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最終章
第732話
しおりを挟む冒険者の成り立ちは不明。
昔は『何でも屋』という旗を掲げた旅人がいて、魔物(単体)の駆除などを請け負っていたらしい。彼らが泊まる宿屋が依頼を預かるようになり、仲介業のようなことを始めた。その仲介業が独立して、いまの冒険者ギルドに発展していったようだ。
「そのうち、数人で集まって困難な依頼を受けるようになったようだな」
それがパーティの始まり。
「昔は、商人と冒険者は一緒だったみたいだね」
冒険者の小遣い稼ぎが物流や流通を生み出し、本格的に商品を運ぶようになった人たちがつくった組織が『商人ギルド』となった。
「当時はどこでどんな商品が求められてて、どこで何を生産しているかという情報を扱っていたようだ」
「こうして調べてみると、ここにある『何でも屋』は流民が生きていくためにはじめた。そう考えると色々と納得できることが多い」
冒険者という業種が特殊な立場なのも、昔の冒険者が一処に留まらないのも。言い換えれば、流民と同じなのだ。
「いまは『どこどこの所属』っていうように、定住する冒険者がほとんどだけど……」
それでも定住しない冒険者や行商人も存在している。
「旧シメオン国の流民たちが町や村に留まれるのは最長1年、だっけ?」
「半年過ぎたあたりから、周囲の目が気になりだすみたいだな」
アルマンさんが手にしていた本に目を向けて答える。
《 アルマン。気になるー? 》
「……いいや、気にならない」
アルマンさんの近くにいた妖精たちが、一斉にアルマンさんを《 じぃぃぃぃぃー 》っと見つめた。それにアルマンさんが苦笑して近くにいた妖精の頭を撫でる。
《 アルマン。旧シメオン国の血は消えたー? 》
《 きっと消えたよー 》
《 気にならないって 》
《 いっぱい見ても気にならないってー 》
《 よかったねー 》
《 うん、よかったねー 》
妖精たちは妖精たちなりに、アルマンさんを心配していたようだ。
「アルマンは何年もここに住んでるだろーが」
ダイバのツッコミに、妖精たちが《 あっ、そっかー 》と声をそろえる。
「心配してくれたんだよな?」
「そうね。アルマンが自分とナナシの関係を話してからずっと落ち込んでるから、みんなが慰めようとしたのよ」
コルデさんとミリィさんがアルマンさんが精神的に落ち込んでいることを指摘する。アルマンさんは自覚していなかったようで驚いていたけど、妖精たちの視線を受けて自分が落ち込んでいたことを自覚したようだ。
天井を見上げて大きく息を吐き出すと、ゆっくりと顔を下げる。その表情に、それまでの落ち込んでいるような様子は見られない。
顔を上げている間にアルマンさんを心配して集まってきた妖精たちが、彼の袖や服を小さな手で握りしめる。中には両手でしがみついている。まるで、手を離したらいなくなると思っているようだ。
「ありがとう、みんな。大丈夫、大丈夫だ」
その声はカラ元気には聞こえず。その声に、妖精たちは安心したようで、わらわらわらわらとアルマンさんに集まり……イスごとひっくり返した。
ひっくり返ったまま、アルマンさんは楽しそうに声をあげて笑った。
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