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最終章
第738話
しおりを挟むハイエル国から始まった廃国への避難はエイドニア王国で殿を務める。受け入れる側は、ハイエル国に身内がいるアルマンさんがリーダーとなり、ダンジョン都市の管理部が対応する。
私はエイドニア王国の人たちと顔を合わせていた。正確には再会? でも、やはりというか……なにも思い出せることはなかった。
それでも、宿屋のママさんは私を抱きしめてくれた。夢の中では幼いユーシスくんが青年に成長していて混乱したけど……私を「お姉ちゃん」と呼んでくれる優しい声はかわらなかった。パパさんも、あいかわらず口下手なようだけど、私の姿をみて目を細めた。
「どうやら間に合ったみたいね」
リハビリで動けるようにはなったけど、前衛には出られそうにないエリーさん。
「魔法は使えるから後衛から援護するわよ」
「アラクネの金糸は解かないで」
「ええ、わかっているわ」
エリーさんの生命を繋ぎ止めた『アラクネの金糸』を私たちは両手両足首につけている。それと同じものを、連れていくことのできない鉱山で働く罪人や労働者全員にもつけさせた。
「罪人だからといって、生命を軽視していいはずがない」
そう言った私に向かって土下座した青年がいた。横にいたネージュの話では、彼が『コカトリスのたまご事件』の少年だった。何も言わず、ただただ土下座をしている青年は、謝罪が無意味であることを理解し、罪深き犯罪者である自分たちをも見捨てないことに深く感謝しているらしい。
「会いますか?」
ネージュの言葉に首を振って拒否の意思を示す。ひとりを許したら、私に絡んで罪を償っている人全員に会わなくてはならなくなる。メルリの家族のように、巻き込まれて罪を償った両親に恨まれていてもおかしくはない。
「それはないでしょう。罰を『両親は1年間の給与を冒険者ギルドに全額渡す』だけで済ましたのですから」
「じゃあ。ガータンの片棒を担いだ宿屋の女将と、娼館で罪を償う羽目になった娘たちと、巻き込まれて職を失った息子は?」
「4人の娘たちのうち3人は母親と共に娼館で客をとっていました。すでに奴隷から解放されています。43年の労働奴隷でしたが、解放後に母親と娘2人がナナシの襲撃で。生き残った娘のひとりは専有客がついていたことで、解放後にその人と祝言を。末娘は独立してお針子を続けていますし、息子も娼館の調理人を続けています」
ガータン自体はグモール国の鉱山に送られて、コカトリスのたまご事件で表沙汰になった人身売買の罪を暴かれた連中と同じ、一番重い強制労働者として休みなく働いているそうだ。
「1日10時間の強制労働。労働時間内は休憩なし」
最奥で働いているため、休憩するには坑道から出てくる必要がある。
「そんなヒマがあったら働けぇぇぇぇ」
庁舎内のどこかに所属する妖精たちが、罰を受ける職員にそう言っていたのを聞いたぞ?
「どこの世界でも、罰を受ける人は管理者に似たセリフを言われるのですね」
そう澄まして言い放つピピン。いやいや、妖精たちのお手本は……
「エミリアですよね?」
「ピピンでしょ」
互いに責任を押し付けあっていたら、ネージュが楽しそうに微笑んで見守っていた。
ん? どっちのせいになったか?
「「シーズルのせい」」
あの口の悪さはダイバではないからね。
「家族が罪を犯したことで町から出ていくしかなかった人たちは?」
「職人ギルド所属で横領した機織り職人ですか?」
「あと……権利の神とか恋愛の神など、複数の神にケンカを売った……喫茶店の……えっとー?」
「ああ。エミリアの、当時はエア名義ですね。レシピの使用を禁止されて、故郷に帰りました。自分で田畑を耕して自立していましたが……村が魔物の襲撃にあい、そのときに亡くなっています」
猪突猛進のスキルをもつイノシシの集団に突撃されたことで、村の結界が壊れたそうだ。
「魔物の集団襲撃?」
「イノシシは集団行動ですから。とはいえ集団襲撃の場合、魔物は一種類ではありません。ウサギやネズミ、イノシシと続いてオオカミ。そして凶悪な魔物、ドラゴンやコカトリスが出てきます」
「はあ~い。コッコは?」
小学生みたいに手をあげてネージュに質問するとクククッと笑いを堪えていない笑いがもれた。途端にプクッと頬を膨らませると「ごめん、ごめん」と、これまたぜんぜん悪いと思っていなさそうな声で謝罪される。
「魔法剣士だったエミリアは、コッコもコカトリスも一撃で倒していたんですよ。それもコカトリスはツノつきだったため、将軍かロードのようです。エミリアには『大した相手ではない』でしょうね。さらにコッコを飼いならそうと考えていましたよ」
「毎日新鮮なたまごで美味しい朝ごはん」
「そんなことを言ってましたよ、前も」
記憶があろうとなくとも魂は変わらないため、思考自体は変化がないようです。
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