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最終章
第723話
しおりを挟む「それは当然でしょう? エミリア教に名を連ね、完全にナナシの信仰から離れたのです。両方を崇拝する者もいますが、エミリア教はそれを認めていません。ですから、エミリア教のみの信仰となり、過去の信仰は棄教という形になったのです」
ピピンが1枚の紙をアルマンさんに差し出す。入信の際に全員に書いてもらった誓約書だ。そこには『エミリア教のみを信仰します』の一文がある。……ただし、普通の文ではない。
「ここです。斜めにお読みください」
そう。普通の誓約書の文章なのに3行目の中央から斜めに平仮名を拾うと『えみりあきようのみをしんこうします』となる。
「気づいていようといなかろうと、誓約した以上は守ってもらうのは当然です」
「契約、ということか。エミリア教と俺との」
アルマンさんの驚きを含んだ言葉にピピンは『教祖の顔』で頷く。
「信徒アルマン。これからもエミリアを支持し、崇拝することを誓うか?」
「ああ、……はい。この生命尽きるまで。いや、この生命尽きてもなおエミリア教を信仰し、エミリアを支えることをここに誓います」
アルマンさんがピピンに誓うと、全身が白い光に包まれた。やさしい光。同時に、私の中からピピンに魔力が流れていく感覚を実感した。…………これがピピンのいう『エミリア教の加護』だろう。
「今 ここに誓約が重ね掛けされ、より強固なものとなりました」
ステータスを確認してみなさい。
ピピンに促されるようにステータスを開いたアルマンさんは、驚愕の表情をみせて絶句する。何が起きているのかわからないけど、それはけっしてアルマンさんにとって悪いことではないだろう。それは私がピピンを信じているからだ。
私の魔力をつかったこと。それを悪事に使うことはしない。それでも「……でも」と思う。事前に話してくれれば、と。
「エミリアに何も言わなかったのは、この方法は効果があると思いましたが現実的ではないと判断したからです。成功したのは、二重の誓約によってエミリアを強く意識したからです」
そう。ピピンは教祖としての立場で『エミリア教の加護』を使うことで、アルマンさんを傷つけずにナナシからの支配を打ち破ったのだ。
「これは、エミリア教に入信していないアルマンの家族には効かない方法です」
「入信させれば効くのか?」
「いいえ。それはムリでしょう。ですが、抑えることは可能です」
ピピンの言葉に含みを感じた。
「ねえ、ピピン」
私が呼びかけると「はい」と返事をする。その表情は柔らかく視線は優しい。ピピンはそんな表情を私に向けながら、私に敵意を向ける相手を殺戮することも厭わない。ピピンには殺さないことを約束させている。『相手を傷つけない』では私を守れないと、一歩も譲らなかったからだ。
「見事にとどめは刺していない。これからは地獄を生きることとなるけどな」
「それは自業自得です」
「もちろん分かっている」
ダイバも「殺るな」とは言わない。止めれば、妖精たちの報復が待っているからだ。
「罪になることは魔物の私がすればいい。魔物は罪を問われませんから。妖精たちを『闇堕ち』させたくありません」
ピピンは私が悲しむ、という理由から行動制限を自らにかけている。だからダイバはピピンに注意はするものの口を出さない。
イタズラ好きな妖精たちにも「それはピピンが許しているんだろうな?」と確認する。嘘をつけない妖精たちだ。許されていないことをすれば泣いて謝罪する。エミリア教の教祖の名を出されれば、妖精たちに勝ち目はない。
「俺は黙っているんだけどな。泣いて謝った妖精たちはそのままピピンの処へ行って謝罪するから、結局バレて叱られているぞ」
妖精たちもまた、ピピンが自分たちの罪を肩代わりする誓約を立てていることを知っている。だからこそ、自分たちの言動がピピンに迷惑をかけることを頗る嫌がる。
それでも……『エミリアのため』なら罪を犯すことをピピンは推奨する。魔人となってから、この世界の常識と神々の非常識を知った。その中に幾つかの抜け穴に気付いた。
そのひとつが宗教の成り立ち。
「信仰がその神の能力を上げるなら、エミリアを信仰させればエミリアの基礎体力があがり、神々より強い存在になると推考しました」
私がナナシと対峙したときに負けないよう、ピピンは考えてくれているのだ。
「それが……こんな風に解決するとは……」
アルマンさんがいうには、称号に含まれていた【旧シメオン国の血を受け継ぐ者】が消滅し、【エミリア教を信仰する者】が新たに加わったそうだ。
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