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最終章
第720話
しおりを挟む「まず最初に疑問に思ったのは、アルマンさんの立ち位置」
鉄壁の防衛内で、何の役職にもついていない。それでいて、特別に権限を持っている。
「隊員というより顧問に近い。私はそう思っていました。全員が交代でダンジョンに潜って魔物の討伐に行ってるけど、アルマンさんはいつも王都で待機組だったから。それなのに、ルーフォートやジャロームの一件。セイマールにヤスカ村も向かいました」
その違いは大きくひとつ。
「冒険者ギルドによる緊急クエスト。その場合、城門で行われている出入りチェックはスルーです」
「罰せられるような罪は犯していない」
「ええ、賞罰欄には。もちろん鑑定にも残らない内情でもありません」
「じゃあ、何が問題だったと思うのかな?」
「……失われし女神。旧シメオン国の出身で、移民後の棄教や衰退により流民を免れた人々の子孫。……違いますか?」
アルマンさんはちょっと目を開いたものの、すぐに目を細めた。
「やっぱり。エミリアちゃんは正しい答えにたどり着いたのだな」
やはり正解だったようです。
「冒険者になったのには大した理由はない。武器が使えて魔物に対峙しても怯えない。それだけでなれる職業だった。王太子という立場は、国を追われた身では一切役に立たないものだと知ったんだよ」
アルマンさんは昔を懐かしむようにポツポツと話をはじめました。
王太子というのは自国でのみ許された立場であり、知識も自国以外では通用しない。剣と一般常識、それ以外に世界に通用するものなどなかった。それでも、異腹とはいえ弟妹たちのために自分ができることは、不自由なく幸せな人生を送ってもらうこと。
弟妹たちがひとり、またひとりと巣立っていく。そして側妃たちもまた、我が子の旅立ちを見送ると、自身の新たな道を歩んでいく。最後は自身の妹。そして迎えた母の再婚。
「もうあなたの人生を歩んでいいのよ」
母にそう言われて気付いたら…………目標を見失っていた。
「冒険者も弟妹や母のために始めたこと。それ以外に、移民の自分にできる稼ぎ方はなかったからだ」
移民は身軽なため、就職しても長くいつかないこともある。災害や戦争、小さなトラブルがあったら、ほかの町や国に真っ先に避難してしまう。業績が悪化すれば商会や店から真っ先に首を切られ、逆に従業員もサッサと見捨てて退職を選択する。
だから、信用されない。重要な仕事は与えられない。その国でまだ信頼関係が築けていないから。
美味い話に飛び乗り、職場を裏切ることすら悪いことだと思わない。
「ルーフォートの冒険者ギルドにいたメルリみたいに、でしょう?」
メルリは周囲から向けられた親愛の情に気付かず。目算が含まれた偽りの愛情と温もりを追い求めた結果……家族を巻き込んで、大きな犯罪の一端を担ってしまった。
それに気付いたときはすでに手遅れになっていた。
「懐かしいですね。メルリは冒険者ギルドの受付嬢をしていたときに犯した情報漏洩の借金を間もなく返し終わるようだよ」
メルリの家族だけでなくルーフォートの冒険者ギルドの仲間たちも、メルリやその家族が負った借金を少しずつ返済していったそうだ。
「二度目の罪を止めることが出来なかった自分たちにも責任がある」
自宅謹慎は罰ではないことを知っていた。そして当の本人が情報漏洩に対しての罰は慰謝料だけだと勘違いしていても、間違いを指摘することも訂正もしなかった。
「メルリは家族とは別の場所にいるんだっけ?」
「家族とは二度と会うことはできない。信用を落とし、信頼を裏切った罪は重いからだ」
仕方がない。ギルドの受付嬢の職にありながら、私の個人情報を人身売買を取り扱っている貴族に渡してしまった。それも、二度も。
二度目は自宅謹慎を破ったことで、監視役だった家族まで罪を負わせてしまったのだから。
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