私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル

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最終章

第718話

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わるい子に属する竜人たちの未来には暗雲が立ち込めていた。仕方がないだろう。劣化版の竜たちが生まれ育った『竜人の里』はムルコルスタ大陸周辺の島にあり、いま彼らがいる島に近い。

待っているのだろうか? 「帰ってこい」という声を。「近くにいるなら、顔を見せにこい」なんていう優しい言葉を。

〈無理に決まっているだろう〉

火龍はそう言い捨てた。火龍は私が助けた暗竜の子の一件で、彼らの里とつながりができていた。それで分かったのは、竜の里では正しい歴史を教えていたらしい。

「竜から竜人に戻れなくなったからって、正しい歴史を自分に都合よくねじ曲げて思い込むなんて………バカなの? アホなの? 底なしのどアホなの? 救いようのない超弩級どきゅうのバカなの?」

それで「自分はだ」と…………

〈無礼だ〉
「無礼だよね」
《 底なしだよね 》
「救いようがないな」
《 救う必要はないよね 》
銀龍おかあさんをいじめて子どもたちまで殺して悪龍にして、死んだ黒龍お父さんの背を借りて住んでいたのに。龍と竜の大きさの違いもわかんないなんて。…………愚かだよね」
《 愚か者は救う価値なし! 》
《 異議なし! 》

ということで、火龍が竜人たちの里に住む一族に、愚か者たちが犯してきたこれまでの罪をことこまかく話してきた。

どこの一族も、自身の仲間たちが多くの国の繁栄と衰亡に関わり、数多あまたの生命を弄んできたことを聞いていきどおった。そして、ダイバたちの一族のように人との婚姻で血を薄くし、共存に成功していると聞いて

〈自分たちが、ほかの種族からは『劣化版』と呼ばれていることを知ってショックを受けておったわ〉
「それを言っているのはエミリアと妖精たちだけだ」

ガハハと笑う火龍に呆れた声でツッコむダイバ。ただ、これがきっかけとなって異種族間交流が始まるのもそう遠くはない。

〈ダンジョン都市シティなら差別も少ない〉

そう考えた火龍が、劣化版の竜人たち代表をプリクエン大陸に連れて来るのは数年後のこと。

その中で聖女わたしの存在を知って無理矢理襲おうとした若者たちが、激昂げっこうしたアゴールの鉄拳いちげきによって瀕死の重傷を負った。彼らは竜の姿でアゴールに向かったことで、火龍との再戦が出来ない鬱憤の溜まっていたアゴールの良き標的になった。
スッキリした表情のアゴールは心の広さをみせた。ストレス解消の立役者ほこさきになったことで生きて里へ帰ることが許された彼らが「彼女の強さは異種族の能力を引き継いだからだ」と伝えたことが、さらなる異種族との交流を進める結果となる。

…………そこにはピピンの思惑も含まれている。

「アゴールに倒された連中が目覚めて口にした水は普通の水じゃないだろう?」
「もちろん、私がつくった水ですよ。竜人でも効くことはシーズルで実証済みです」
「お前なあ……」
「エミリア教による世界征服へいわのため、ムダな争いを回避したまでです」

ダイバが頭を抱えてこの秘密を隠蔽するように、ピピンに言い聞かせた。

「ピピン、黙ってろよ。それが知られたら、利権目当てでエミリアが狙われるぞ」
「仕方がありませんね。それは得策ではありませんから。エミリアのために秘密裏に動きましょう」

ピピンが竜人(劣化版)一族を平和裏へいわりに手中に収めた……

「エミリア。私の、ではなくエミリア教の信者が増えただけです」

……だそうです。
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