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最終章
第743話
しおりを挟む「ジャミーラ。あんたは何がしたかったの?」
彼女の中に存在するという『女神の心』。その心がまだ残っているなら応える。それに賭けてみた。
《 みえたか? 》
《 うん、みえた。ちょっとだけだったけど 》
私に「ジャミーラ」と呼びかけられて一瞬、本当に一瞬だけ。左右に1ミリ、影が揺らめいた。その1ミリは上に向かうに従って左右の揺れ幅が少しずつ広がっていく。そして先端は心の焔のように小刻みに揺れる。
その心はナナシだったのか、ジャミーラだったのか。
「聖女とは……我を倒す唯一のチカラを持つ異界の者。そのチカラを封じるため、我は各国の王族の血脈に入り、召喚される聖女たちを死に追いやってきた。しかし、我の意識に歯向かい、聖女を召喚する者もいた。中には王太子に聖女の召喚を代行させる王もいた。死から逃れた忌々しい聖女もいる…………ソイツのように」
私に目を向ける顔は憎々しげだ。そりゃあ、そうだろう。自身を殺すかもしれない相手に友好な態度を取れるはずがない。
「だったら、なんで私を召喚させた?」
ナナシの中に残った女神ジャミーラの意志が、聖女召喚の際に私を巻き込んだという。それはチャミだけでなく、火龍と騰蛇も証言している。私が城から追放されたのも、ナナシの妨害のひとつだと思われる。
それを指摘すれば、ナナシは我が物顔で自慢すると思われていた。
「自尊の念が強い」
私たちはそう判断していた。美意識が高く、「私が一番!」という考え方をもつと。
それを火龍と騰蛇は否定した。妖精たちも《 ちがう 》という。水の妖精のように、女神ジャミーラを直接知っている子たちもいたのだ。
「なんで水の妖精が知ってるの?」
《 その時代に生きていたから? 》
その昔、妖精たちの大半が『妖精のたまご』に入って何百年もの眠りについた渾沌の時代があったらしい。当時の記憶は遠い過去にあり、『妖精のたまご』に入って深い眠りについた妖精たちで当時のことを覚えているのは数少ないらしい。
《 その渾沌の時代で…………心が壊れたのかも 》
水の妖精たち、当時のことを覚えている子たちはナナシが……いや、女神ジャミーラは《 神の中でも心優しい女神のひとりだった 》と証言している。その優しさが、いまの妖精たちに繋がっているのだ。
ジャミーラの口角が上がり、にまぁと不気味な笑顔になる。その視線は私から5メートル離れた場所に立つレイモンドに向けられていた。
「お前には感謝している。ソイツから聖女の称号を奪ってくれた。おかげで、ソイツから我を倒すチカラが完全に消えた。そして、ソイツと一緒に召喚した聖女は、我を倒せる聖女が二度と召喚できぬように神に祈って死んだ。…………フフフフフフ。イヒヒヒヒヒ。ヒャハハハハハハハハハハハハハ! これで我を倒せる聖女は二度と現れぬ! そう! この世界はすでに我のものだぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ヒステリックの中に勝ち誇ったような笑いをあげるジャミーラ。それと対照的に、レイモンドはようやく自らがどれだけ深い罪を犯していたのか気付いたようだった。
「私は……私は……なんて……こと、を…………」
地面に膝をついて両手で顔を覆う。
ここで後悔に苛まれることは得策ではない。ここは戦場であり、ここは前線であり……目の前で私たちの人生に立ちふさがって未来を封じようとしているのは……
「後悔している暇などない! 後悔したけりゃ立ち上がれ!」
私の声にレイモンドが顔をあげる。
「後悔出来るのは生きているからだ! 後悔も反省も、生きてりゃいくらでも出来る!」
私の檄にレイモンドの表情が引き締まる。
「ああ。これからいくらでも後悔してやる! 俺は親父と違う!」
立ち上がったレイモンドが一歩ずつ前へと、元父親エルフレッドに抵抗なく近づいていく。
それが何を意味するのか。不死人の仕組みを知っている人たちの表情が険しくなり、手にした武器を構えなおした。
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