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最終章
第731話
しおりを挟む「エミリアがナナシに狙われたのは、この廃国でのニアミスが原因か?」
ダイバの疑問はもっともだ。というか、普通はそう考える。
「ニアミスが判明したのはずっとあと。っていうか、私がこの世界に召喚されたときから異常だったんだよね」
一度追い出した私を尋常ではないくらいに探し回ってみたり。
「それは聖女様が無事を確認したかったから?」
「そのあとから。だって王都をでた可能性が高いと一度は判断された聖女を、異常なくらい探し回っていたでしょう?」
見つからないから、との理由で王都中にいる黒髪の女性を集めてひとりずつ鑑定しようとした。
「そこまで執着するのはどうしてだ?」
「聖女様を探すとの理由から」
「自分たちが追い出したのに、か?」
「ええ、そうよ」
ミリィさんは当時のことを思い出したのか、私を抱きしめる。その腕がかすかに震えているのは、あの当時の異常な執着を思い出したのだろうか。
「審神者っていう、異常な執着を見せていた人がいたの。あと、王都治療院っていう悪い集団も執着してきててね~」
ダイバは知っているから……目が据わっている。
「召喚魔法で連れ出された、メッチャ強力な牛肉詰め合わせがミリィさんやアルマンさんたちを殺そうとしてね~」
「あのときは、エミリアちゃんがいなかったら……私たちは死んでいたわ」
「ああ……全滅だった」
「緊急脱出は?」
「……そんなものはない。あるのは、決められた階層に設置された転移装置だけだ」
ダイバとミュレイは知らない。ほかの大陸のダンジョンが完全管理されていないことに。だから驚いた。初級者用のダンジョンがアントの巣となり、何十人もの冒険者が女王アントの餌食になったことを。そして……冒険者の行方不明調査の結果、兵隊アントによる被害は三桁を超すということを。
「冒険者は死と隣り合わせであり、その動向を管理すべきではない。その言葉どおり、行方不明になっても捜索されない。……そんなのおかしいでしょ」
冒険者にだって家族はいる。その家族がなぜ黙っているのか。
「不思議じゃないの? 夫が、父が、友人知人が、恋人が行方不明になって。なんで冒険者ギルドに依頼して、探してもらわないの?」
そう聞いたら、ダイバとミュレイが同意するように頷く。タグリシア国内では、ダンジョン都市以外の冒険者が行方不明になればギルドに依頼が入る。ダイバたちが都市の外で活動するのもそれが理由だ。
フィールドやダンジョンの捜索に慣れた人しかその依頼に参加できない。私もその捜索に参加することがある。主にダイバと聖魔が一緒のパーティを組んで。
ダンジョン都市の外は騰蛇の管轄外。ダンジョン都市以外のダンジョン経験が浅い冒険者では、捜索する側からされる側になってしまう。
しかし、ムルコルスタ大陸では冒険者の立場は低い。エイドニア王国で貴族による自滅から立場が高くなったことから、周辺国も冒険者に対する見方がかわったそうだ。
そして…………あの世界の崩壊を招いたナナシの事件。救援に来た冒険者たちによって復興の目処がたち。ほかの大陸の冒険者が見直され、ムルコルスタ大陸の冒険者たちがいい意味で見習うようになった…………「まだまだ」らしいけど。
「そうね。今までおかしいなんて思ったことはなかったわ」
ムルコルスタ大陸にとって、冒険者という職業はイレギュラーなのだろう。いや、神にとってということだろうか。
「もしかすると、冒険者はナナシか旧シメオン国の民が関わってるのかもね」
大陸を渡ることと根無し草な生活。それはまるで……
「流民のようだね」
私の言葉に、全員がハッとした表情で顔を上げた。
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