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最終章
第739話
しおりを挟む「エミリアさん。……気付いているんですよね?」
ちょっと困った表情で私の前に立つのはポンタくん。妖精たちに好かれているのか、頭や肩に妖精たちをのせている。
「うん。……ダンジョン都市にもドワーフ族はいたから」
「ポンタ? それにエミリアちゃんも。何を言っているの?」
エリーさんの言葉にポンタくんは笑顔のまま黙って頷く。話してもいい、ということだろう。
「ポンタくんは神様の一人だよ。人に近い神で、私のいた世界では『付喪神』と呼ばれている。誰かに大切にされて引き継がれてきた物が、百年の時をかけて生命が宿ったもののこと」
「この世界では付喪神を一人も見たことがありません」
「仕方がないよ。どんなに長く引き継がれてきても、そこには大切にという肝心な部分が欠けているから」
誰もが黙ってポンタくんを見ている。ポンタくんがドワーフ族ではないことに驚いているのか。神に連なる存在だと知って声が出せないのか。
「ポンタくんは……過去の聖女が持っていた物、だよね」
「それが何か、にも気付いていますね?」
「うん。…………信楽焼のぽんぽこタヌキ」
私の言葉にポンタくんは「さすが、エミリアさんですね」と笑う。
「俺の最初の持ち主は聖女の祖父でした。正確にはその祖父が子供の頃に作った手のひらにのるくらいの小さな信楽焼のタヌキです。信楽焼の窯元の家だったため、父親が作るタヌキをマネて作った、小さなタヌキが俺だ」
それが彼女に譲られた。貧しい家だったから人形代わりだったらしい。
「……そして、この世界に召喚されるときに抱きしめられていた俺までこの世界にきた。聖女とされた彼女は部屋に引きこもり、いつも俺をそばに置いて話しかけては『帰りたい』と泣いていた。まだ八歳の少女だった。彼女はそれから四十年後に亡くなった。俺が誕生してすでに百年経っていて、生命を宿していた俺にあの子は言った。『私みたいに聖女として連れてこられる子たちを支えてあげて』と。エミリア、俺はエミリアの支えになれているか?」
「もちろん。エアとして初めてあったときからエミリアとして助けを求めたときも。これまでも、そしてこれからもお願いね」
「神扱いの酷い聖女だな」
そう言って豪快に笑うポンタくん。
「まあ、俺が生きられるのもあと二百年もない。どうせエミリアで聖女は最後なんだ。最期まで付き合ってやるか」
「うん、最期まで付き合ってね」
付喪神は生命を宿した物の寿命による。器が壊れれば付喪神は死を迎える。陶器製で、商品として正しい手順で作られていないポンタくんだ。ほかの陶器から生まれた付喪神より短命になるのも仕方がないだろう。そして【状態回復】を掛けても、それはポンタくんが魂を持つ前、『聖女の祖父が作った直後』に戻るだけでポンタくんが死を迎えることに変わりはない。
「じゃあ、気をつけていってこい」
しんみりした空気をかえるようなポンタくんの激励に笑顔になる。……今から世界が滅ぶかもしれない戦闘に行くというのに、まるでダンジョンに潜りに行くような。下手したら市場までおつかいにいく幼な子に向けて気軽に声を掛けたように。日常生活とかわらない声。
「パパさんにパーティー用の料理を頼んどいてね。……ミリィさんの『善哉の食べ比べ』も、アルマンさんの『安倍川もち』も、ユージンさんの『海鮮丼』も、マーレンくんの『ナポリタンと牛乳』は……大人になったから好みはかわってるかな? 親だから知ってるよね」
「ああ、わかった。ダンジョン都市の連中にも、打ち上げの準備をするように伝えとく」
必ずみんなで帰る。言外にそう誓った私に頷くポンタくん。私たちが負ければ二度と明るい未来はこない。パーティーなんてできないのだ。
だから「勝って帰ることを信じてみんなで待っている」と返してくれたのだ。
「いくぞ、エミリア」
「はーい」
ダイバの言葉に返事をして振り返ると、ガシッと頭を掴まれた。
「帰ったらアゴールから家出の説教が待っているから覚えとけ」
「えー! やだー! 都合よく忘れてあげるから。ダイバ、代わりに叱られてー」
「アホかー! 俺だってイヤだわ!」
「じゃあ、計画立てたシーズルに任せる!!」
私とダイバのやりとりに周囲から笑いが広がった。
妊婦のアゴールは待機組だ。何を言っても「一緒に行く!」と言って聞かないため、アゴールを置いて出てきた。
仕方がない。だって魅了の女神を辞めたチャミは、いまアゴールのお腹の中にいる。
「うまれなおす、んだって」
女神ではなく竜人のひとりに。女神という存在を受け入れてくれた一族の家族になりたい。フィムの通訳にアゴールは……チャミを受け入れた。
「もうエミリアは大丈夫よ。二度と独りぼっちにはしないから」
お腹をさすりながらチャミに約束する。チャミは産まれるその日まで記憶を残し、誕生と共に記憶をもった聖霊がどこかに生まれるらしい。
チャミと同じく、神からおりた二柱と共に三つ子として。
「もう、二人とも。今からエミリアちゃん曰く『悪い女神様にお仕置き』に命懸けで向かうとは思えないわ」
「シェリア、これがダンジョン都市では通常始動なんだ」
後衛のシェリアさんとエリーさんの会話も、最終決戦に向かう直前の会話には聞こえません。
笑いに誰もが決意を込めている……「みんなのこの笑顔を失わせない」と。
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