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最終章
第742話
しおりを挟む「我に勝てると思うておるのか?」
自身ありげに胸を張って立つ男……?
まぼろしか? 透けた女性が男の肉体を覆って現れている。ギリシャ神話風の衣装? あの薄衣を重ねた姿が朧げにみえている。覆って見えるのは、たぶん身長差だろう。
「勝つとか勝たないとかじゃないよ」
「ほう……では何故この私の前に現れた?」
……あれ? 一人称が我と私?
《 エミリア。あの女の後ろにもう一人見えないか? 》
火龍の指示でダイバとは同調術をかけているため、念話で話しかけられた。言われた通りにジィィィッと目の前の男を見、その男を覆う透明な……たぶんナナシ。その後ろ……?
《 エミリアから見て左側 》
《 ……みえん 》
《 じゃあ、俺の目と同調しろ 》
ダイバに言われたとおり、目に強く同調をかける。
「……あっ!」
思わず漏れた声に、慌てて口を押さえる。
私だけが前に出ているわけではない。右隣にダイバ、左にピピン。私がダイバと念話を始めたと同時に、ナナシへの口撃はピピンが交代してくれている。しかし、私の声に、ナナシの声が途切れた。
ピピンが聞いたのだ、「おまえは何の理由があって、大地を海に沈めたのか」と。その答えは「大陸全体に我を拒絶する魔導具が張り巡らせられていた」からだという。それを詳しく話すナナシの声を、私は遮ったのだ。
スウウッと息を吸ってからナナシを正面から見つめる。
「その後ろ。まるで背後霊みたいに隠れているのが……本当のナナシ、だね」
ナナシに向けて指をさしたら「ダメでしょ、人を指さしたら」って、ピピンの後ろにいたリリンに左腕を下されてしまった。それでも、その一瞬で全員の視線が後ろに隠れている存在に向けられた。
気づかれたと理解したのか、隠れていたナナシが使っていた【隠形】を解除したようで姿をあらわした。
「ほう。我の存在に気付いたか。さすがは聖女」
「あっ、私じゃなくてダイバが」
そう言って、右側に向けて手を上皿のようにして示す。
「あ、俺ではなくシーズルが」
そう言って、今度はダイバが右側の人物を示す。
「俺ではなく、後ろのメイリが」
そこで最後だった。つまり、メイリが生まれもったスキル【鷹の目】が、指摘されてそこを集中して見ないと分からないナナシの存在に気づいたのだ。
「私ひとりじゃない。みんなで補い、助け合って、ここに立っている」
「下等なものどもが群れおって」
唾棄された言葉に怒りが含まれている。そのわずかな含みに隠れて、悲しみが垣間見られた。
「ジャミーラ。あなたの名前は、ジャミーラよね」
「…………どこで、その名を知ったぁぁぁ‼︎ なぜ、我が名を口にできる‼︎‼︎ 我でさえ二度と名乗れぬその名を……!」
「私はこの世界の人間ではないから」
『地雷を踏んだ』とでもいうのか。目上の相手だから『逆鱗に触れた』というのか?
目で見える範囲が邪悪な気配で覆われていった。
《 うっとーしい! 》
光の妖精が周囲の邪気を祓い、暗の妖精が闇を祓う。
《 暗いのが悪いんだよ! 》
風の妖精が天に手を伸ばすと、上空を覆っていた雲を払い、陽が差し込む。
妖精たちがグモールの王都を覆う陰陽を燮理した。まさか、妖精たちに調和されるとは思わなかったのだろう。ナナシの形相が一変した。
……これを『闇堕ち』というのだろう。
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