私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル

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最終章

第698話

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「はーい、ちゅうも~く」

よく晴れた日に、アラクネの金糸で包まれて騰蛇に廃国まで運ばれた合宿参加者は総勢100人。
内訳は冒険者70人、ダンジョン管理部30人。妖精……無限大。
馬車持ちは、各々の馬車に乗って。馬車がない冒険者は、ダンジョン管理部の馬車に同乗した。これなら人数無制限で運べるからだ。

「ここにカンカンと照り続けるお日さまの一方的な情熱を一身に受けたがございま~す」

縦30センチ、横100センチくらいで上部が真っ平らな石……崩れた建物の壁の一部を、教卓のようにみんなが取り囲む。

「さあ、この表面温度は熱いでしょうかー?」

私の言葉に参加者は隣同士で相談し合う。

「石だろ? 低いんじゃないか?」
「でもそれはレンガの場合だろう?」
「これは何処かからか切り出された岩、じゃないか?」
《 誰か触ってみるー? 》
《 熱かったらヤケドするよー? 》
《 じゃあ……シーズル、どうぞ!!! 》
「『どうぞ』じゃねえ!」

一斉に満面の笑みで「さあ、どうぞ」と妖精たちに促されて騒ぐシーズルは、私と同じく石のこちら側。周囲を警戒して私のそばにいる。

「シーズル……さわる?」

そう聞きながら水滴1滴をぽつん。石の表面に触れると同時に、ジュッと音を立てて白い蒸気が空へと向かう。
それだけで、この石の表面がどれだけ高温になっているのかを参加者全員が気付いたようで目を丸くしている。

「お前ら! こんなモンに触らせてようとするなっ!」
《 エミリア、ダメだよー 》
《 シーズルに触らせて、石によるヤケドがどれだけ酷いのか、分からせようとしたのにー 》

妖精たちがふくれっ面で私に苦情を言ってくる。

《 ほらほらー。シーズル、もう熱くないから触ってもいいよー 》

石に座って笑う妖精たちがシーズルに手招きする。

「ちょっと待たんか! お前らは火の妖精だろ! 熱く感じないのは当然だろうが!!!」
《 ちぇっ 》
《 バレちゃった 》
「お前らぁぁぁ!!!」

ふくれっ面の火の妖精たちに近付いたシーズルが怒る。石に近づいたことで噴き出した汗が石の上にいくつも落ちる。

「うわあ!」

一瞬で湧き上がる水蒸気。シーズルが慌てて石の上にいる妖精たちを両腕でかき集めて離れる。服が焼けたのだろう、腕が黒く焼けている。

「シーズル!」
「俺は大丈夫。それより妖精たちは……」
《 バカね。私たちは火の妖精よ。あんな熱でも大丈夫 》
「それでも水蒸気は水も含んでるでしょ。ピピンがみんなを守って、風の妖精たちが水蒸気からみんなを守ってくれたのよ」

水の妖精たちはここで行われてきた実験によって種族を減らした。生まれかわった場所によって、水の妖精から地の妖精か風の妖精に種族をかえたのだ。だからこそ、この国は地下水源が乏しく、飲み水は魔法で出すしかなかった。
ダンジョン都市シティでも水の妖精は少ない。その代わりに水属性のピピンが手を貸している。


《 ……ごめんなさい、やりすぎました 》
「火の妖精は後で反省会をします」
《 はい 》

ピピンに頭を下げる火の妖精たち。その中に私の火の妖精ひぃーちゃんがおらず、周囲を見回す。そんな私にリリンが寄り添う。

「エミリア、どうしたの?」
「ん……。ひぃーちゃんやみぃちゃんの姿が見えないから気になった。……みんなはどこ?」
「妖精たちはダイバや白虎と一緒に周辺の見回りに行ってます。今日はここに泊まりますから、安全確認のためです」

ピピンの言葉で私の不安に押しつぶされそうな心に気付いたのか。妖精たちが私に擦り寄る。くっつく。そして……妖精たちに潰された(重くないけど)。
シーズルの両腕のヤケドはピピンが回復させた。シーズルの負った両腕のヤケドも、竜人の彼には「痛いがこの程度なら大丈夫だ」とのこと。

「赤黒く爛れていたのに……やせ我慢ですか」
「あー、いや。見た目は酷そうに見えるけどな、焼けたのは表皮だから。そのうちに剥がれ落ちるさ」
「じゃあ回復させなければ脱皮しましたか?」
「ヘビじゃねえ! ってエミリア、脱皮した皮を財布に入れても金は増えねえからな! お前らも、治った皮膚を剥がそうとするなー! つまむなー!」

妖精たちがシーズルの両腕の皮膚をつまんで《 剥がすー? 》と聞いている。
シーズルはヤケドをさせたと落ち込む火の妖精たちを元気にさせるためにわざと騒いでいる。それにピピンも気付いているようでシーズルを揶揄っている。そんな周囲の様子に、落ち込んでいた火の妖精たちも元気を回復させて、一緒にシーズルの腕や頬を引っ張って笑い出した。
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