私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル

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第十二章

第687話

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ダイバが報告会にいるとき、アゴールは隊の部下たちと午前に行われた巡回の報告書を作成している。同行していた妖精たちが宙から確認した修理が必要な箇所を教えてもらい、それに緊急性から修理の順番を決めるらしい。あの屋根で掃除しているのも、砂の蓄積で天井がいたむのを防ぐためだ。

《 いつもなら風の妖精たちが砂を飛ばしていたけどね。ときどき屋根の修理が必要な家もあるから、だったら職員の罰で肉体労働をさせればいいかなーって 》

屋根の大半は木で出来ている。一枚のベニヤ板ではなく、厚さのある木材を段々に重ねるタイプ。板のように薄いと腐食してしまうから、だそうだ。強度は付与魔法で硬化させているため、砂が何トンも乗っても問題はないらしい。

「修理のために何人も乗るからな」
「妖精たちも屋根に飛ばすし」
「ダイバも大玉に入れられて弾んでいったな」

屋根は区画ごとに職人が付与魔法を掛け直している。10年で一周し、200年前からは強度と防汚が使われている。

「防腐の付与魔法は使った時期もあったらしい。しかし、木材は経年劣化すれば色合いが落ち着いて味が出る。職人にとって長年使い続けられたその変色は栄誉あることなんだ」

大事にされているからこそ変わる色。それは物であれ、建物であれ、使い続けられれば色が変わる。ただ、そこに生まれるはずの神はいない。

「この世界にはさ、付喪神つくもがみっていないよね」

たとえ世界が変わろうと、物を大切にする気持ちが変わるものではない。それなのに……付喪神が生まれたという話を聞いたことはない。

ダイバに確認したことがある。おじいちゃんにも聞いたが、この世界に付喪神と言う存在はいないという。

「私……ひとりだけ知ってるんだ」
「付喪神をか?」
「うん。……彼もまた、この世界にたったひとり。仲間もいないこの世界で、ひとりぼっちだったんだ」

彼がこの世界にきたのは『聖女の召喚』が理由だろう。彼もまたエイドニア王国の召喚による犠牲者だ。

「私が気づいているのをたぶん知ってる。でも……私も彼も当時は正体を隠していたから、そんな話はひと言もしていない」

でも、できる限りの協力をしてくれた。ううん、今もなお私を支えてくれている。そして互いに周囲と馴染んで生きている。これからもこの関係は続くだろう。

「その付喪神とはいったい……?」

ダイバの言葉に私は左右に顔を振る。本人が明かしていない以上、私から明かすことはしない。
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