私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル

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第十二章

第683話

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避難民の肩書きを使いエイドニア王国から正式に国替えを果たしたユーリカは、次の仕事を探す際にダンジョン管理部から面談を受けていた。すでに冒険者ギルドから打診オファーがきていたのだ。私が巻き込まれた職人ギルドと商人ギルドの一件以降は冒険者ギルドも含めて庁舎預かりとなった。そのため、打診も庁舎が受けての訪問だった。

「どこのギルドでもおんなじなんですね」

職人ギルドと商人ギルドの愚行と庁舎預かりの処分を聞いたユーリカはそう苦笑した。

「ユーリカさんが所属していたギルドでも似たことが起きたのですか?」
「似たことと言いましょうか……エミリアさんが冒険者登録に来られた際に」

ユーリカは私がはじめて冒険者ギルドに来た日のことを懐かしそうに話し出す。ミリィさんの武勇伝も。

あれからすでに10年はち、私を取り囲む状況も大きく変わった。当時と外見が変わらないのは、魔素を体内に取り込んだことにより寿命が伸びたためだ。100歳まではこのまま成長しないらしい。

そして新しく家族が増えた。聖魔たちとダイバたち、そしてミリィさんもフーリさんに家族認定されて本当の『お姉ちゃん』になった。フィムたち甥っ子や姪っ子もできて、本当にシアワセだと笑顔でいえる。


「そういえば、あのときの冒険者たちってどうなったの?」

アント騒動や大地の迷宮に水の迷宮、何より『黒髪の女性捜索騒動をさがせ』で情報が一切入らなかった。何より情報部のように情報を一括管理する部署もなかったため、処分などの情報は守備隊で止まり公開されることはなかった。

「半数は二度目ということで冒険者の称号を剥奪されました。エミリアさんに手を出そうとした男はミリィ隊長たちに追い回されて、女性たちからも徹底的に異性に対して性根しょうこん尽き果てたようです」
「じゃあ男に走った?」
「…………エミリア、そこで目を輝かせるな」

私の様子にダイバが苦笑する。別にBLが好きというわけではないし、この世界に同性愛や異性愛に異種族愛など当然のようにある。……女性同士の恋愛がないのは恋愛より友愛、母性愛の方が強いかららしい。

「兄さん……その男はエミリアさんのお尻を撫でようとしたのよ。それに全員でエミリアさんを襲おうとしていたの」
「ほおー」

ダイバの目が据わっている。話を聞いていたコルデさんやアルマンさんの目も据わり、アゴールの目には殺気が含まれている。

《 ダイバ。その男、八つ裂きにしてきていい? 》
「私も一発ぶん殴ってきていいかしら?」

風の妖精ふうちゃんの言葉にアゴールが続く。ダイバはチラリと目を向けただけで止めようとはしない。

「残念ながら……。投薬実験の被験者となり、3年前に狂死きょうししました。遺体は魔物を誘き寄せる撒き餌となり、8体のオークを討伐することができました」
「狂死って……錯乱しての死、だろう? そのような最期を迎えるとは……何があったんだ?」

アルマンさんが驚きの声をあげる。薬師やくしの立場から考えても投薬の副作用で錯乱状態はあり得ない。

「投薬ではなく薬草そのものを口にした? でも、錯乱させる効能を持った薬草はない。ってことは……毒草を煎じた薬湯を飲ませた? そういえば……アレは研究に使われてもおかしくはない」
「エミリアさん、何か心当たりがありますか?」
「真っ先に思い当たる植物ものなら。毒草ではないけど魔花まかブルグマンシア。別名をエンジェル・トランペット」

私の言葉に周囲が口々に「知ってるか?」「いや、知らない」などと話し合っている。知らないのも当然だ。国によっては厳重に管理されているのだから。

「エミリア。その魔花はどんなものだ?」
「…………樹液、花や葉っぱにも毒がある。そのため『さわるな、危険!』と言われている。私がいた世界では、ね。直接でも手を経由してでも、目に入れば失明するよ」

「ヒィ!」と小さな悲鳴があがる。そんな危険性の高い植物が存在するのだ。

「普通は国が管理していて出回っていない、はずだよ」
「そんな危険なものを何故……」
「ユーリカ。エミリアは可能性のある植物の名をあげただけで、その魔花が使われたとは言っていない」

ダイバが注意を促すとユーリカもそれに気付いて「あっ!」と小さく声をあげる。そして勝手に使われた植物だと誤解してしまったことを謝罪して頭を下げた。

「国が管理しているはずだと聞いたのに……もしそれが実際に使われたとなったら国の管理問題にもなりますね」

ダイバは私が何かを隠していることに気付いていた。それを口外したくないことも。そのため、伏せた部分は後でダイバにだけは説明した。

「エンジェル・トランペットは……花言葉に『偽りの魅力』というものがある」

それだけでダイバには十分だった。

「魅了に関する薬がつくれるという訳か」
「『恋に溺れる』などという異常愛は錯乱と同じだよね」

スウッとダイバの表情が凍る。ある問題の裏が見えたのだろう。

「解毒剤はつくれるか?」
「もちろん。……レシピは公開していないからね」
「それでいい。……しかし、そんな危険な花が存在するとは」
「だからなんだよ」

人の精神を惑わす効能を持つ花は魔花とよばれる。それらすべてのルートを遡っていくと、とある花にたどり着く。マーシェリさんだ。
エイドニア王国にある水の迷宮、その34階でたくさんの冒険者や魔物の生命で育てられたマーシェリさんの花。

「マーシェリさんがどんな花なのか、詳しいことは知らないけど……。『世界に一輪しか存在しない花』を誰がくだんの組織に渡したのか」
「それにナナシが関わっているとすれば、マーシェリは魅了に関する花だということだな」

私たちの机上の空論を裏付ける方法はない。しかし、予測を立てることはできるだろう。それが最善の道につうじていると信じて。
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