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第十二章
第690話
しおりを挟む話し合いは一方的だった。
ダイバが確認し、神が答える。神に発言権が与えられなかったのは、妖精の庭での失言があったからだ。
「神の善悪と私たちの考える善悪は違う」
そう言った私に神は誰も反論しなかった。……出来なかったというのが正しいだろうか。
神にとって『異世界召喚は罪ではない。たとえそのときに、聖女のいた世界で大きな災害が起きたとしても』という真理が働いている。
「そうね、人間の罪ではない。すべて神の罪よ!」
魅了の女神のキツい断言に神々は青ざめる。
彼女の立場は神の側だ。それが人間たちの……聖女の隣に座って、私の右手を握りしめている。
「ねえ、神の皆さん」
そう語りかけると胡乱げな様子で私に視線を向ける。途端に遠慮なく後方へ吹っ飛ばされた。
《 無礼者! 》
わざわざ魔法で強い日差しを避けて、水と風の合わせ魔法で涼しくして、机や椅子を用意して開かれている青空面談室。その恩恵を受けているにもかかわらず、私の正体を見極めようとして失敗した様子。そのため不審者を見るように向けられた視線に妖精たちが反応したようだ。
「おら、お前らこっちに来てろ」
《 だって、ダイバ! 》
「いちいち吹っ飛ばしていたら話が進まないだろ」
「みんな、あとで時間を与えるわ。そのときにまとめて仕返しして、ね?」
ダイバに諭され、魅了の女神に優しく提案されては従うしかない。妖精たちは黙ってダイバの後ろで壁になった。
「イス、片付けちゃったね」
「立っていればいいわ。立つのがイヤなら正座していなさい」
魅了の女神が言ったとおり、神々は地面に正座する。背を丸めて俯いているその姿を見てもなんとも思わない。
『ザマアミロ』とも『惨めだなぁ』とも『かわいそうだ』とも思わない……目の前の神々に、わずかな関心すら心に湧いてこない。
「それでいいのよ」
魅了の女神が、握っている私の右手を優しく握りしめた。その周りにいる私の妖精たちが手を重ねる。子虎の姿になって足下にいる白虎、スライムに戻って両肩に分かれて乗っているピピンとリリンも私に擦り寄る。
隣に座るダイバが、そっと私の左手首に通した純銀の腕輪に触れた。以前シーズルから(強制的に)譲り受けたブレスレットに付けられていた宝石ひとつひとつに、アゴールやコルデさん、アルマンさんやフィムたちの魔力が込められて腕輪の飾りとして私に勇気をくれている。……ノーマンの魔力が込められた宝石もある。
左に目を向けると、少し離れて記録を残しているメッシュと目が合った。黙って頷いてくれたその目と耳は、4つ子のフィーメやフォッシュ、スーキィと情報共有をしている。
それはダンジョン都市に残るみんなにも届いているのだろう。
そして、一歩的な話し合いが始まった。
この大陸を放棄したバカげた理由から、ナナシに関することを余すことなく包み隠さず。もちろん、居場所も教えてくれた。
「……そう、ナナシはムルコルスタ大陸にいるのね。それも、不死人になったあのクズに取り憑いた」
いまはムルコルスタ大陸に封印された自分の魔力を取り戻すため、どこかの国にあるはずの水晶を探しているらしい。
「どこかもクソも、ここにあるんだけど?」
「そうなると、ムルコルスタ大陸にはあとひとつ封印があるということか」
ダイバの言葉に顔色を変えたのは神々の方だった。
「なぜ、それを!」
「なぜ? そんなの、普通に考えればわかることよ。ムルコルスタ大陸は北の廃国でしょ」
「人が近寄れないということは封印を意味している。この大陸はコルスターナの湿地帯だ。それも元は『聖魔師と水の妖精の伝説』で滅んだ領地」
「……どこまで知っている」
「教える必要はないね」
神の態度にカチンときた私はケンカを売るように突っぱねる。それに同調したのは魅了の女神だった。
「ええ、教えなくていいわ。あなたたちはエミリアやダイバたちを見下していたのよね? だから、当たり障りのない内容しか話していないのよね」
「ナナシの居場所以外は予想してたことだもんね」
「全部当たっていたな」
私たちの言葉に妖精たちが無言で首を縦に振る。神は自分たちの方が優位に立ったつもりでいたのだろう。しかし、その内容はダイバをはじめとした仲間たちと話し合っていたことが正解かどうかを確認しただけにすぎなかった。
それは前触れもなく起きた。突然メッシュの周りに結界のような不透明な壁が現れて、彼をは閉じ込められたのだ。
原因は神。連中は一時的にメッシュを封じた。その理由が……
「「聞かせたくない内容がしたいなら先にそう言わんかぁぁぁいっっっ!!!」」
私とダイバが怒鳴ると同時に暗の妖精が重力魔法で神々を地面に深く埋め、地の妖精たちが土をかぶせて埋めた。そしてその上に落ち葉が乗せられると火龍が火を噴いた。
《 どうせ殺そうとしても死なないんだから! 》
それまで我慢していたみんなの堪忍袋の緒が切れた。
「…………どうする? これ」
「みんなの好きにさせましょう。こうなることを分かった上で話し合いを求めたんだから」
魅了の女神は最初から助ける気はない。
《 やっき芋、やっき芋♪ 》
《 今日は美味しい焼き芋パーティー 》
《 火種は神♪ 火種も神♪ 》
「火種は神 ♪ 無能な神 ♪」
妖精たちが楽しそうに、この世界のさつま芋(日本のより甘い)に濡らしたキッチンペーパーを巻いてからアルミホイルに包んでいく。それに魅了の女神も一緒になって作業している。
「たしかに、ある意味火種にはなったな」
「争いの火種に、ね」
《 エミリア~! ニンジンをちょうだ~い 》
《 エミリア~! ジャガイモもちょうだ~い 》
「エミリア~! あとでバターもちょうだ~い」
しっかり妖精たちに加わっている魅了の女神は楽しそうだ。もちろん管理者は人形に戻ったピピン、補佐はリリン。白虎は私を守るように膝抱っこ中だ。
「これで話し合いは終わってもいいのかな?」
「すでにパーティーの準備に入ったからな。まだ話したいことがあるなら、もうちょっと人間の常識とマナーを身につけてから来いって」
ダイバの言葉に騰蛇が小さく揺れて同意した。
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