私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル

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最終章

第719話

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「改めて2人で話がある、と聞いたけど」

騰蛇の管理する地下、すでに地下神殿並みになったのは、ここには騰蛇が選別した罪人たちが集められているからだ。ただの洞窟……騰蛇の通り道やねぐらなんだけど、そこに罪人たちが住める場所を自分たちでつくらせた。どうやら、技術者をここで働かせることで、私たち地上に住人が地下に避難しても過ごしやすくするためのようだ。

その一画に建てられた建物の中で、私はアラクネに連れてこられた彼…………アルマンさんを待っていた。
アルマンさんの表情が魔物に対峙したとき同様、厳しくて固い。緊張感が周囲の空気を冬の凍てつく針のような寒さに変化する。

「誰にも聞かれたくなかったから」
「…………その様子では、全部を知っているんだね?」
「全部と言えるかどうかは分からないけど。ある程度、予想はしている」

その答え合わせをしたい。そう言った私にアルマンさんはいつもの優しい表情に戻り、周囲の張りつめた空気に暖かさが戻った。

「何が聞きたい?」
「まずは座って? それから私の話を聞いて? そして、間違った解釈をしているなら、その時点で訂正して?」

無機質な室内に不似合いなダイニングテーブルセット。イスは2脚だけで、ここには誰も同席しないことを示している。

「ダイバやコルデたちも連れて来ていないのかな?」

そう言いながら腰掛けるアルマンさんに緊張感はなく、いつもの態度を見せている。もしそれが虚栄心によるものだとしても、それを指摘する理由は私にはない。

「知っているのはだけ。ダイバたちには相談していないから。私の妖精たちを通して、ダンジョン都市シティ内に棲む妖精たちには伝わってるけど」
「騰蛇とアラクネには?」
「話してないよ。騰蛇にはこの場所を貸してくれるように頼んだだけ。アラクネにはここへ連れて来てくれるよう頼んだだけ」

いままでも、ここでダイバや妖精たちと話し合いをしている。地上では内容が分からなくても「何か話し合いをしていた」と知られるからだ。それはあらぬ疑いをかけられ、時には大きな騒動に発展することを、エイドニア王国にいた1年でよくわかったつもりだ。

そしてアルマンさんも。私と知り合ってからの日々で大きく考え方を変えたことは知っている。アクアとマリン、マーレンくんを冒険者として育てることで、それまでの考え方が変わったことも……ここ、ダンジョン都市シティに移り住んだ頃から見てきた。

「私は、出会った頃のアルマンさんも、いまここにいるアルマンさんも。信じているからね」
「…………そんな以前から気付かれていたとは」

苦笑するアルマンさんに、悲壮感も覚悟も見られない。ただ……その表情を例えるなら『つらそう』。その言葉が一番近いだろう。

「…………もう、肩の荷を下ろしても良いだろうか?」
「いいんじゃないですか? そんな過去の遺物ガラクタなんて、誰も拾おうとも思いませんよ」
「ガラクタ、か……。そうだな、その言葉が一番しっくりくる」
「古くても役に立つ知識なら貴重品です。ですが、信仰や思考に雁字搦めにされ、嗜好や志向の向上を邪魔するなら、それはゴミでしかありません。それを有り難がっていた人たちがすでに過去のモノなら、受け継いだ人が『いまの時代にそぐわない』との理由で下ろそうと、とやかく言われる筋はありません。欲しいという人がいたら喜んで押し付けちゃうのも、ひとつの手ですよ。それだって『次代に継承した』ことに変わりはありませんから。たとえ『大事なことを伝え忘れた』としても、それは継いだ人が苦労するだけで、アルマンさんが困ることではないと思いますよ」

それに、もう生まれた国セイマール国は消えたんだから。王太子時代に抱えたものも背負わされたものも、国と一緒に消えちゃっても大丈夫でしょう?

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