らしてる「新聖女が王子の子を身ごもった?」結界を守るために元聖女たちが立ち上がる

みねバイヤーン
恋愛
「ジョセフィーヌ、聖なる力を失い、新聖女コレットの力を奪おうとした罪で、そなたを辺境の修道院に追放いたす」謁見の間にルーカス第三王子の声が朗々と響き渡る。 「異議あり!」ジョセフィーヌは間髪を入れず意義を唱え、証言を述べる。 「証言一、とある元聖女マデリーン。殿下は十代の聖女しか興味がない。証言二、とある元聖女ノエミ。殿下は背が高く、ほっそりしてるのに出るとこ出てるのが好き。証言三、とある元聖女オードリー。殿下は、手は出さない、見てるだけ」 「ええーい、やめーい。不敬罪で追放」 追放された元聖女ジョセフィーヌはさっさと王都に戻って、魚屋で働いてる。そんな中、聖女コレットがルーカス殿下の子を身ごもったという噂が。王国の結界を守るため、元聖女たちは立ち上がった。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~

白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。 王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。 彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。 #表紙絵は、もふ様に描いていただきました。 #エブリスタにて連載しました。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から「破壊神」と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。