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最終章
第699話
しおりを挟むシーズルのヤケドの一件はシーズル本人が「俺が石に近付きすぎて吹き出た汗が原因だ」と釈明したことで、妖精たちにお咎めはなかった。ダイバが振り上げたゲンコツはシーズルの頭に落とされたが…………
シーズルが身体を張ったことで「太陽の熱で熱せられた石は高温で危険」だと参加者に知らしめることができた。ある意味、怪我の功名といえよう。
そして現在、石のある場所でパーティやソロ、仲間など分かれて各自で昼食の準備中。妖精たちが見守っているものの、たまに近寄りすぎて熱波を吸って喉をいためている。ピピンが出すいやしの水(有料+お説教付き)で回復してからは及び腰になっている。その姿が、周囲の人たちに危険性を再認識させているけど……
「もう一度同じ失敗をした場合、棄教してもらいます」
そう教祖さまに脅されたからだとは流石に言えないだろう。
アゴールはあとの回でシーズルと交代で参加予定。コルデさんやアルマンさんが参加するときに一緒に参加するためだ。その次にミリィさんがルーバーと一緒に参加する。全日程に参加するのはダイバと私たちだけだ。
「私もぉぉぉ」
と言ったアゴールはその先を口にしなかった。別に誰かがなにか言った訳ではないし、「母親だろ、また子どもたちを放っておくつもりか」という注意を受けた訳でもない。
「エミリアさんが帰る場所になる」
ミリィさんと何か話し合ったそうで、今後は子どもたちがいるため後方支援……自宅待機で帰還パーティーの準備に回るそうだ。
「ダイバがエミリアさんと一緒に前線に出るなら、後方は私が守って前線にたつみんなをサポートする!」
この言葉にダイバが心配したものの、後方には騰蛇やキマイラ、神獣たちがいる。そしてまだピピンが操り水をのませたままで解除していない神々がいる。戦闘には神々がその身を差し出してでも守るだろう。
「というより、それが唯一この世界に赦しを請えるチャンスだと言い聞かせます」
ピピンのその言葉に「当然よ」とアゴールが同意した。
料理の不得手なアゴールが唯一できることが『私たちの無事を願い、私たちの帰る場所を守り、帰ってきた私たちを出迎えること』だと理解したダイバは「それがいいな」と頷いた。もちろん、バラクルのお母さんたちもアゴールを助けてくれるつもりでいるし、農園やダンジョン都市内の管理を受け持っている妖精たちも残していく。
死ぬ気はないけど、妖精がいなくなったからダンジョン都市の緑化が失われてまた荒れた大地に戻ったなんてなったらイヤだから。
「過去にこのプリクエン大陸から神や聖霊が去ったとき、大陸の生命力が大幅に奪われた。その前の神々同士の諍いで傷ついた自分たちを回復するために、大地の生命力を奪い取っていたというのに」
神々の自供からそれを知ったダイバは遠慮なく情報開示をしていく。そして人々はこう思った、「この大陸は見捨てられたのではなく滅ぼされかけたのだ」と。
滅びなかった理由が、神の眷属である騰蛇がこの大陸を見捨てなかったから。残された妖精たちが、この大陸を少しずつ回復させていたことも知られた。
廃国の内部を魔導具で記録し、世界に配られて各国で配信された。
プリクエン大陸の中で、封印されて人の手が加えられない廃国内の緑化が一番進んでいる。それを映像で知った全世界は、ルヴィアンカ経由で世界に発信された『神の自供』も相まって、一部の神に対する信仰の遠心力は一気に強まった。
ここで黙っていないのが『エミリア教』の信徒たち。
妖精たちが神ではなくただひとりの女性を信仰している、と知った上に、各国からそれこそ頭を下げてまで願い出て譲り受けた塔や像。それを管理しているのがエミリア教徒の妖精たちと知った。金色に輝く塔の中や像を信仰の象徴だと勘違いした人たちによる入信希望者が殺到したそうだけど…………教祖さまが認めた妖精たちが選別しているらしい。
「何を基本にしてるの?」
「罪人か否か、です。罪を償っていない罪人が純粋な気持ちで信仰するとは思えません。罪を償っている場合でも再犯していないかどうかです。『二度目は許さない』の教えに従っています」
妖精たちが入信拒否した人たちは最初の頃は暴れていたものの、すぐに大人しく引き下がったらしい。
「暴れた罪人には外の地面に首を出して埋めさせました。それでも騒ぐ場合、頭から花を咲かせました」
咲かせたアカンバナの種は回収してテントの倉庫に入れてありますよ。そう笑ったピピンだけど……
「連中をどこに埋めたの?」
「町や村の外です」
妖精たちが見張っているけど……。騒げば魔物が襲いにくる場所に埋めていれば、それに続こうという人はいなくなるというもの。
「信者の冒険者たちには喜ばれました。騒げば騒ぐだけ魔物が集まり、順調に討伐依頼も片付いたそうで、様々な寄進をいただきました」
そのほとんどはお金ではなく、薬草や輝石などのドロップアイテムだそうだ。ちなみにお金は受け取っても、その町や国にエミリア教名義で建設された孤児院経営に回している。
「たとえ信徒になれなくても、そこでエミリア教の教えに従い真面目に働けばいいのです」
その言葉に従って、信徒や信徒になれなかった人たちが孤児院経営に精を出している。
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