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最終章
第703話
しおりを挟む枯草熱には魔女の花。
枯草熱とは日本では花粉症とも言われる。ではベラドンナは?
「鼻炎の薬に使われるんだよ」
ただし、含まれる成分は少量でも、副作用が発生することがある。
「強力な薬草なんですね」
「薬草ってね、さじ加減ひとつで薬にも毒にもなるんだよ」
適量を見誤れば生命を奪ってしまうのは、どんな薬でも同じだ。効果を強くする神の加護であっても、それが使用者の生命を奪うことはない。副作用を軽減して効果の持続時間が長くなる程度だ。だからと言って適当に調剤をしたら神の罰を受けて薬師の資格が剥奪される。
「ベラドンナって『美しい女性』って意味なんだよ」
何故そんな話をしているのか。
実はムルコルスタ大陸は緑の多い大陸である。そして……枯草熱が大陸病の第一位なのである。
「エミリアさんの調合した薬が枯草熱に一番効きます」
ほかの大陸から渡ってきた彼を含めた人たちは毎年枯草熱に悩まされてきた。それが大々的に問題となったのは、復興支援のためにムルコルスタ大陸に渡った冒険者たちの発症だった。
「これが枯草熱なのかー」
「いやあ、聞くのと体験するのでは大違いだ」
そう言いながら枯草熱の薬を口に含む。すぐに効果が現れ、涙も鼻水もクシャミも治まる。その効果は24時間持続する。
「特別製か?」
「エミリア製だ」
私は一部のレシピを表に出さない。個人にあわせた調合で出すからだ。本来、薬師とは個々の症状を直接確認して、その人にあった薬を調合する。調合に加える薬草によってはアレルギーを起こしたり強めの効能を発揮する。
原因は簡単だ、人間以外の種族もいるからだ。植物に耐性をもつ属性や種族の場合、効果が弱くなる。逆に植物の影響に弱い種族の場合、思ってもいない効果が出てしまうこともある。副作用をなくすには、直接確認してから調合した方がいいのだ。
私以外の薬師たちが公開しているものも含めて、表に出回っているレシピは日本で言うところの市販薬。
神の加護が与えられるのは、完全に新しい薬が出来たときのみ。古くからあるレシピに薬師が研究を重ねて使いやすく&のみやすくした場合は、本来のレシピから手を加えたものとしてレシピの登録ができてレシピの使用料がとれるものの、神からの加護はもらえない。
もちろん、安全性が認められなければレシピの登録もできない。
だから、私が次々に新レシピを登録して神の加護を与えられたことは、型通り化の作業をしていた調合師たちを活性化させた。同じく錬金師たちも、私が次々に発表した武器や魔導具、香水から入浴剤に至るレシピに触発された。
私がこの世界にきてから発表したレシピの数は多く、それに派生したレシピは各地で登録されるようになった。とはいえ、調合師は錬金師の中でも一番少ない業種。
「回復関係の薬は、その属性を持っている人や治療師や治癒師たちが魔法で治しちゃうからね」
「ですが、魔法も完璧ではありません」
「そりゃそうよ。回復魔法と治癒魔法は違うし、症状が違えば使う魔法も違う。治療師と治癒師も本来は違うんだから」
回復魔法は骨折などケガの治療、治癒魔法は腹痛など内臓の異常の治療。そのどちらも魔法で『ちょちょちょいのちょい』と一瞬で治すことは出来ない。ケガに関しては回復薬が存在する。切り傷や落下物による圧迫などの症状で分類されるため、調合がしやすいからだ。それらを調合した回復薬は、表のキズには患部にかける。身体の中……骨折や内臓に至ったキズにはのませて内部から回復させる。万能薬はその両方ともに効果がある。
「ただね、どんな薬でもリハビリは必要なの。『いやしの水』はその回復を手助けするけど……それができるのは内蔵のみ。ユージンさんの足やエリーさんの全身みたいな肉体の回復には…………効かない」
「それでも万能薬で生命を救われた連中は喜んでいますよ。特ランクの回復薬でも失われた肉体は戻りません。それがユージンの足はいま、松葉杖からステッキで歩けるまで回復しました。即死だったはずのエリーも、今は身体が起こせるまで回復しています」
エリーさんは肉体に魂が残っていたため助かったのです。王都に残っていた鉄壁の防衛の皆さんは、連絡のとれない仲間たちが最後にいた場所に向かって……被害を目撃したそうだ。
アクアとマリンが、かばってケガをしたユージンさんに回復薬をのませ続け、マーレンくんはエリーさんを探して外に行ったと知った彼が、行きつけの食堂に向かうと……事切れたオボロさんに縋りついて泣いてお礼を言う妊婦と子ども。そして瓦礫に首から下を押し潰されたエリーさんを見つけた。
「もう死んでいると思いつつ駆けつけたら、エリーはまだ息をしていた。たぶん妖精たちが俺たちについてきていたのだろう。その妖精たちの風の力か、大きな瓦礫をどけることができました」
万能薬を飲ませて身体を回復させたらしい。そこには水の妖精もいて助けてくれたのだろう、『意識のない相手に液体をのませられない』のだから。
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