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最終章
第736話
しおりを挟む「場所は判明したな」
とうとうナナシたちが潜んでいる場所が判明した。前国王エルフレッドの故郷であるグモール国にいたのだ。レイモンド曰く「グモール国内を移動している」らしい。
「思いつく理由は?」
「ナナシの魔力が封じられていた、超巨大な水晶」
現在は騰蛇の管理にて、大陸再生に使われている。ちなみに鉱山国家で地の祝福からか、豊富な栄養素を得てきた国は、ゆるりとその姿を変えているらしい。
「普通に考えれば、『鉱山で繁栄していて緑の富んだ国』って変だよね」
《 地の祝福は鉱石に向かうからねー 》
「やっぱり、あの水晶が原因か?」
「そうじゃない? 水晶を失ってから、大地が枯れてきたらしいから」
ナナシはその水晶を手に入れるためにエルフレッドを使っている。
運がいいのか悪いのか分からないけど、鉱山は罪人の逃亡を防ぐための魔道具を設置しているだけで、入ってくる者を追い出す魔導具はつけられていない。鉱山にとって罪人は労働力なのだ。
かつて、エイドニア王国で私に絡んで鉱山に送られた罪人たちの一部もこの国に送られている。エイドニア王国自体にも鉱山はあるものの数が少ないため、長期間の労働を科せられた罪人はこの国に送られる。
「あの『オレ様冒険者』の坊やは?」
「ああ、彼は国内ですよ。今はただの労働者になっています」
少しずつ「こんなこと、夢で見たんだけど」と話しては、彼に抜けていることや事の顛末を教えてもらっていた。記憶の答え合わせ、というのだろうか。ほとんどは、私がムルコルスタ大陸から離れてからのことが多い。エイドニア王国以外の情勢を、集めてまとめて精査して最終報告がでたものを教えてくれているようだ。
いま聞いているのは、『コカトリスのたまご事件』の少年のことだ。すでに奴隷から解放されて一般人になったけど、幼かった自身の言動を反省して鉱山で働く労働者として残っているらしい。
「罰とかは?」
「少年男娼は、体力がつくまでの期間限定ですからね。鶴嘴を持つ筋力がなく、トロッコを押す体力も半日あるかないか。その不足する労働時間の代わりが男娼なんですよ」
もちろん1日の人数制限はあり、時間も三時間と限られている。翌日の労働に支障を来たしては、罰の意味がない。
「元々、コカトリスのたまごを手に入れたことで、同行した少年少女たちを危険にさらしたという罰ですから」
「うー。たしか人身売買がどうとかあったよね?」
「あれは大人たちの罪です。彼が捕まったことで明るみになっただけで、彼はそれに関わっていませんよ」
子どもの罪を親も罰を受けるけど、親の罪を子どもが負うことは少ない。彼も同じだったようだ。だからと言って、一般人として生きていくことを選ばなかった。
「労働で得たお金のほとんどは、人身売買の被害者救済を目的として設立された組織に寄付しています」
日々の最低限の生活費だけを使い、娯楽や嗜好品にも手を出していないそうだ。そこまで自身を律するなら修道士にでもなればいいと思ったけど、
「修道院は最低限の生活が守られた組織ですからね。鉱山のように危険と隣り合わせではないのですよ」
そして、鉱山で働く方が断然稼ぎがいい。
「修道院で守られながら神に『反省してまーす』と口先でだけで手を合わせて、誰かの寄付で衣食住を賄ってもらうより、汗水流して稼いだお金を寄付として送る方が反省の度合いが違うよね」
そう結論を出した私にネージュは苦笑していた。
そんな元少年の両親や一族が、グモール国内の鉱山で罪を償っているらしい。
「連中は前国王の顔を知っているはず。だけど……退位したこと、そして不死人になっていることを知ってると思う?」
「…………知らないか、聞いたけど忘れているか。そのどちらかでしょう」
「聞いたけど、目の前に現れたことで『あれは誤報だった』と都合よく思うか」
ネージュが一瞬の表情筋の痙攣を起こした後に青ざめる。「ありえない」などと口にできない。もしも前国王に「ついてこい」などと言われたら、自分たちを救いに来た勇者と勘違いしかねない。
「いや、するだろ? 現場から救ってくれると思ったら」
この仮説をダイバに話したところ、そう結論を出した。
「グモール国に妖精たちはいるか?」
「以前に王子だかなんだかが暴言を放って以降、妖精たちはグモールをから離れてる」
妖精たちが見捨てたところで、あそこの大陸は神々が手を出し、足を出し、口まで挟んでいる。
「神にとって遊戯盤なんだよ、ムルコルスタ大陸とそこで生きる彼らは、さ」
だから、異世界からの召喚を許し、思い通りにならない旧シメオン国の国民を流民にした。
《 だから許せないんだよっ! エミリアやほかの聖女たちが人生を狂わされてもっ! 「面白そう」ってだけで今まで放置してきたんだから‼︎ 》
「聖女をこれ以上増やすな、という生命をかけたあの子の願いを叶えたことで聖女の召喚はなくなったけどね。この世界にはさ、召喚獣という存在がある。……私たち聖女も、その召喚獣扱いだったのかな。だったらさ、用が済んだら日本に返してほしかった。召喚獣たちのように扱うんだったらさ……私たちを、死んだみんなを元の世界に帰せよ‼︎‼︎」
チッッックショォォォォォ‼︎‼︎‼︎
そう怒鳴った私を、妖精たちが泣きながら抱きしめる。その涙が私の高ぶった感情を、あふれ出した涙と悲しみを癒してくれる。妖精たちが謝る声と泣き声しか聞こえない。
高ぶった感情が落ち着いていくと、そのまま目蓋が閉じていく。意識を手放す前にラベンダーの香りがした。…………たぶん、リリンだ。
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